これまでに山下が取り組んできた罔両画(もうりょうが)の作品の中から、《松風》 《松風(弐)》 《須磨》 《玄象》 の4点を新たに描き下ろします。極度に薄い墨と僅かな筆致で描かれた罔両画は、狩野派をはじめ、長谷川等伯、俵屋宗達など、日本の水墨画史上に多大な影響を与えたものです。和紙の上の消え入りそうな画は、自然の風景がそうであるように、外光の変化に応じてその在り方を変容させます。
ロット:1
販売価格:¥440,000(税・送料込み)
罔両画(もうりょうが)の作品の中から、《松風》 《松風(弐)》 《須磨》 《玄象》 の4点の作品をお届けします。
現行のサイズ300×985㎜とは異なり、300×480㎜のサイズであらたに描き下ろします。
*参考画像の作品はすべて300×985㎜のサイズです。表記は本紙サイズで裏打紙や額のサイズを含んでいません。画像のシートのサイズは本紙サイズ+縦横100~150㎜程あります。
─罔両画(もうりょうが) ─
罔両画(Ghost style painting)は、中国南宋時代に禅僧の余技として生まれた絵画のひとつであり、極度に薄い墨と僅かな筆致で描かれた消え入るような見え方から罔両(魑魅魍魎、精霊)と名付けられるものです。罔両画やその系譜にある牧谿(もっけい/生没年不詳。13世紀後半、中国南宋末元初の僧)の作品は、室町時代の足利将軍のコレクションである東山御物に多く所蔵されるなど、狩野派をはじめ、長谷川等伯、俵屋宗達など、日本の水墨画史上に多大な影響をあたえたものですが、以降600年に渡って主に取り組む作家はいないとされています。私は罔両画を『「幽玄」や「余白」といった日本の美意識を感じることが出来るものであり、東アジアや日本美術史、室町文化やその美意識を再考するうえで、とても重要な絵画』と考え、水や素材の持つ性質や現象を活用して描くオリジナル技法へと展開しています。
日本、中国の古典絵画の模写と文化財修復で培った技術と経験をもとに、日本の歴史、文化、思想を顧みながら、伝統芸術と現代芸術を捉えなおすことを主眼に作品、絵画を制作する。
|
─[m@p]について
封筒で、4回に分けて時間をおいて届くというプロセスが、展覧会とは違ったかたちであり、アーティスト側としても、それを体験する側としても、ひとつの体験として面白いですよね。封筒が届いて、それを開けて、手にしてみるという一連の動きがあり、そこに3ヶ月おきという時間軸もある。そういった流れの中で何ができるのかということは、今のような状況下での一つの興味深い取り組みだと思います。 ただ、難しいと思うこともありましたね。買うとしても実物を見ることができない、言ってみれば先行投資です。作品のひとつひとつの値段で考えるとお得感はあるけれど、見てもいないものを買うというリスクがあります。ただ、私は、ものを買うということだけではなくて、その体験を買うというように捉えたいと思っています。だから、何かそういった体験、手に取れるというサイズやその小ささということが、プランを考える上でのポイントにはなりましたね。
─ サイズを制限と感じられる作家もいらっしゃいましたが、その点はいかがですか?
私はどちらかというと制限や制約は、それを機に「では何をしよう」といろんなものを結びつけていくので。むしろこういう条件がある中で何ができるかを楽しんでいます。
─ スタンダードプランにある「古筆切」というのは?
古筆切はコレクターアイテムとも言えるかもしれません。いわゆる書や手紙を鑑賞するというのがありますよね。昔の人は、「古筆切帖」というように折本に貼り付けて楽しんでいたんです。「切」とあるように、切断されたものなので数も限られています。例えば元々巻物だったものやお経の中の数行を切り取ったものです。字を読むというよりは文字を鑑賞したり、様々な技法で装飾が施された紙を見て楽しむというもので、掛け軸にするなど、様々な種類があります。
─ 書かれている文字の意味などに重点を置くわけではなく、視覚的なものや手触りといったものを楽しむものですか?
だいたいは数が限られているので、例えば「ここの文字や文章の内容がいい」と選ぶことができる人は幸運なのではないでしょうか。文字を読むのではなく見て楽しむ、そして料紙装飾など美しいものがたくさんあるので、単に文字を愛でるというよりは、文字と紙の装飾技法やその組み合わせを楽しむものでもあります。
─ 今回は光をテーマとした「光筆切」というシリーズです。
普段の作品でも、影や光をモチーフとして描いているということもあれば、現象的に生かすこともあります。元々コロナ以前から光というテーマを扱いたいと思っていたこともあります。
ポストに投函されるというプロジェクトなので、ふと和歌を送るとか、かな書や料紙装飾のことを思い起こしたんです。昔の人は、かな書で和歌を書いて送るということをやっていたので。 そこから、サイズの小ささも含めて、美しい紙が送られてくるというのがいいなと思ったんですよね。通常の展覧会での鑑賞だと壁にかけてある作品をみることになりますが、[m@p]の場合は手に持ってみるという鑑賞体験なので、封筒を開けて、開いた時に、そこにふわっと光が入ったりする、そういった行為や時間をイメージしながら考えました。
そして、4回に分けて、それぞれ違うタイプの光を描こうと思いました。初回は「世以書」です。これは聖書を万葉仮名で書いています。旧約聖書の天地創造の場面は冒頭の「光あれ」という言葉が有名ですよね。初回なので、その始まりをモチーフにしました。料紙装飾をする際、モチーフとしては平家納経などの装飾経を参考にしたんですけど、平家納経はいわゆる仏教ですが、今回は文章の内容がキリスト教。一生懸命書いているうちに隠れキリシタンのような気持ちになりましたね。以前、興味があって調べていたこともあり、隠れキリシタンの美術、例えば仏像の裏を見るとキリスト像があるといったものなどを思い起こしていました。
2回目以降は、光というテーマは変わりませんが、別のモチーフになります。使う素材も色合いも変わります。宗教的な光の世界から続いていく中でもう少し日常の中にある光であるとか、光自体も表現として変化していきます。料紙装飾技法を起点としていますが、文字や書画という題材は、自分の取り組みの中でも気になっているので、小さいサイズの中ですがいろいろと展開していきたいと考えています。
作品にまつわるテキストも時差をつくって、回をずらして送ります。私の作品は背景に様々な日本美術のコンテクストを含めているのですが、情報で人はものを見たり判断したりするので同時に送らず、しばらく見て「これなんだろうな」というように向き合ったりぼーっとみたり考えたり触ったりしていただきたいですね。触れるというのが今回のプロジェクトの良さだと思いますし、手のひらサイズなので色々な角度で、色々な光のもとでみると表情も変化します。手のうちに作品があるという体験と状況がいいなと思っています。日本画は複合的なマテリアルがあるので、光や影の状況で見え方が変化します。初回のものも金銀泥や箔を使っているので、文字が前に出てきたり、絵が前に出てきたり、状況によって変化します。そういった楽しみ方もできますよね。触覚的なものやマテリアルは画像だとなかなか伝わりにくく難しいところもありますが、距離が発生することも、[m@p]のひとつの特徴だと思います。
─ プレミアムについては罔両画の作品ですが、既存の作品ではなく描き下ろしになるのですね。
そうです。使っている紙の素材はいつもと同じ手漉きの紙ですが、それを4分割したサイズで描きます。その経験があまりなくて実は難しくもあります。いつも余白の質を考えているので、余白が狭まってくると。どういうものをつくるかが大きく変わりますね。
4点とも自分が住んでいる地域の須磨を舞台とする能の世界、古典文学がひとつのモチーフになっています。ただ、古典の世界でありながら、今僕が日常で生活している世界とつながっています。それぞれのシリーズは何回もモチーフとして描いていますが、その時その時の体験を経たり、ものの感じ方や見え方が変わると、空間や線や色々なことが変化していくんです。 今こういう状況になって外に出られない時に、近くの海であるとか、まさにそのモチーフでもある v風景を散歩する時間がいつもより多くなるんですが、そういった中で海を見ていても違う気持ちが起こってきます。ですので、古典の世界と自分の日常を反映する景色だと思っているんですよ。
今この時期に描き下ろすので、4点まとめて持つことでつながってくる景色や見えてくるものも多いと思います。また4点ですので、春夏秋冬といった季節もめぐるようになっています。
実物は、日によって、ものすごく見える日と今日は全然見えない日というのがあると思います。こんなところに線があったかなと思う時もあると思います。スタジオだと日中は自然光で見ているので、どんどん変化します。同じように見えることはほぼないですね。見方がひらかれているというか、その時々で気になるところの見え方が変わってくるというか。光の状況や見る距離で変化するので、家の中でもどのような状況で見るかによって全然違うと思います。楽しみですね。
─ 気になる作家について
林葵衣さんは、購入者と制作者がやりとりをするという、この企画でないとなかなかできないことを考えていることと、この非接触・ソーシャルディスタンスという時代に、接触型の作品を送るということが面白いなと思いました。あとは来田広大さん。外出自粛中に山や海に行っていたこともあり、山に登った体験をどういうふうにアウトプットするのかというのは個人的には興味深いですね。[m@p]の面白さのひとつに、購入者との関係が1年に渡って繋がっていることがあると思います。お二人とも、移動や接触という今難しいことがテーマになっているというのが面白いですね。