2020年6月に、パルクでは2017年以来4度目の個展を開催予定だった山岡敏明。「あるべきもの」の姿を求める試行錯誤・その結果としてあらわれるフォルムを『グチック』と呼び、その捉えようのない存在を捉えようとする行為として、山岡はこれまで多くのアプローチを試みている。[m@p]ではそのアプローチの異なるシリーズの新作をお手元にお届けします。何かのようで、何でもない。けれどそんな線やカタチに目を奪われる体験を通して、山岡の眼差すカタチに触れて欲しい。
ロット:1
販売価格:
¥220,000(税・送料込)受付終了
「Unlimited Drawing Limited Edition」
画面上であるべきカタチを探して、描いては一部を消し、また描いて、と変化し続けるアンリミテッドドローイングを、m@p限定で期間中新たに1点制作します。 (この1点におけるドローイング過程は、作家、ギャラリー側からは一般”非公開”とし、購入者の許諾なくWebや展覧会等で発表されることはありません)
m@p送付1回目から4回目まで、各回の時点で現れてきた画面を高精細スキャンし、パネルと同サイズのジークレープリント(パネルマウント)にして送付します。
4回目送付時に、ドローイングを終了し、”描画線を消した跡のみ”が残るパネルの実物も送付します。
また4回目終了後に、インターバル撮影により記録された全過程のBlu-rayディスク(エディション限定1のみ)と、Youtubeで見られる”非公開”URL(URLはEメールで届きます)が送られます。
※ドローイング本体 素材:パネルに綿布、アルキド塗料、ダーマトグラフ、オイルパステル。サイズ:53x53cm。
※参考:過去のUnlimited Drawing (時間トリミング、低解像度版)
https://youtu.be/stBE48ea-fQ
たとえばコーヒーに落ちたミルクの滴が、そのつど表情豊かな模様を描くように。また、ある場所に伸びる一本の枝が、固有の枝振りを描くように。
全ての出来事がドラスティックな因果に即して、その状態であるべくして独自の様相を成り立たせている。しかし、「そうなった」ことと「そうならなかった」こととの間に、果たしてどれほど切実な要因が介在しているというのか。一度限りのこの世界においては、到底起こりえなかったことも、ややもすると起こりそうだったことも、あまねく平等に世界からこぼれ落ちていく。一方で、選び取られた唯一無二の結果の上に次の結果が累積していき、刻々と偏りの特性が顕著になっていく。そうして、たった一つの世界の姿がかたちづくられる。とりもなおさず世界の現実とは、今この瞬間において、すべての「別の状態であった可能性」を排除した唯一のまごうかたなき事実であると共に、たまたま脱落を免れただけの、一つの結果にすぎないともいえる。
グチックとは、ありそうでいて実在しないある種のフォルムに関して音付けられた仮の呼称である。
意味が付帯するより先に「在ってしまった」この世界や我々と同様に、線で囲まれたカタチの特性は、それ自体がぬきさしならぬ事実を語っている。私は支持体の上で線を描き、消してはまた描き直し、延々と繰り返すその行為のなかで、美しいものでも格好良いものでもなく、ましてや荒唐無稽な架空の創作物でもなく、事実として「あるべきもの」の姿を求めて試行錯誤する。おのずとそれは、この世界と隣りあわせの位相に棲む何かを穿りだしてきたようなフォルムに収斂していく。描画の過程で、現れてくるそれらのカタチがいびつに存在を主張するたび、私は避けられない不条理をトレースしているかのような居心地の悪さとともに、そういうものにこそ核心的なリアリティを見出さずにはいられない。
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─スタンダードプランについて
いろんなアプローチで「グチック」という存在を探すということをやっているので、各シリーズの小品で主要な作品を楽しんでもらおうと考えました。[m@p]は買ってくださる人とのやりとりがあるということから、最初はひとつの作品を描く過程で現れたグチックをスキャン・印刷したものを3回に分けてお送りし、最後にオリジナルをお渡しすることで、最終的なひとつの作品が持っていた変遷やプロセスを楽しんでいただこうというプランを考えていました。ただ、それで試作をしてみたら、良い作品ができちゃったんです。「この状態で止めておきたい」というのが出来てしまって、その状態の作品を持ってもらいたいという思いが出てきたんです。魅惑的なものが出来てしまって...しかもそれで新しいシリーズが出来てしまったんです。出来ちゃったんで、スタンダードは、やりとりの中で作品が仕上がっていくということをやってみようとした試みの結果として、やっぱり1点1点持ってもらいたいということになりました。
─スタンダードはすべて新作?
参考写真として出しているのは、前につくったものですが、お送りするのは全部新作です。1回目をお選びいただいて、その後にお送りする作品の選択は、購入者のことを考えながら僕のこだわりで決めます。これが来て、次にこれが来たら楽しいかなと思って、押し売りのようですけど。2回目以降は「この作品いいでしょ?」という僕のレコメンドです。
─プレミアムについて
こちらについても、最初に送った作品を購入者の方に送り返してもらって、それに描き直していくということも考えたのですが、それだと作品が最後の1点しか残らないという矛盾があるので、途中経過はジークレープリントを毎回送ることにして、最後はジークレープリントと描いたものを消してしまった実物のキャンバスを送ります。イメージとして残る作品はジークレーと最後に送る映像だけで、実物のキャンバスにはイメージは残りません。ひとつの作品の過程を手にしていただくというものです。
─映像は買った人だけが見ることができるんですよね。
そうですね、買っていただいた方の許可がない限りは公開しないし、その人のためだけにつくったものになります。
─[m@p]には何が届くかわからないという「未知」の部分があるのですが、そういった要素についてはどう考えられていますか?
最初は作品を選ぶことができないというのが、不安にさせる要素になるのではないだろうかと思いました。ただ、それもまた考えが変わって、スタンダードについては、1回目は作品を選んでもらうので、2回目以降はレコメンドするというか、作品の選択は任せてもらえればと思っています。プレミアムについては自分でも何が出てくるかわからない作業がずっとあるので、まだ1回目のかたちも「今のやつどうかな、まだ描こうかな、どうしようかな」という状態なんで、自分の中でずっと未知でやっている部分を一緒に体験してもらえたらと思います。一本線を足すか、引くかでどうなるかわからないという緊張感が作品には常にあるので。最後に制作の過程を10秒単位で記録し、映像化したものも送ります。これにより大きく4回に分けた過程の追体験とともに、さらにその狭間にあった過程のすべてを10秒単位で見ることができる。その人だけがプロセスを所有してもらえます。普段の展示でも同じことを見せているつもりですが、やはり画面の向こう側の出来事として見えてくるということがあるので、それを今回のプレミアムに関しては、より強く、よりダイレクトに僕の作品を体験してもらえればと思っています。
─ 一年という時間がありますしね。
一年で4回送る中で、今こうなっているんだというもの、かたちが勝手に変わっていっていくのを見ていただき、1年後に実はその4回の間にもこれだけのことがあったんだというのを体験してもらえるのではないかと。実は、本来そういうかたちで発表することが正しい作品なんじゃないかと思うぐらいなんです。実際は、過程の中でいろんなかたちが現れては消えていくんで。たとえば展覧会では、結果・結論が展示されていて、そこから過程を想像してもらうことになるのですが、実際は途中でいっぱい出てくるんです。本来であれば6月に個展を開催する予定でしたが、1回の展示で一気に見せるよりも、ひとつひとつを手元で見てもらうことや、プロセスという時間を見てもらうであるとかは、もしかしたら本来の僕のつくりかたや出来てくるものに合ってる方法かもしれないと思います。もちろん、今後も展示はしたいですけど、今回は新シリーズも出来たし、良い作品が出来てきていると思います。
─他の作家さんで気になる人はいますか?
ヤマガミユキヒロさんはいいなと思いますね。徐々に描き重ねていくというのは、今回の[m@p]にはまっているなと。そして、みなさん、普段と違う小さい作品としての完成度が高いものが手にはいるので面白いなぁと思います。