2019年8月30日〜9月15日

 

麥生田兵吾・櫻井拓・大西正一:像を耕す パブリッシングスタジオ

 Gallery PARC[グランマーブル ギャラリー・パルク]では、2019年8月30日(金)から9月15日(日)まで、「像を耕す」を開催いたします。

 写真家・麥生田兵吾(むぎゅうだ・ひょうご/1976年・大阪生まれ)は主題として「 Artificial S 」掲げます。この大文字の「 S 」は “Sense=感覚(感性)” ”Subject=主体” あるいは ”Es=無意識” などの複数の意を持ち、「 Artificial S 」とは「 人間の手によりつくられた、人間が獲得し得る ”それら S” 」として位置付けられています。また麥生田はこの「S」の探求・実験・鍛錬として、撮影した写真をその日のうちにウェブサイト「pile of photographys」(http://hyogom.com)にアップする行為を、2010年1月より現在まで9年以上に渡って、毎日途切れることなく続けています。

 麥生田は「 Artificial S 」を1〜5章に分類しており、PARCでは2014年の「 Artificial S 2 / Daemon 」以降、2018年の「 Artificial S 5 / 心臓よりゆく矢は月のほうへ 」まで、各章ごとの展覧会を5年連続で開催してきました。その展示は特徴的なギャラリー空間に写真のみではなく映像やインスタレーションを交え、鑑賞者という身体へ向けて表現を起動させることを主眼に取り組まれてきました。空間を支持体に鑑賞者を巻き込み、その眼差しの先、あるいは眼差しの出発点を問う体験としての「 Artificial S 」はかくして全章を一巡し、昨年にひとつの結節点を迎えました。

 現在、麥生田は「本」という空間に「 Artificial S 」を展開することで、「現在」だけではなく「これから」に向けて「そのイメージとは何か」の問いを発することに取り組んでいます。展示において「イメージ」は、写真を主とした目に見える「像」を指すだけではなく、空間や身体、音や言葉といった「体験」をもって鑑賞者の内に発生する「(想)像」にも及ぶものでした。では、それらが本(写真集)となればどうでしょう。鑑賞者にとって「イメージ」は容易に紙の上の「像」を指し、与えられた像を目で見て追いかけ、想像はそこに「すでにある像」の解析(解釈)へと振り向けられることになります。「像を耕す」は、麥生田にとってこの違いを確認するとともに、ここから何が始められるのかについての手がかりを求める機会であり、制作・展示・思索・議論の場と機能を会場内に構築します。また、編集者・櫻井拓(さくらい・ひろし)とデザイナー・大西正一(おおにし・まさかず)との本づくりに向けたチームとして、この場・機会を共有しながら、互いの眼差しの差異や新たな可能性を模索する機会ともなります。

 「本をつくる」ことを「動機と目的」に、「パブリッシング・スタジオ」としてその「過程」を公開する本機会では、2階展示室は撮影・制作スタジオになるとともに、「 Artificial S 」のそれぞれの章のエッセンスを持った作品が点在します。4階展示室は編集や制作のスタジオとして麥生田・櫻井・大西の制作の場として、また多くの対話者を招いたトークやレクチャーなどの会場として機能します。そして、最終日にはこうした試行錯誤や検証の過程を経て、これから「つくる本」のプランがプレゼンテーションされます。
 深く掘る、高く盛る、岩盤に当たる、埋め戻す、途方に暮れる、種を蒔く、何もしない。彼ら(と私たち)は「像」を耕すことで、何を実りとして手にするのでしょうか。会期中、なんども足をお運びいただき、一緒に考えていただければ幸いです。

 

 

写真性について ̶ 制作の前提として

 

写真は、映像のある内側だけを注視するときと、映像の外側を意識するときとでは異る体験を人に与える。

  ̶ 写っている像に心が重なること、世界の断片としてそれに心が向い合うこと。

 

映像と物質との関わりが、写真の内容をも変質させる。

  ̶ スクリーンに投影される、紙に印刷される、ざらざらつるつるという表面の質感、重さ、そして古さ傷み。体や皮膚がそれに反応すること。

 

写真に出会う場所が、写真を拡張または制約する。

  ̶ 人と写真と場所が交差する機会におきるイメージには、ほとんど無限の在り方がある。

 

人々はそれぞれの記憶と歴史と気分を、写真と写真のある風景に照らす。

  ̶ なにより人は自身の思いを映像に投げかけている。映像も人に印象を押し付ける。思いは写真を変質させ、写真も思いを変質させる。


麥生田兵吾

 

 

 昨今、スマートフォンやタブレット端末、写真を共有できるSNSや動画投稿サービス、VRなどの普及により、「イメージ」は、かつてないほどに私たちの生活を取り巻き、その基盤を形作っています。その結果として私たちは、イメージに「慣れっこ」になり、その正体を問い返すことをしなくなってしまっているのではないでしょうか。

 

 写真家の麥生田兵吾はこれまで、写真を空間の中で扱う展示手法を通じて、鑑賞者を、イメージという存在にもう一度「邂逅」させようとしてきました。 今回、麥生田は、その手法の延長上で、「本」という新しい空間を扱います。 麥生田の写真作品のシリーズ「Artificial S」は、「生と死」という主題の下、人が自明としている「まなざし」を把握しなおし、鑑賞者の 感覚や記憶、身体を喚起しようとしてきました。今回の展示では、麥生田のこのシリーズを起点に、編集者の櫻井拓、デザイナーの大西正一が加わり、本をつくることを始めます。ギャラリーを出版(publish)のための制作スタジオへと変容させ、その作業空間を公開(publish)します。

 

 ギャラリーは撮影、印刷、編集の作業場となり、作家と編集者、デザイナーが立ち代わって滞在し、共同作業を行ないます。本のため の新しい印刷物に加えて、麥生田の過去作品やアーティストブック、櫻井が過去に編集した作品集や執筆したテクスト、大西がこれまでに手がけた写真集なども展示します。さらに会期中に開催する多数のイベントの映像や写真、音声による記録を交え、制作空間を立体的に展開します。 会期末には、培った成果を書籍のプランへとまとめ、展示とトークの形でプレゼンテーションします。


櫻井 拓

 

 

 

 

関連イベント

*下記イベントのほか、アーティストや編集者など、さまざまなゲストを招いたカジュアルなトークを多数開催予定。

   詳細が決まり次第SNSなどで随時告知します。

 

*一部イベントは事前予約制です。下記フォームよりお申し込みください。

 

 >> 申込フォーム

 

オープニング・レセプション

■日 時:2019年8月30日(金)  19:00〜21:00 *終了しました。
■入場無料・予約不要
会場に展示している、画像生成の装置を麥生田がリアルタイムで操作するヴィデオ・パフォーマンス。

 

トークイベント 

“歴史”とイメージ   

ゲスト:田中希生(歴史学、奈良女子大学助教)

■日 時:2019年9月8日(日)  19:15〜21:00 *終了しました。
■入場料:1000円 
■定 員:30名
■要予約 >>申込フォーム
*歴史学者のまなざしから、社会に遍在しているイメージについて語っていただきます。

 

トークイベント 

現代におけるイメージ『インフラグラム』『風景論』を起点に

ゲスト:港千尋(写真家、著述家)

■日 時:2019年9月12日(木)  19:15〜21:00
■入場料:1500円 
■定 員:30名
■要予約 >>申込フォーム
*最近の著書『インフラグラム 映像文明の新世紀』(講談社、2019年)『風景論 変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社、2018年)を入り口に、現代におけるイメージのあり方についてお話をうかがいます。

 

トークイベント 

「風景」のむこうへ

ゲスト:木岡伸夫(哲学・倫理学、関西大学教授)

■日 時:2019年9月13日(金)  19:00〜21:00
■入場料:1000円 
■定 員:40名(立ち見含む)
■要予約 >>申込フォーム
『風景の論理 沈黙から語りへ』(世界思想社、2007年)を出版されている、哲学者の木岡伸夫氏をお招きし、「風景」について、哲学的観点からお話しいただきます。

 

写真集出版のためのプレゼンテーション展示

■日 時:2019年9月14日(土)、15日(日) 11:00〜19:00
■入場無料・予約不要
会期中に培った成果を、書籍のプランへと具体化し、プレゼンテーションする展示を行ないます。

 

クロージング・プレゼンテーション

■日 時:2019年9月15日(日)16:00〜18:00
■入場無料・予約不要
写真家の麥生田と編集者の櫻井が、デザイナーの大西を聞き手に、書籍のプランをプレゼンします。来場者のかたにも自由にご質問、ご発言いただけます。


【イベントなどお問い合わせ】

Mail : cultivated.imagery@gmail.com  

Tel : 050 -3569-3490  

担当(櫻井)

 

【SNS】

Twitter : @c_imagery  

Facebook : @cultivated.imagery  

Instagram : @cultivated.imagery


【主 催】  像を耕す


【協 力】  Gallery PARC (グランマーブル|ギャラリー・パルク)


【助 成】  アーツサポート関西

 


出展者略歴

麥生田 兵吾|Mugyuda Hyogo

http://hyogom.com

 

1976年 大阪に生まれる

主な活動

2018年 個展「Artificial S 5 / 心臓よりゆく矢は月のほうへ」(Gallery PARC / 京都)
グループ展「 アーカイブをアーカイブする」(みずのき美術館 / 京都)
2017年 個展「Artificial S 4 / 左手に左目|右目に右手 」(Gallery PARC / 京都)
グループ展「 HAPPY SPOT FUTURE」(奈良県文化会館 / 奈良)
グループ展「showcase #番外:スナップショット、それぞれの日々」(galleryMain / 京都)
2016年 個展 「Artificial S 1 - ”眠りは地平に落ちて地平” 」(Gallery PARC / 京都)
グループ展 「Emerging KG+ 2016 supported by LUMIX x YellowKorner 」( ロームシアター京都 / 京都)
グループ展「showcase #5 “偶然を拾う- Serendipity”」(eN arts / 京都)
企画展 「scene|space」(STUDIO MONAKA / 京都)
2015年 個展「Artificial S 3 -Someone(Another one)comes from behind. “後ろから誰か(他の)がやってくる”-」(Gallery PARC/京都)
2014年 個展「Artificial S 2 -Daemon-」(Gallery PARC/京都)
グループ展 「2014 FOIL AWARD in KYOTO」(FOIL GALLERY/京都)
キャノン写真新世紀2014 佳作受賞 清水穣選
2013年 グループ展「溶ける魚 つづきの現実」(京都精華大学ギャラリーフロール /Gallery PARC/京都 )
2011年 「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2011」(3331千代田ARTS /秋葉原):「Zine port」の一員としてZineを出品
グループ展 「in the waitingroom」 (waitingroom/恵比寿)
2010年 「pile of photographys 」をweb上で発表開始(現在継続中)※1
「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2010」(3331千代田ARTS /秋葉原):「Zine port」の一員としてZineを出品

主な出版

2014年 雑誌 「FOIL vol.4(2014) FOIL AWARD in KYOTO」に作品掲載

 

 

Artificial S 5 展示作品

2018年個展
「Artificial S 5 / 心臓よりゆく矢は月のほうへ」(Gallery PARC / 京都)

Artificial S 4 展示作品

2017年個展
「Artificial S 4 / 左手に左目|右目に右手」(Gallery PARC / 京都)

Artificial S 1 展示作品

2016年個展
「Artificial S 1 / 眠りは地平に落ちて地平」(Gallery PARC / 京都)

Artificial S 3 展示作品

2015年個展
「Artificial S 3 / 後ろから誰か(他の)がやってくる」(Gallery PARC / 京都)

Artificial S 2 会場風景

2014年個展
「Artificial S 2 / Daemon」(Gallery PARC / 京都)

 

櫻井 拓|Sakurai Hiroshi

編集者。フリーランス。1984年宮城県生まれ。アートの分野を中心に、作品集やアートブック、展覧会カタログなどの印刷物を編集。これまでの仕事に、瀬尾夏美『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』(晶文社、2019年)、『ゴードン・マッタ゠クラーク展』(東京国立近代美術館、2018年)、『引込線2017』(引込線 実行委員会、2018年)、『池内晶子|Akiko Ikeuchi』( gallery21yo- j、2017年)、『〈見ること〉と〈写真を見ること〉 若江漢字に照らして』(カスヤの森現代美術 館、2016年)、北島敬三+豊島重之『種差 四十四連図』(ICANOF、2013年)など。

 

 

 

大西 正一 | Masakazu Onishi

https://mo-d6.com

 

デザイナー。1980年京都府生まれ。タイポグラフィを主軸に置きながら、印刷技術を駆使して、コンセプトを立体的に実現するデザインを展開している。主な 仕事に、山沢栄子『私の現代』(赤々舍、2019年)、Mr.Children『Your Song』(文藝春秋、2018年)、竹内万里子『沈黙とイメージ』(赤々舍、2018年)、畠山直哉 『まっぷたつの風景』(赤々舍、2017年)、ウィリアム・フォックス・トルボット『自然の鉛筆』(赤々舍、2016年)、ウィリアム・ホガース『“描かれた道徳”の分析』(伊 丹市立美術館、2016年)、新井卓『MONUMENTS』(PGI、2015年)など。

 

 

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