Gallery PARC[グランマーブル ギャラリー・パルク]では、2016年10月1日(土)から10月16日(日)の期間、森太三による個展「転用と配列」を開催いたします。
森太三は、粘土や紙片などの身近な物質に、手による単純な繰り返しの行為を加え、それらを集積することでひとつの空間をつくります。
また、それは特定の「何か」を空間につくるのではなく、鑑賞者の中に何かが「起こる」ための「空間をつくる」ことに主眼を置かれて取り組まれるものです。
粘土を纏める、紙片を切る、粒を連ねる、木々を積み重ねる。
無機的な素材への単純な行為の集積によってつくられた空間は、雨降る間際の雲間のような(「空を眺める」 2011 ギャラリーwks.)、波打ち寄せる海辺ような(「記憶と気象」 2013 ギャラリーパルク)景色を空間に出現させます。また、それらは鑑賞者の記憶や経験と混ざり合って、時に雨上がりに晴れ間の覗く雲海や、あるいは上空から見た気象図の雲のように、それぞれの目の前に異なる情景ともなって広がるものでした。
Gallery PARCでは2年ぶりとなる森太三の個展『転用と配列』は、これまでの作家の仕事の延長線上に位置したものといえますが、そこには近年の森の興味と視点を見ることができます。
「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015」に出品された作品《関係のベンチ》(2015年度公募大賞 グランプリ受賞作品)は、カラフルな無数の木々が立方体に集積された彫刻であり、六甲山上の眺望スポットである「六甲枝垂れ」付近に置かれたものでした。そして、それはアートイベントとの関係性において「作品」と呼ばれ、眺望スポットである場との関係性において「椅子」として使用され、目に入る景色の一部としては「箱」と認識されてその場に景色をつくりました。また、鑑賞する者が前に佇めば周囲から「作品」として鑑賞され、腰掛ける者がいれば皆に「椅子」として座られるものとして、鑑賞者が作品のあり方を変容させるとともに、そのことが新たな景色を周囲につくりだしていくものでした。
この《関係のベンチ》において、これまでの森の「空間をつくることで鑑賞者の中に様々な景色や情景が立ち上がること」への興味が、そこから鑑賞者の見立てや振る舞いを景色(作品)の一部として積極的に取り込むことで、作品が作家の目論見を超えてその在り方を転じていくことへと移っていると言えるのではないでしょうか。
それは、森が展示構成・設営やデザインなどをおこなう別名義として2014年に設立した「studio森森」(みずのき美術館での展示構成、みやこめっせ(京都)やギャルリ・オーブ(京都)での「共生の芸術展 DOOR」展、芦屋市立美術博物館での「チェコ絵本をめぐる旅」展などでの什器制作・設営などを担当)の活動とも関わるもので、現在は作家としての制作と、職人としての制作の両方を手がける森は《関係のベンチ》について、『保管のために庭先に置いていたこの「作品」を、山の上に運んでは椅子として置き、美術館に運んでは什器として置く。作品に手を加えることがなくとも、置かれる場所や人との関わりによって「作品」はその機能や呼び名だけでなく、その在り方や周囲につくられる空間までもが、どこか異なるものに転じていくことが面白い』と言います。ここから、森の現在の興味は、作品が空間や鑑賞者を転用させることだけでなく、空間や鑑賞者がまた作品を転用させること、また、その反復において作品が作家の目論見を超えて転じていく様を見つめることにあるといえるのではないでしょうか。
本展「転用と配列」には、この《関係のベンチ》をはじめ、「チェコ絵本をめぐる旅」展で什器となっていた《色相の椅子》やドローイングなどの作品だけでなく、森がこれまでの制作や仕事で用いた大量の木材が会場に運び込まれます。森は事前に具体的なプランを持つことなく、丁寧に材と空間を見極め、ここで過ごす人を想像し、その関わりに思いを馳せながら、ギャラリー空間に構造物を仮設します。
本展において森太三のつくりだす景色、鑑賞者それぞれにとっての情景との出会いをお楽しみいただくとともに、あるいは思い思いに過ごす私たちが空間を「何か」に転じさせ、作品の一部になるような体験をお楽しみいただければ幸いです。
会場撮影:麥生田兵吾
積む。運ぶ。降ろす。
切る。ヤスリをかける。色を塗る。組み立てる。眺める。保管する。
積む。運ぶ。降ろす。
展示する。眺める。座る。寝る。
積む。運ぶ。降ろす。
保管する。
積む。運ぶ。降ろす。
積む。運ぶ。降ろす。
切る。組み立てる。ヤスリをかける。色を塗る。眺める。保管する。
積む。運ぶ。降ろす。
組み立てる。展示する。眺める。
解体する。
積む。運ぶ。降ろす。
保管する。
積む。運ぶ。降ろす。森太三