Gallery PARC[ グランマーブル ギャラリー・パルク ]では、ジャンル・形式を問わず幅広いクリエイターから展覧会プランを公募し、採択されたプランを展覧会として実施する「 Gallery PARC Art Competition 2020 」を開催いたします。2014年より毎年開催し、今回で7回目を迎える本コンペティションでも、2階・3階・4階の3フロアに渡る展示空間を持つPARCの特性を活かしたプランを広く公募いたします。ご応募いただいたプランから審査により1名(組)を 【 全展示空間( 3フロア )を使用した展覧会 】 として、2名(組)を 【 2階/4階のいずれかの展示空間( 1フロア )を使用した展覧会( 2つの展覧会の同時開催 ) 】 として採択し、2020年7月 ~8月の期間中、会期を連続して開催いたします。
*なお、応募資料の郵送・直接の返却は3月半ばよりおこないます。
7年目となる本年は、過去最高となる80件のプランが集まりました。例年以上に予備審査、長時間の本審査を経て、宮原野乃実氏、鯨虎じょう氏、粟坂萌子氏のプランを選出しました。
近年の傾向として、大学(院)卒業・修了後から数年以内の若手作家の応募が増加し、応募者の年齢が若返っています。プレゼンテーションスキルに慣れた若い世代らしく、写真やテキスト、デザインまで含めて完成度の高いファイルが多く、どれも見応えがありました。
一方、応募書類のなかには「展覧会コンセプトやテーマ」欄に人生観や芸術観、学歴や賞歴など自己アピールを綴る応募者もいました。言うまでもなく、本プランの応募書類は就職活動のエントリーシートではありません。実際にプランを遂行するのは人ですが、本公募で審査するのは展覧会プランです。
審査にあたっては、計画性も求められますが、プランの「コンセプトやテーマ」とどのように出会い、作家の思考や作品を変容させるのかにも注意しながらファイルを見ていきました。
結果、今年の入選プランはいずれも極めて個人的な問題や関心を基点としながら、「私」と主題に距離感があり、観客が同じ問いを共有できるプランでした。歴史や他者(動物)、土とのつながりや喪失、変容の経験を再構築、回復、再生(転生)、還元することで、私たちの「世界観」を揺さぶる創造的な内容でした。プランの実現を楽しみにしています。
宮原野乃実「足跡を追いかけながら現在地を思い出す」
全会場を使用する本プランは、日本の近現代史と「私」の存在が過去の歴史や出来事とどう繋がっているのかを具体的なリサーチをもとに想像的に探究・制作するプランでした。ともすると学術的なアーカイブ展示を想像しますが、宮原さんの作品には、オブジェから最新作となる映像《砂糖王国旅行記》まで、ポップと社会風刺、政治性を絶妙に混ぜ合わせた点が魅力でした。とくに映像作品はYou Tube時代ならではの軽妙な動画編集に引き込まれました。歴史や過去とのつながりに実感がもてない現代、本展は私たちの「現在地」を思い出す機会となるでしょう。
鯨虎じょう「Body temperature 38℃の記憶から」
本プランは、飼い猫の死という極私的な死の経験をきっかけに、愛猫の骨を素材に用いた陶立体の展示です。タイトルの38℃とは猫の平熱の体温です。陶芸の焼成と火葬を重ね合わせ、「記憶からの進化」=新生へと至る制作プロセスは、倫理的な問題含めて、心かき乱されるプランでした。生と死、火の暴力性と創造性など、矛盾する感情と葛藤を陶芸の技法と素材で撚り合わせて生まれる作品はどのような「存在」なのでしょうか。
粟坂萌子「さぁ、とりつくろう。」
陶土の上で身体を動かし、その痕跡、変容を作品化する本プランは、大胆かつ前衛的なプランでした。しかし、身体の無意識な動きや行為を直接的に見せるだけではありません。本展で作家が探究するのは、「取り繕う」にポジティブとネガティブの両義的な意味があるように、「作ろう」と「取り繕う」とする意識と無意識の境界線上に現れるフォルムの探究です。若い作家のエネルギーから生まれる偽りのない展示に期待します。
平田剛志
(美術批評)
本年は、80件の応募がありました。普段Gallery PARCの活動を見知っているであろう関西圏からだけではなく、関東をはじめ他地方からの応募もあり、私自身、応募資料を通して多くの出会いがある審査となりました。
80の資料を読み進めるうちに、多くの資料に共通する言葉が見られることに気づきました。例えば、人間、自然、生活、日常といった言葉です。もちろんこれらは、今も昔も芸術で追求されてきた普遍的なテーマで、現代でもなお、数多くのアーティストが向き合っているのだと考えると、その問の普遍性に改めて思い至ります。でもだからこそ、自分がなぜそれに向き合うのか、考えてみる必要があるのかもしれません。「人間」と書くときのその「人間」とは、一体「だれ」のことなのか。あなたが何かに触発され、それを作品にしようとする時、その動機の元となるのは、一般化された概念ではなく具体的な何かであったはずです。もちろん、実際に世に出す作品では、抽象性を高めることで鑑賞者にさまざまな想像の飛躍をもたらしたり、より多くの人の共感を呼んだりというようなこともあるでしょう。しかし、応募資料はいわば計画書のようなもので、作品そのものではありません。いきなり抽象的な言葉で語るよりも、動機がどこにあるのか、また作品にするまでのプロセスや展示計画などが具体的に明らかになっている方が説得力を増すのではないかと感じました。
審査の結果、宮原野乃実さん、鯨虎じょうさん、粟坂萌子さんを選出しました。自分と自分の体験し得ない歴史との関係を丹念に追う宮原さん、愛猫の死から記憶と進化を探る鯨虎さん、自身の身体を用いてフォルムを追求するという栗坂さん。それぞれの実感がどのように作品となって立ち現れるのか、楽しみにしています。
勝冶真美
(京都芸術センタープログラム・ディレクター)