* 本展は4月12日から5月12日まで京都市内を舞台に開催される[KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2019]のサテライトイベント「KG+2019」のスペシャルエキシビションとしても開催するもので、Gallery PARCでは5月3日から5月19日まで開催する田中和人による個展「Self-Dual」と合わせ、作品上の技法としてのみならず、自らの表現における思考や眼差しに、写真・映像を組み込む作家による連続展として開催いたします。
2000年に京都精華大学美術学部を卒業したヤマガミユキヒロ(1976年・大阪府生まれ)は、「キャンバス・プロジェクション」という独自の手法による作品を展開しています。その作品は、綿密なリサーチにより選び出したロケーションから、建築や構造物を鉛筆で丹念に描画した風景画(絵画)に、同一視点から撮影した風景(映像)をプロジェクターにより投影するものです。幾度も取材を重ねて撮影した朝昼夜や春夏秋冬の光と色彩の変化、流れる雲や行き交う人々などの「時の流れ」が重ねられたとき、ある一瞬を描きとどめたモノクロの世界にうつろう時間が流れはじめます。
本展では、2014年に新宿・アルタ前の風景を長期に渡って取材して制作した作品《 都市の印象 》を展示いたします。行き交う人々や車、多くの看板やインフォメーション、ネオンや電光掲示板など、雑然とした都市のうつろいとともに、ビルの狭間から遠く抜けるように広がる空の表情の変化を見ることのできる本作では、同一視点から通し見る都市空間の構造が遠近法のもとに感じ取ることができます。また、本展では同時に、ヤマガミが近年に興味を寄せ、制作に取り組んでいる新作《 鴨川の印象 》を発表します。本作は京都の四条大橋から三条方面に向かう鴨川沿いを西に向いた風景を題材に、キャンバス・プロジェクションよりその風景の印象を描き出そうとするものです。しかし、本作品においてヤマガミはこれまでの一点透視図法による描画の構造を放棄し、複数の視点を導入した絵画制作に実験的に取り組んでいます。
ヤマガミは本作品の制作プロセスとして、まず四条大橋の袂をスタート地点に、一回3分ほどの撮影(静止画と動画)をおこなった後、カメラを北側(三条大橋方向)におよそ4メートルほど移動させて再び撮影をおこない、最終的にこれを76回繰り返すことでおよそ300メートルの区間の「鴨川沿いの風景」を撮影しています。次に、撮影した76の素材(静止画)から、それぞれ画面の中心部分のみを切り出して横に連続させて張り合わせることで、「遠近感がほとんど発生しない風景」をつくり出し、それを資料として参照しながら幅7メートルを超える和紙に墨で風景を線描しています。また、そこに投影する映像も同様に76の素材(動画)を合成・編集していきます。
この制作方法は作品の上に現実とは異なる様々な不整合を生じさせています。例えば、画面左から始めた撮影は、画面右に到達するまでに合計で5時間あまりの時間を要したものであるため、結果的に作品上に朝焼けから昼、夕刻から夜までの時間が同時に存在することになります。また、その描画においても多くの構造的矛盾を含むため、実際の映像と重ね合わせた時に画面上には多くのズレや不整合が生じています。
しかし本作品が「絵画:写真:映像」として、あるいは「目:レンズ」としてなどに多くの矛盾を含んでいたとしても、ヤマガミがこの方法を用いて「遠近感がほとんど発生しない風景」を描くには、「それが鴨川沿いの印象を描くのに最適ではないか」と確信したことにあります。また、それはヤマガミが描こうとする対象がその場・その風景の「印象」であることをうかがい知ることができます。
高さ2.5m・幅3.4mにおよぶ大型の画面に一点透視法と空気遠近法による作品《 都市の印象 》と、遠近法を廃することにより大和絵や浮世絵にも似た新作《 鴨川の印象 》(高さ2.0m・幅7.7m、未完)の2点で構成される本展「印象の遠近」では、絵画における遠近法の違いを手がかりに、写真(レンズ)や絵画(目)による視覚体験の差異とともに、それらと私たちの「印象」との差異についてもまた、思いを巡らせることができるのではないでしょうか。
時間とともに移ろい過ぎ去っていく風景を写真やビデオでスケッチしてみると、普段見落としていた景色と出会います。サンプリングされた景色の断片の中には、驚くような美しい表情や、神秘的な表情、ぞっとするような瞬間があります。その中で出会う興味深い瞬間を、僕は掬い上げて、物語を組み立てています。
これまで古典的な西洋絵画での作画方法である透視図法構図によって、絵画と映像(カメラ)を用いて作品を制作してきたが、京町家が川に沿って南北に並列する鴨川の風景を描こうとした時、そこにはまるで奥行きが消えて、なるほど多くの大和絵や浮世絵などが平面的に作画しているのは、このような印象を描くためなのか、と考えたりもしました。
常に対象物の正面に立ち、パースペクティブを平坦にすることで、鴨川の風景を正確に捉えることが出来るかもしれない。
本展展示作品は、その第一歩になる作品なのです。
ヤマガミユキヒロ
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《都市の印象 2013-2014 10 min 10 sec
《Noises, Crowds, and Silent Airs》 2015 w:130cm x h:60cm 《Shinjuku Calling》 2013-2014 8 min 56 sec w:330cm x h:205cm x d:4cm |