2020年の最後を締めくくる展覧会として12月に個展開催を予定していた田中秀介。日常への眼差しを絵具と筆の動きに置き換える田中はまた、《 空っぽの突っぱり 》《 一刻の主役 》など、ユニークな作品タイトルもまた作品にまつわる要素としてあつかってきた。[m@p]ではこのふたつの要素を画面上に突っ込んだ新たな取り組みを展開します。言葉は文字・ストローク・色となり、絵と交わってまた新たなイメージを滲ませます。初回は7点の中から選択。3回目の発送では購入者から頂いた言葉を折り込んだ作品を制作してお届けします。
ロット:1
販売価格:¥330,000(税・送料込)
・画面上での描くこと、書くことの融和を図る
・描くものは空模様を発端としたものとする
・書くものは描かれたものを発端とした文章とする
・1作品ごとに内容は完結する
毎回、キャンバスに絵と文字をしたためたもの1点(絵、文字、共に油絵の具を使用/作品サイズ 53×45.5㎝)
参考作品(掲載画像)《分かつ暮らしぶり》 / 67×60cm / キャンバス、油彩 / 2019年
寝て、起きて動きだす。動き出すと見渡す。見渡し、それは自発的か偶発的か、そこの何かと対峙する。対峙する事でそれまで各々固有の方向性を保ちながら流動していた物事が、一挙に私の眼前に一つの光景として立ち現れる。それはあまりに複雑に入り組んでいるものの、あからさまに一つとして立ち現れる。そして瞬く間に更新され、全く同じ光景に出会える事はない。
この事象を当たり前だとか、当然と言葉をあてがう事は可能だが、私にとってその都度一度きりの光景であり、驚きを持って迎え入れてしまう。矢継ぎ早にくまなく辺りを確認するも、分かる事はその光景がそこにある、という事だけである。
すぐ目前に欲するものがあるのに、取り込めないもどかしさが残る。どうにかこの光景を腑に落とす為に、手段として光景の体現に取り掛かる。この体現への取り組みが私にとって、描く事となる。
描く事は自身の身体をもって成す事で、あらゆる拙さが生じる。そして対象となる光景を、限られた枠の中に強引に収める事により、実際の光景との齟齬が生じる。描く事で生じるこれらの事は結果、私を経由させる事ととなり、描かれたものは対象の光景と対峙した時に実感した、何を指し示すもわからない光景、に折り合いをつけられた、何かを指し示す光景へと改変され、腑に落ちていく。
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─本来なら12月に展示を予定していました
中止は残念でしたが、今を前向きに捉えてます。もうね、何がおこってもしゃあないなって思いますけどね。今もう前よりも今をほんとにやるっていう。和歌山の展示も明日おわるかもしれないし、そういう風に考える、受け止めるように心がなってる。展覧会っていうものはそういうものだってなってます。突発的に始まり、突如終わるかもしれない行い。だから、「今をやる」って考えて取り組んでいきたい。
─[m@p]という新たな取り組みについて話を聞いた時、どうお感じになりましたか?
お話をいただいて内心焦ったっていうのは事実ですが、焦りと楽しさがありました。実際、絵画教室も閉まったし、展覧会もなくなったし、単純に経済的なダメージはありました。でも不思議と悲観はしていなくて、なにか新しいことへと自分の考えが浮かんでいたので、それを順番にやっていくしかないと思っていました。そうしてドローイングを描いたり、言葉を書いてたりと試行錯誤をしていて、そんなタイミングでパルクから話をいただいて。それをきっかけに僕が僕としてやらせもらうとともに、誰かと関わりを持って何かを進めれることが嬉しく思いました。
ちょうど油彩ではないものの作品を出したいっていうのはずっとあって、紙に水彩で絵を描くことはちょっと前から積極的に取り組んでいて。その上で、一年4回という関わりを持つこと、いわゆる絵画1枚を販売するいうのではなく、封筒を使ったやりとりのなかで出来ることが魅力的だと感じました。だから普段通りの作品を送っても面白くないので、蜜蝋で文字を描くっていう考えに至りました。ただ、正直にいうと、描く・書くということから作品をつくることは前から考えとしてあって、今回のプランはずっと頭のどっかにあったんですね。ただ、ずっと時間やきっかけがなかったところがあって。だからそれをやってみようと。なのでプランとしては1時間もしないうちに浮かびました。
─ スタンダードプランの内容については
絵を描くことと文字を描く(書く)ことの両立を図ろうと思いました。普段は絵によってある場面を描くことが多いのですが、今回の文字っていうのは風景としては立ち現れないんですが、頭の中に浮かんでいるものというか、頭の中にあるものも風景っていうものに収めることによって、何を指し示すかわからないものを、あるいは何かを指し示すことができるんじゃないかと思いました。加えて、4回の発送を「連続したコマ」として捉えることで、その連続性がより何かをつくりだせるように考えました。ただ、この連続は「逆」で、最初の発送の絵は連続の中でいうと最後のコマ、4回目の発送の絵が最初のコマ、といった構造になっています。これは、購入者の方とのやりとりを考えた時に、4つの連続の最初から始めてしまうと、最後のコマ、4回目に絵が届いたら、その関係が終わるっていうのが嫌で。あと、文章でも、一番最後の言葉や節から冒頭に向かって読むと、いろいろな印象が変わったりすることに面白さを感じていて、それを絵でやってみようと。
─ 今回はお客様からの言葉も取り入れて作品をつくることにも取り組まれますが。
3回目にお客さんからいただいた言葉を取り入れて絵を描くこともやります。これは、たとえば《お前のまつわり》には、4回分のイメージはあるのですが、どれもまだ具体的なものはないのです。なので、その3回目にお客さんの言葉を取り入れることで、そうした流れにも予期しない影響が出たりして、それが自分でも面白そうだと思って。たぶん、すべての絵が「~のまつわり」というタイトルになるとは思うのですが。これは展覧会という構造では絶対にできないことでもあるので、何が起こるかわからない楽しさがあります。
─ プレミアムについては?
プレミアムの方は材料や色材、描くものは一緒なのですが、画面に描かれた文字と絵が融和してるというか、どちらかというと絵を描くような感じで文字を描く感じになると思います。文字が途中で山並みに隠れてたり、浮き出してたりとか。これも今までやったことではないけどずーっと頭のなかにあったことです。これはまったく新しい試みなので、もし購入いただけたら、自分の一番の最新作品を持っていただくことになります。
─ 気になった作家・作品はありますか?
今、この状態の中でストレートに印象に残ってる作家さんはベリーマキコさん。みなさんすごく構造を考えたりしておられる中で、扇子に描かれたシンプルな絵がすごくパーンって見れたっていうのが。あぁ、それもあるよねって。そういうシンプルなのもやっぱり良いよねって。そういう形を作家が求められないんじゃないかっておもったりしてる中で、扇子に描くっていうストレートさが目に入りました。