2015年に京都造形芸術大学大学院を修了した大和美緒(やまと・みお/ 滋賀・1990~)は、これまでおもに写真・絵画・彫刻・インスタレーションによる作品展開に取り組んでいます。大和は2014年1月にGallery PARCで開催した初個展「aspect of LUMINOUS RED」において、2週間以上の会場制作によりギャラリーの5面もの大きなガラス窓を用いて、そこに『るんるん』や『どきどき』といった短い言葉を書き連ね、その集積により大きな図像を描き現わす大型のインスタレーションを発表しています。これらは身の回りに溢れる大量の情報(言葉や図像)に浸る中でミクロに埋没してしまいそうな「私」という感覚を、その情報をマクロに再構築するプロセスに身体によって関わり、目の前に新たなイメージの世界を出現させることで、「私」の存在を確認したいという欲求に端を発したものであったといえます。
以降、大和は制作のプロセスに積極的に身体(私)を用いながらも、そこに完成した画面・空間において、私(大和)を含む大きな自然のシステムの姿を見ようとするかのような作品を展開させています。たとえば、『大きなキャンバスに点をひとつ打つ。次の点をその隣に打つ』『一本の線を引く。次の線をその隣に引く』『一筆書きの星を描く。それぞれの頂点が接するように周囲に同じく星を描く』。これらシンプルなルールによる機械的な作業は、大和の身体によって繰り返されることで、一つひとつのわずかな歪みが連鎖し、いつしか画面上には「絶え間の無い揺らぎ」の波形が現れます。
画面上の無数の点は大和の行為の記録であり、そこには身体のままならなさを見ることができます。また、一瞬の大和の思考や判断によって個性を与えられた一つひとつの点の連なりは線となって、陽の光や周囲の湿度、環境の影響を受けながら伸びる植物や、その歴史が年輪として現れた板の木目のようなイメージを現します。また、それらは面となって、そこに山の稜線や波のカタチといった揺らぐ世界の姿を垣間見ることもできます。
こうしたプロセスによる制作について大和は「考えや想像のもとに、描きたいカタチに目を奪われるのではなく、目の前を見て、考えて、体を動かすというシンプルなことに集中したい。例えば苔が水と渇きを感じ取り、判断し、考えながら生きるように、点や線や絵が互いに感じて・考えて、一瞬の判断を行なうことで成すカタチに興味があるし、そうしたことを体験したい。」と話します。
本展では12月末からの会場制作によりギャラリー空間のガラス面を支持体として制作した「点」による作品《 REPETITION RED 》や、「星」による《 REPETITION RED 》のほか、「線」による《 REPETITION BLACK 》を発表します。また、ガラス板に染料インクを垂らして現れる様相を手がかりに描かれた作品《 ORCHIDS 》のシリーズも複数展示いたします。
また、本展はCOHJU contemporary artとの2会場同時期開催として、各会場で異なる内容の展示を行います。両会場は徒歩で移動が可能です。ぜひ合わせてご高覧いただき、その魅力をより強く感じていただければ幸いです。
何度も繰り返し、ただひたすらに同じパターンを描き続けることで、物質や身体が時間の流れとともに徐々に変化してゆく過程を理解したいと考えています。制作の過程で点の連続はやがて秩序を失い、線はやがて大きく畝る。やがて浮き上がる一つのイメージは”私”という一人の人間が経た経験の投影で あり、生きるという現象の記録なのかもしれません。
大和美緒