ギャラリー・パルクでは、5月16日[土]から5月31日[日]まで、ヤマガミユキヒロによる個展「Noises,Crowds,and Silent Airs 」を開催いたします。
2000年に京都精華大学美術学部を卒業したヤマガミユキヒロ(1976年・大阪府生まれ)は、関西を中心にこれまで多くの個展・グループ展を重ねながら活動を続けています。その代表的な作品は、おもに鉛筆による精密な風景画(絵画)と、同一地点から撮影した映像をキャンバス上で重ねあわせる「キャンバス・プロジェクション」という独自の手法によるもので、絵画と映像のレイヤードによる作品はこれまでに高い評価を得ています。
綿密なロケハンにより選び出した視点から見える風景から、ヤマガミはうつろうことない建築や構造物を鉛筆で丹念に描画します。パネル上に描かれたその風景画には、同一の視点(地点)から時間や季節を跨いで何度もロケを重ねた映像をプロジェクターにより投影します。それにより、一瞬をとどめたモノクロの絵画上に、映像による光や色彩、うつろいが投影され、画面上に時間が流れはじめます。
2003年よりこの手法に取り組でいるヤマガミは、2008年に「第11回 岡本太郎現代芸術賞展」(川崎市岡本太郎美術館)において特別賞を受賞。以後も『都市の印象』『物語のための物語』といったテーマの基に2012年の「始発電車を待ちながら」(東京ステーションギャラリー)、2013年の「re:framing-表情の空間-」(京都芸術センター)、2014年の「窓の外、恋の旅。/風景と表現」(芦屋市立美術博物館)、「TARO賞の作家Ⅱ」(川崎市岡本太郎美術館)、現在開催中の「テンプス・フーギット ‒ 大山崎山荘とヤマガミユキヒロの視点」(大山崎山荘美術館)などの発表の機会ごとに、訪れた先々で『何を描くか』を考え、その対象となる風景を選び出し、必然的な描き方や映像編集により作品を展開しています。
本展タイトルである「 Noises,Crowds,and Silent Airs 」は、京都の四条大橋東詰から西を望んだ作品のタイトルに由来しますが、同時に2003年に同じく四条大橋に取材し、キャンバス・プロジェクションの手法を用いて初めて制作した作品タイトルと同様のものでもあります。ヤマガミがキャンバス・プロジェクションによる作品に取り組みはじめておよそ12年目にあたる本展は、この同名作品の最新作をはじめ、近年にヤマガミが各地でロケをおこなう中で制作したタブローによるキャンバス・プロジェクション作品およそ15点以上を一堂に展観するもので、近年のヤマガミの活動にともなうロードムービー的な側面を持ったスピンオフ作品の展示でもあります。京都・大阪・神戸・東京などに取材したそれらの作品は、その場所を象徴する風景をモチーフとして選ばれ、それぞれの場に存在するうつろいを描き出しているものですが、同時に固有のモチーフに収束するものではなく、それぞれが「都市・風景・物語」の断片として集積されることで、そこに異なる物語がはじまる可能性を開くものです。
時間とともに移ろい過ぎ去っていく目の前の風景を写真やビデオでスケッチしてみると、普段見落としていた景色と出会います。これは非現実的な一コマではなく、紛れもなく現実の風景です。
サンプリングされた景色の断片の中には、驚くような美しい表情や、神秘的な表情、ぞっとするような瞬間があります。その中で出会う興味深い瞬間を、僕は掬い上げて、物語のための物語を組み立てていきます。
その物語にははじまりと終わりは無く、脚本もストーリーありません。そこにあるのは、ある瞬間に訪れた風景の断片だけなのです。それらが重なり合い混ざり合って再び繋がった物語は、ノンフィクションを内包したフィクションなのです。そしてその物語は鑑賞時に記憶や想像の追記がされ、物語のための物語から、ある物語へと、完成していくのです。
僕の作品の多くは、油彩やアクリル、鉛筆などで描画した絵画にレイヤーを重ねるように、プロジェクターによって同一視点の映像を投影した「キャンバス・プロジェクション」という独自の手法のものです。絵具や鉛筆で常にそこにあるものを描き、プロジェクターの映像に、光や時間を描いてもらうというものです。
風景は時間と共に表情を変えていきます。日の出から日没まで刻々と表情を変える空や、時間と共に移ろいで行く人々などの、常に変化するものや、ネオンやライトなどの光そのものは1枚の絵画で表現することは不可能です。しかしプロジェクターを使用すれば絵画に時間や動きや光そのものを描画することが出来るのです。ある風景の印象を描くには、常にそこにあるものと、時間と共に変化するものとの描写が非常に重要なのです。
ヤマガミユキヒロ
作家略歴
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