2018年11月30日〜12月19日

 

藤永覚耶:Transit

2006年に京都嵯峨芸術大学芸術学部造形学科版画分野を卒業、2008年に愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻を修了した藤永覚耶(ふじなが・かくや/1983年・滋賀県生まれ)は、絵画・版画・写真・染色のテクニックや現象を横断的に用いながら、「認識の外の領域」への興味を始点とした作品制作に取り組んでいます。


藤永はこれまで、アルコール染料インクにより布にイメージを点描し、そこに溶剤を吹きかけることでインクを滲ませるテクニックをベースとした作品制作に取り組んでいます。

これらは「何らかの」写真を出発点に、その図像を目と手によって染料のドットに置き換えて描画し、溶剤によって滲みや動きを与えたもので、最初の写真が持っていた具体性や固有性は色の粒に置換され、さらに溶けて曖昧になりながらも「何かのイメージ」であることを放棄しない、いうなれば具象と抽象の狭間に独自のイメージを立ち上げます。また、そのイメージは鑑賞者の認識や記憶、作品との鑑賞距離や展示空間の環境などの影響を受けながらも、それぞれにとって「何かのイメージ」として受け取られるもので、それは主観と客観の狭間にあるイメージであるともいえます。


本展展示作品となる「Transit」シリーズは、近年の藤永の新たな取り組みによるものです。40mm程度の厚みを持った木の丸太の片面に版画技法によって刷られたイメージ(インク)が、浸透圧と毛細管現象により木の内部に沁み、反対側に像として現れる。このオリジナルテクニックにより藤永はこれまでの「認識のすぐ外の領域」への探求を深めようとしています。


藤永は本作においてその領域を「精神」と「世界」の二極に置いて見つめようとしています。「私」を中心とする視点は「私の内(精神)」を眼差します。それは思考や記憶、精神などの不可視な領域でありながら、私たちはそれらを「在る」ものとして取り扱いますが、そのさらに「向こう側」はいまだ未知であるといえます。また、「私」を中心とする視点は「私の外(世界)」を眼差します。その多くは知覚や認識しうる可視領域に「在る」といえますが、そのさらに「向こう側」はいまだ未知であるといえます。


この二つの「未知」は「私」の「内と外」に在ると言えますが、しかしその領域は密接に、あるいはひとつの繋がった領域であるとも言えます。知覚によって世界を捉え、その知識や経験をもって自身を捉え、またその思考や認識をもって世界を捉える。「私」はこの内と外への探求の反復が折り重なったものであり、「未知」への好奇心こそが知覚・想像・思考を拡げていると言えるでしょう。


木の内部という不可視領域を経て浮かび上がる像は、抽象と具象、意図と偶然の狭間にあると言えますが、その不可視のプロセスそのものが鑑賞者の知覚・思考・想像を惹きつけます。そして、それにより鑑賞者は、現れた像にそれぞれのリアリティを持ったイメージを見る(つくる)ことを促されます。

藤永の新たな取り組みを前に、未知への好奇心や想像が、自身と世界への探求と発見へと繋がれば幸いです。

ステートメント

 本展で展示する《Transit》シリーズは、木の丸太の片面にまずイメージを刷る。その図像をつくるインクは毛細管現象により、木の内部を通過し、反対側に「像」を浮かび上がらせる。
 自然現象を経て現れる「像」は、情報量としては最初の図像から間引かれたものだ。だがそれゆえに、私たちの意識・無意識と結びつき、内側に「それぞれのイメージ」が現れるのではないだろうか。
 そして、私たちはこの作品の表面しか見ることができず、中で何が起こっているかは知ることができない。

藤永 覚耶




作家略歴

藤永 覚耶|Fujinaga Kakuya

http://kakuyafujinaga.com

 

1983年 滋賀生まれ
2006年 京都嵯峨芸術大学 芸術学部造形学科版画分野 卒業
2008年 愛知県立芸術大学 大学院美術研究科油画専攻 修了

個展

2018年 Transit (masayoshi suzuki gallery / 愛知)
2015年 STAIN (Gallery Den mym / 京都)
2013年 空即是色 -vanity is color- APMoA Project, ARCH Vol.6 (愛知県美術館 展示室6ほか / 愛知)
2012年 とどまり ゆらめく keeping : moving (Gallery PARC / 京都)
foliage (masayoshi suzuki gallery / 愛知)
2011年 - into the water - (GALLERY GOHON / 愛知)

おもなグループ展

2017年 時間の感触 (masayoshi suzuki gallery / 愛知)
2016年 INTERWOVEN~編み込まれた世代~ (名古屋市民ギャラリー矢田 / 愛知)
滋賀県次世代文化賞受賞者展 (滋賀県立近代美術館ギャラリー / 滋賀)
THE NEXT 次代を創る10人の表現者たち (電気文化会館5Fギャラリー / 愛知)
2015年 色の底・記憶の淵 藤永覚耶 石川裕敏 2人展 (masayoshi suzuki gallery / 愛知)
2014年 VANISHIG POINT 消滅点 (Gallery PARC / 京都)
BIWAKOビエンナーレ2014 (近江八幡・天籟宮 / 滋賀)
落石計画第7期 残響 (旧落石無線通信所 / 北海道)
2010年 アーツチャレンジ2010 (愛知芸術文化センター)
STAY -常懐荘にて- (旧竹内邸・常懐荘 / 愛知)
2008年 Thinking Print vol.2 - もうひとつの写真表現 - (京都芸術センター)

 

 

「Transit」シリーズ新作 

「Transit」シリーズ新作 

2018

インク、白樺/シルクスクリーン、毛細管現象

215×240×27mm

《Transit [stone]》
2018
インク、白樺/シルクスクリーン、毛細管現象
190×200×30mm

《 Transit [stone] 》

2018

インク、白樺/シルクスクリーン、毛細管現象

190×200×30mm

《 forest [1304] 》
2013
アルコール染料インク、綿布、パネル
2300×1500×3点組  
愛知県美術館 展示室6  ※撮影:林育正

《 forest [1304] 》
2013

アルコール染料インク、綿布、パネル

2300×1500×3点組  
愛知県美術館 展示室6  ※撮影:林育正

《foliage [1302]》
2013
アルコール染料インク、綿布、アクリル、自然光
2392×1343×200mm
愛知県美術館 展示室6  ※撮影:林育正

《 foliage [1302] 》
2013

アルコール染料インク、綿布、アクリル、自然光

2392×1343×200mm
愛知県美術館 展示室6  ※撮影:林育正

《 untitled [1402] 》
2014
アルコール染料インク、綿布、アクリル、自然光
1000×2600×32mm  
BIWAKOビエンナーレ2014 (天籟宮)

《 untitled [1402] 》
2014

アルコール染料インク、綿布、アクリル、自然光

1000×2600×32mm  
BIWAKOビエンナーレ2014 (天籟宮)

《 foot [1605] 》
2016
アルコール染料インク、綿布、パネル
1500×2500mm

《 foot [1605] 》
2016

アルコール染料インク、綿布、パネル

1500×2500mm 

《 stain [1509] 》
2015
アルコール染料インク、綿布、パネル
970×1303mm

《 stain [1509] 》
2015
アルコール染料インク、綿布、パネル

970×1303mm

 

 

空白