『自分がどう生きていくか、どう生きていけるか』を考え続ける中で、『豊かさとは何か』についての興味から、これまで様々な場所・土地を訪れ、多くの人々と出会うことに積極的に取り組んでいる小出麻代。異なる土地に赴くことが困難となった現在、小出はこれまでに訪れた土地の記憶の断片として写真と、家を模したフィギュアを同封することで、購入者それぞれに遠くの風景を想い、想像の風景をつくる体験を提供します。
ロット:1
販売価格:
¥220,000(税・送料込)受付終了「風景と共にあるもの」をテーマに制作した2つのシリーズから毎回数点ずつお送りします。
シリーズ「snap」は2015年-2020年に訪れた様々な土地で撮影したスナップショット12点からなる作品。
シリーズ「my small scenery」は自分の風景をつくるための作品。スタンダードでは掌に収まる小さいサイズを、プレミアムでは、机上や棚上に飾ることのできるサイズをお届けします。毎回増えていくパーツを組み合わせて、好きな場所で好きなように並べ変え、自分だけの風景を作ってください。
写真シリーズ「snap」全12点から毎回3枚ずつ、
シリーズ「my small scenery」から、毎回数点お届けします。
■初回封入物:
シリーズ「snap」より3点 (写真:インクジェットプリント/和紙/各210mm×297mm)
シリーズ「my small scenery」より3点 (水性樹脂、鉄粉/60mm×60mm×50mm、50mm×50mm×75mm、240mm×240mm×10mm)
大学生の時、夏の研修旅行でヨーロッパのある国に行く機会があった。滞在していた場所は、その国の人もあまり知らないような小さな町で、当時の私には、その町の魅力を見つけ出すことができず、毎日がひどく退屈で仕方なかった。変わり映えしない風景、人、同じようなものを食べて、同じことを繰り返す毎日。自分にも退屈していた私は、一刻も早く帰りたいとばかり思っていた。
そんなある日、滞在先の宿の小さな中庭に、近所に住んでいるという少年が遊びに来たことがあった。私は、どこへでも行けるこの時代にこんな田舎町で一生を終えるかもしれない彼の未来を勝手に憂いた。ところが彼はとても楽しそうで、中庭に咲いている花や木の名前を(雑草さえも)ほとんど全部知っていて、何も知らない私に丁寧に教えてくれた。飼っている犬のこと、大人には通ることのできない秘密の道のことも。その時から急に、いろいろなものが見えるようになった気がした。この町についてよく知る彼とこの町の続きを知る私とでは、どちらが「知っている」と言えるのだろう。
制作をしていると、その出来事をたまに思い出す。そしてその度に、無自覚な判断や、見えている・知っているという思い込みだけで取りこぼしているものや切り捨てていることがどのくらいあるのだろうかと考える。私は、自分だけでは持ち得ない他の時間に触れるために制作を続けているのだと思う。作品制作を通して、無意識に単純化していくことでできた均質的な表面の下にある豊かで複雑な形について知り、それらを取り出してみたい。
instagram : mayo___koide
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─[m@p]のプランを考えるにあたり考えたことは?
「スタンダード」も「プレミアム」も同じことを考えて制作しています。今まで色んなところに行って、そこに関わりのある人、関わりのあるものをモチーフに作品をつくってきましたが、今そういったことが難しい状況の中で、作品の方法論を変えないといけないのではと思ったりしています。それで「じゃあどうしよう」となった時に、自分が今まで色々なところに行って撮っていた写真、それは別に作品にしようと思って撮った写真ではないのですが、それをもう一度見返してみようというところから始まりました。そこから「風景と共にあるもの」をテーマに制作を進めました。
─小出さんの「風景」というのは?
私が言う「風景」というのは、人がいて、その人が何かしらの事をしているということが含まれているんです。写真も、消えそうな、何かの影とか何かの光のあれとかばかり撮っているから、もうその場に行っても見ることが出来ないもの。例えば、それが私の個人的な経験だったりするけれど、それを見ることとか、それがあの時・あそこにあったとか、もしかしたら今もあるかもしれないということ、そういった外の世界のことを考えるということはなにかの希望だなと思うんです。普段は外に出て、そういう風景を見て家に帰ってくるんだけど、今はなかなか出来ないので、そういうことを想像する、自分でそんな風景をつくることが出来るとかが、どこかに行かなくても楽しくできるように。今回の作品は、自分のためにやってみようところから始まっていると思います。
─シリーズ「snap」については?
全部で12枚の写真を毎回3枚ずつ送ります。その組み合わせは、それを送る季節に撮ったものにしようと考えています。また、それを「何年何月何日にどこで撮った」というクレジットを別紙で入れようと思っています。写真そのものに書いてしまうと、その場所と時間が限定されるけれど、別紙になることで写真に直接紐づかなくなって、見る人が自分で想像してもらったり、広がりが出やすいかなと思っています。初回は12枚の写真を収納するケースもついてきます。
─シリーズ「my small scenery -tiny ver.-」については?
家の作品はこれまでシリコンでずっとつくってきたのですが、少しもろいので販売には不向きだと思い、水性樹脂を使っています。鉄粉が入ってるので、雨や水がかかるとだんだん色が変わっていって、持ち主によってちょっとずつ変化していきます。1回目は家のかたち、2回目は台座のようなもの、3回目はまた違うかたちの家...というように考えています。2回目が送られて来るまでの3ヶ月間は風景が変わらないけれど、そこに大地が加わって、また風景が変わって、そこにもうひとつ加わって風景が変わって...と自分の家の中で、自分の好きな風景を見ることができるのではと。「風景をつくる」ことをしていただきたいなと思っています。その家は袋に入れてお届けします。茶器の道具が全部袋に入っているのでそれがいいなと思って。家で愛でていただくものだから袋に入れようと思って、手作りしました。
─制作をはじめてみて気づいたことは?
誰でも見に来ることができる展覧会ををつくるのと、誰かにお手紙みたいなものを届けるという違いが、作品と私とそれを見てくれる人、買ってくれる人との距離感が全然違うなと感じました。今回の[m@p]で、は万人に開かれていなくても、知っている人にお手紙書くようなことを出来たらと思っています。また、「ものに触れる」ことによる素材感や、自分が作品に関わっていけるということなど、そういった普段はできないことをやりたいと思っています。
─プレミアムは?
「プレミアム」の方は写真は同じものを、家の作品は大きくなり、数が増えます。毎回台座と家が2つ。台座は正方形のもので、台座としてもいいし、そのまま置いてあってもいいし、壁に立てかけてあってもいいし、自分で配置を変えて遊ぶという、展覧会ではできないことをしていただければ楽しいのではと思っています。
─[m@p]について
大きいところに開いていかなくていいという感じがあると思います。個人に届ける、その人ひとりのためにつくっているという感覚があります。その人と手紙をやりとりするように作品をつくるというのは普段、万人にみてもらう展覧会とはちょっと違うという感覚があります。そして写真も家も、普段の展覧会であれば触れられないのがほとんどだけど、私の作品はそこが一番の肝なんです。私は触っているし、質感も全部知っている。作品の中では重要視しているんだけど、見た人はそれを触ることはできないという変なことになっていて。今回はベタベタと触ってもらうことができる、自分で育ててもらうことができるというのは一つの可能性な気がしています。[m@p]がなかったら、私、この企画、自分でやっていたと思うんですよね。今まで作品や展覧会を見てくれた人が買ってくださると、今まで足りなかった部分が補完されるような作業が起こり得るんじゃないかなと思っています。
─他の作家の[m@p]で気になるもの
田中秀介さん。元々、作品が面白いなと、手に入れたいなと思ってたりするけど、大きい絵画作品を買うには金銭的に難しいので。自分のアトリエの壁に、色んなポストカードをはっている場所があって、そのコレクションの中に入れても違和感がないなと思っています。私にしかわからないと思うけど、私の変な美意識の中にはいってもおかしくないし、入れたいなぁと思います。あと、山添潤さんの作品も触ってみたいです。