2018年12月21日〜2019年1月13日

中尾美園:うつす、うつる、

2006年に京都市立芸術大学大学院美術研究科保存修復専攻修了した中尾美園(なかお・みえん/大阪生まれ)は、仏画や水墨画の絵師としての活動とともに、日本画における写生・模写の技術をベースとした作品により、2008年の「京展」や2013年の「シェル美術賞」への入選、2015年の公募企画「Gallery PARC Art Competition 2015」でのプラン採択による展覧会『図譜』の開催をはじめ、「飛鳥アートヴィレッジ」(2015年)や「Assembridege NAGOYA 2016 現代美術展『パノラマ庭園 -動的生態系にしるす-』(2016年)などへの参加、2018年には「紅白のハギレ」(ギャラリー揺/京都)、「あすの不在に備えて」(元崇仁小学校/京都)の個展を開催するなど、精力的に活動しています。

 

中尾は日本画における写生・臨画(模写)を「うつし=残す=記録」の側面で捉え、「絵」をより長い時間を超えて未来に残る可能性を有した柔軟で強度を備えた媒体・行為であるとして、その視点をこれまで様々な作品へと展開させています。

 

これまで中尾は、自宅近くの水路に流れてくる落ち葉、祖母の嫁入り箪笥に残された小物や着物の柄、今は空き家となった家屋や閉店した喫茶店に残る品々などを丹念な模写によって記録し、絵巻に仕立てています。それは「日々」の中で消失していく「モノ」と「記憶」をうつした「記録」であり、「絵」はそのための方法でもあります。

また、中尾は過去をより遠い未来に「残す」ための媒体としてもまた「絵」であることを選択しています。紙や布に描かれた「絵」は、そこに広げるだけで誰もがアクセス可能な媒体であり、現在のデジタルデータのように機器や形式に依存しない、独立した媒体であるといえます。また、特に日本画は和紙や絵具、道具や技法にいたるまで、保存・補修の技術体系が確立しており、長い時間を超えて現在に残る作品の数々が、それを実証しているといえます。

 

本展はこれまで同様に、中尾の身辺の記憶を「うつし」た絵画をもとに構成されます。同時に「うつし」が単な複写(コピー)ではなく、「うつる」ことで生じた新たな「生」が、やがてオリジナルへと転じていく様相をも見つめることで、行為としての「うつす」について言及する内容ともなります。

その手掛かりとして、本展では「しめ縄」をひとつの定点としています。日本の神道との関係が深く、その歴史も古いしめ縄を、一人の女性(中尾の大叔母)の人生の中の重要な位置を占める生業として見つめ、「しめ縄つくり」(行為)とその技の「うつし」に焦点をおいて構成されます。

 

絵が、記憶が、技術が『うつす、うつる』ということ。またそれが点と点の関係を超えて、広く・永くに「うつす、うつる、」と連続していくこと。

しめ縄の飾られる年末からお正月の時期、一部展示替えを含む2期構成による本展で、絵画・映像・写真などによって諦観いただけるのではないでしょうか。

ステートメント

もう90歳に届こうとしている大叔母は、小学校の登下校中に駅前の本屋の軒先に飾られていた正月飾りのしめ縄を見て「きれいやなぁ」と思った。

そして「真似してみよう。」と作ってみたら、できてしまった。

 

それから戦争、結婚を経て、嫁ぎ先の家業の合間に本格的に作り始めて60年以上経つ。
もうすでに大叔母の地域では、しめ縄を作る人は大叔母ただ一人だけ。

地域の小学校で教えたり、NHKが一度取材に来たこともある。

今では少し離れたお店にも商品として求められるようになった。

 

原点である本屋の軒先に飾られていたしめ縄と、叔母が作ったしめ縄、ずっとずっと前のしめ縄、これから先に作られて変わっていくだろうしめ縄。

常世がないことはわかっている。
だから、何かがうつされ、うつって、どんどん枝分かれして行って、そのずっと先にある何かを見たいと思う。

 

中尾 美園




作家略歴

中尾 美園|Nakao Mien

http://www.eonet.ne.jp/~nakaomien/

 

2006年 京都市立芸術大学大学院美術研究科保存修復専攻修了

主な展覧会

2018年 個展「紅白のハギレ」(ギャラリー揺/京都)
個展「あすの不在に備えて」(元崇仁小学校/京都)
2016年 飛鳥アートヴィレッジ2015「明日香の匠展」(県立万葉文化館/奈良)
Assembridege NAGOYA 2016 現代美術展「パノラマ 庭園 -動的生態系にしるす-」(ボタンギャラリー/愛知)
個展「Coming Ages」(Ns ART PROJECT/大阪)
2015年 個展「図譜」(Gallery PARC/京都)
アーティスト・イン・レジデンス「飛鳥アートヴィレッジ2014」(国営飛鳥歴史公園/奈良)
2014年 シェル美術賞(入選/国立新美術館/京都)
個展「山水」(ギャラリー揺/京都)
2013年 個展「いつかの庭」(KUNST ARZT/京都)
2008年 京展(館長奨励賞、同09年須田賞・芝田記念賞/京都市美術館)
個展「One Day We'll Fly Away」(ギャラリーi/京都)
わざゼミ報告展(京都芸術センター/京都)
2006年 京都市立芸術大学大学院修了制作展( 「高松塚古墳壁画 模写」大学院市長賞)

 

 

個展「あすの不在に備えて」展示風景

個展「あすの不在に備えて」展示風景
元崇仁小学校(京都)
2018

「久代切」

「久代切」
巻子(紙本着色)、桐箱
2018


ギャラリー揺/京都

「久代切」

「久代切」
巻子(紙本着色)、桐箱
2018


ギャラリー揺/京都

「花嫁のみらい」

「花嫁のみらい」
巻子(紙本着色)、額装(紙本着色)、展示ケース、アートソーブ、解説パネル
2016


飛鳥アートヴィレッジ2015「明日香の匠展」
奈良県立万葉文化館/奈良

「遠い未来 近い将来」

「遠い未来 近い将来」
巻子(紙本着色)、桐箱、ブラックライト、色見本(紙本着色)
2016


Assembridge NAGOYA 2016 現代美術展
  「パノラマ庭園 ー動的生態系にしるすー」
ボタンギャラリー(MAT)/名古屋
撮影:怡土鉄夫
写真提供:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会

 

 

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