美術家・国谷隆志(くにたに・たかし/1974年・京都生まれ)は、『人間の空間への関わりにおいて、自分を取り巻く世界、物事についてのあり方を問うこと、さらに人はそれらとどのように向き合うのか』に関心を寄せ、鑑賞者に身体(肉体・主体)の「位置」への自覚を促すことを主眼に表現を展開させてきました。
国谷はおもにオブジェや彫刻を中心としたインスタレーションを作品として、展示空間を「場」へと変換します。その「場」は内包する鑑賞者に働きかけ、そこに時間・空間・鑑賞者を分断、あるいは再構築させることを促します。また、近年のネオン菅を用いた一連の作品は、光という現象による空間の変容だけでなく、文字を造形に、言葉を意味に解体・再構築する体験により、展示空間だけでなく、私たちの日常や社会構造をも「場」として眼差し、そこに内包される「私」という因子の座標や振る舞いに思考を巡らせるきっかけを与えてくれます。
本展「 Multidimensional( =多次元)」は、3フロアにわたる展示空間のそれぞれを、2階をX軸(水平)、3階をZ軸(奥行き)、4階をY軸(垂直)への意識を促す場として構成しています。これらは私たちの三次元による認識を解体・再構築するように展開します。また、変化する外光には、それら空間に流れる時間の存在をも感じることができるでしょう。
しかし、私たちの認識し得る「場」は、こうした「三次元」「時間」といったものだけなのでしょうか。私たちはこれら比較的認識しやすい次元(dimension)を超えて、より多様で複雑な多次元の場に生きているのかもしれません。また、その多次元は数学的な空間としてだけではなく、私たちの想像や記憶、感性の広がる空間にも及ぶかもしれません。
それぞれの次元の広がりに眼差しを引き込む国谷の作品を眺める中で、私たちは未だ不可視の異なる次元に触れ、その存在を感じることが出来るのではないでしょうか。
空間と私の距離
人間と空間は、深く複雑に絡み合った関係である。
空間というものの存在を考える上で、身体を抜きにすることは難しいだろう。それは、私たち人間の身体が常に空間の中に置かれているのと同時に空間を自らのものとすることによって環境を捉えているためだ。作品が身体の感覚に働き掛けるとき私たちは思考によってそれを把握し、統合する。作品は単なる物質として捉えられるのみではなく、場として身体の一部となる。それは論理や認識のレヴェルではなく、内面的な領域へと思考を拡大していくことである。
私は、私の作品が観客の意識の中で新たな意味や世界観を創りだす装置のような機能をはたすことができればよいと考えている。観客が作品によって示される空間に立ったとき、身体を通じて観客自身の意識の中に起こる出来事は主体的であるために客観性に欠け、あまりに不確かなものかもしれない。しかし、このような場の感覚によって、「身体が、今、ここにある」ということを強く自覚する事ができると私は考えている。
私は、人間の空間への関わりにおいて、自分を取り巻く世界、物事についてのあり方を問うこと、さらに人はそれらとどのように向き合うのか、といったことに関心がある。人が占めている位置、身体、空間、時間、物の配置による人の視点や移動。これらは身体を起点とした観客自身の位置であり、場の感覚によって示されるものは、自らの存在を示すことに繋がる。作品の意味は観客の体験によって成立し、観客の参加そのものによって完成する。 あなたの存在と私の存在によって作品を完成へと導くことを、あなたの存在と私の存在の証明とする。
国谷隆志
*10月5日[土]は「ニュイ・ブランシュKYOTO 2019」参加につき22:00まで開廊いたします。
|
|