ロット:1
販売価格:¥220,000(税・送料込み)
「スタンダード」と同じく、《避雷針と顛末》のアートブックを4回に分けてお送りします。
「プレミアム」では、展示作品により近い素材やサイズで制作します。
Gesture of Rallyシリーズについて
写真を見るとき、わたしたちは大抵そこに写っている被写体についての話をしようとする。
これは昨日食べたお肉、これは東京に住んでる従兄弟、これは瀬戸内の海で…
写真と被写体は密着していて、写真そのものを見ることは困難なのである。
写真は、写されたものが過去の現実に確実に存在していたことを証明する。
したがって、被写体は、必ず現実のものでなければならない。
写真に手を加え、イメージを変容させることが可能であることは、現代においては周知のことではあるが、わたしは上述の写真固有の特性を全面的に引き受けて、下記のような試みを始めることにした。
古本に載っている写真に写り込んだ、正体不明の物体を指さし「これは何か?」という問いを立てる。
実在したはずなのに断定できない「これ」を言い当てようと、情報を集め、推理していく。
撮影された時代や場所を調べ、「これ」の色や形を観察し、似ているものを探す。
しかし、「これ」に対する情報がどれほど積み重なっても、答えに辿り着くことは結局ない。
そこで立ち現れるのは、問いに対する問いである。
「これ」とはなにか?
「これは何か?」とはなにか?
写真とはなにか?
一つの問いに無数の答えの可能性があるのではなく、問い自体に複数の意味が含まれていることに気付いたとき、それまでの問答は空転する。
わたしは「何か」を解明しようとする素振りの傍らで、「これ」と指差す先をじっと見つめながら、問いを反芻し続けているのである。
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─ [m@p]について
ギャラリーでの展覧会ができなくなった中で、できることからやっていくのはすごく良いと思いました。
作家も今まで通りのやり方だけでは行き詰まったりすることもあるので、違うアプローチができる良い機会をもらったと思います。
─ プランを考えるきっかけについて
枠組みが決まっている中で、どうやってやろうかと考えたのですが、私自身は封筒というサイズや、ポストに入れるという点よりは4回にわけて徐々に届くというところに着目しました。 一番最近の作品もそうですし、それまでにずっとつくっていたシリーズ「Gesture of Rally」(ラリーの身振り)もそうですが、ひとつ決めたものごとを色々と調べて検証していくという流れがあるので、インスタレーション形式で展示する時も、見ていくと徐々に明らかになっていくという流れで展示しています。なのでページによって順番がつくれる本の形式が合うのではないかと思いました。 そこで、作品を再解釈し、本という形式を借りて4回に分けて徐々に展示するというプランを考え始めました。それによって購入者の方にもひとつの物事への検証結果が段階的に届くというような。
─ スタンダードプランについて
《避雷針と顛末》という作品をベースにしたアートブックです。毎回、ページが少しずつ送られてきます。3ヶ月ごとに届くので、届いていない期間も、半強制的に本の中で謎とされていることを考え続けなければいけないというのも、このシステムと作品が合うところだなと思っています。
─ その作品を展示した展覧会は、昨年の個展ですよね。
2020年の夏に広島市現代美術館で個展をしました(「夏のオープンラボ:澤田華 360°の迂回」展)。 その展覧会の枠自体が「オープンラボ」という実験的な枠組みだったので、作品も最近ずっと作っていた「Gesture of Rally」というシリーズではなくて、少し違う作品にチャレンジしようと、新しい作品を作りました。 ただ、やっていることは同じで、いろんなメディアで調べていきます。そこで扱っているものは、今までの写真とは違っていて、人の会話を盗み聞きして断片的にメモしたものがもとになっています。 そこに書かれている言葉は会話として成立していないのですが、そのメモに出てくるフレーズも前から気になっていて、そのメモをどうにかできないかと思い、作品をつくってみることにしました。
─ 会話のメモは今までとっていたものですか?
そうですね。3~4年前にやり始めて、一度それを使って作品をつくったこともあります。それがプロトタイプ的なものとしてあって、その時つくった作品と「Gesture of Rally」を合体させたハイブリッド版が広島での作品です。 メモは今でもたまにしていて、最初は家の中で家族の会話を書いていたのですが、今は例えば喫茶店で大きな声で話している人の会話や、家にいる時に聞こえてくる家の外で大きな声で喋っている人の会話をメモしています。要するに、少し騒がしいなと思う時です。騒がしいのでそれほど聞きたいたいわけではないけれど、耳をふさぐとか場所を変えるとかではなくあえて向き合ってメモしてみようということでやり始めました。
─ そこからどんな作品になっていったのですか。
残されたメモの言葉をインターネットで調べたり、Twitterで同じような会話をしている人を探してみたりしました。それと、会話のメモを何人かの人に渡して、歯抜けになっている会話、実際は歯抜けかどうかもわからないですが、その会話の間を想像してもらったり、そのメモが書かれた状況とか、どういう人が喋っていたとかを想像して書き足してもらうということをしてもらいました。 展覧会ではその文章を台本にして、役者さんに演じてもらい、それを動画で撮影しました。さらにその映像の音声を聞きながら、私がもう一度メモをとり直しました。その元となっている文章と全く同じものをもう一度、動画に合わせて書き直していきました。
─ 今回のアートブックは作品の記録集とは異なるものですね。
記録写真を使っていないので記録集ではないです。広島では実際の空間に展示されているけれど、その作品がもし本という形式の中で成立するとしたらどういうふうに構成されるかを考えてつくっています。実際の展示では、「こう見てほしい」とか「こう歩いてほしい」といったような人の動線を考えるというのが、本だとやりやすいと感じています。 アートブックのミニ写真集(生写真)もつけることにしました。今回、ページ番号を入れていないのですが、そうすると重なり順がわからなくなるので、写真を見てわかるように。
─ プレミアムについて
スタンダードはサイズの制限があって少し苦労したので、プレミアムでは、本来このサイズ感がいいなというものをつくることができたらと考えています。素材も、スタンダードはレーザープリントとインクジェットプリントが中心ですが、もう少し紙の質などもこだわりたいと思っています。
─ 他の作家のプランについて
麥生田兵吾さんの「めくれない」写真集というのは気になります。情報もあまりないので余計に。 1stの人と3rdの人とはスタンスが違うかもしれませんね。1stが出た時(2020年夏)の状況では、まず人とのコミュニケーションに焦点をあてる人が多かったのでは、と思っています。