2019年3月1日(金)から3月17日(日)まで、玉山拓郎・松延総司による「FLASH MATTER」を開催いたします。
2013年に愛知県立芸術大学美術学部油画専攻を卒業、2015年に東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画研究分野を修了した玉山拓郎(たまやま・たくろう/1990年岐阜県生まれ)は、鮮烈な色彩を持った壁や椅子、照明器具やベッドなどの日常品を部屋のような空間に配置することで、そこに色彩のコンポジションを生成するインスタレーションを発表してきました。玉山によるインスタレーションは現実:虚構、写真性(あるいは映像性):絵画性などの要素が混ぜ込まれ、近年ではそこに映像作品を加えることで時間や視点(視界)といった鑑賞者の身体性をも入れ子の構造に取り込むかのように思えます。
2008年に京都嵯峨芸術大学短期大学部を卒業した松延総司(まつのべ・そうし/1988年熊本県生まれ)は、日常で目にする「もの」に少しのアプローチを加えることで、その機能・法則・素材などの要素を顕在化させる作品を発表してきました。たとえば、石、輪ゴム、鼻歌、棚、落書きなどをモチーフを点と線という要素に分解することで、2次元と3次元の空間を入れ子の構造に接続させ、認識を往来させるかのような作品は、鑑賞者自身にそうした認識が生じることそのものへの興味を抱かせるとともに、普段は当たり前と認識しているものへの定義・再定義を促します。
本展は「もの・空間・光・色」など、私たちが当たり前として認識している領域に丁寧な観察の眼差しを向け、そこに見定めた性質を手がかりにキッチュな、あるいはミニマルなアプローチによるインスタレーションを得意とする2名の作家によるものです。それぞれの作品が内包する「入れ子」の関係は、さらに「内と外」といった関係性において複雑に入り組んだ状態で空間に固定されます。その空間は鑑賞者という移動する身体を招き入れることで、さらに多様な視点を生じさせ、複雑さはより際立つものになるかもしれません。しかし、その複雑さはまた、私たちがある視点、ある認識の位置から視座した時、とてもシンプルな様相として捉えることもできるかもしれません。
本展において、観察と発見、定義と再定義、生成と分解などの様々な認識(イメージ)が、私たちの内に時に激しく、時にゆっくりと瞬くような体験をしていただければ幸いです。
「FLASH MATTER フラッシュマター」
光や影を触れることができる立体物として目の前に引きずり出すこと、それが私と玉山に共通する試みである。光や影は、「空想」の中にある具象的なイメージ(例えば夢)として現れるかもしれないし、日常の中にある抽象的な「空間」(例えば穴)として現れるかもかもしれない。
「空(スペース)」があるところには光か影がある。光か影があるところにはスペースがある。
私も玉山も空間に興味を持ち、インスタレーション形式の作品を得意としている。
この展覧会の最初のアイデアは、一つの展示室に二つのインスタレーションを入れ子状に配置することであった。
私が作る、人気のない荒涼としたインスタレーションを外側に、玉山の「部屋」のような構造を持つイメージ豊かなインスタ レーションをその内側に、といった具合である。
外の空間を指向する作品と、内の空間を指向する作品ならば、一つの展示空間に共存できるのではないか…。
ここで考えていたことは二次元平面上での「住み分け」のアイデアであった。
しかし私たちの描くドローイングを見てみれば、私たちが考える「空間」は、私たちを取り囲むものだけではないことに気付く。
大きさも素材も決定されないまま、アイソメトリック図やコラージュによって描かれるそれは、脳内からプロジェクションされるようにして描かれた、触れることができる空間=「四次元立体」の設計図である。
四次元立体の影(切断面)は三次元の立体とされる。三次元の立体であっても、それが「影」ならば、ぶつからずに重なることができる。
そうしたときに、初めの「住み分け」のアイデアは、実は「影の重ね合わせ」であったことに気付く。
私は4次元は自分の外側にあると考える。玉山はどう考えるだろうか。
スクリーンの上に光や影が自由に現れ重なるように、ギャラリーパルクは作品の無数の観測位置を持つだろう。
それがどの方向から、どれぐらいの速さや大きさで、どのような色であるかはまだ不明である。
松延総司
関連イベント
アーティストトーク+トークセッション「ヘッドレストの薄み 硬み 重み」
「FLASH MATTER:玉山拓郎・松延総司」展のオープニングとなる3月1日[金]18時より、トークイベント『ヘッドレストの薄み 硬み 重み』を開催します。 本イベントのタイトルは、「ヘッドレスト(自動車などの座席上部の枕状の部分)」をモチーフとした玉山の映像作品から取られたもので、この部分は「光」や「影」、「色」や「イメージ」などと読み替えられるものです。 前半のアーティストトークでは、玉山・松延が具体的な厚さ 硬さ 重さ などを持たないこのようなものたちをどのように捉え、作品においてどのように扱っているかを中心にトークするとともに、後半のトークセッションではゲストに美術評論家の中尾拓哉氏と林田新氏を迎え、「四次元」や「写真」をキーワードとしてそれぞの作品の読み解きを試みます。
■日時 2019年3月1日[金] 18:00〜20:00 予約不要・参加無料
*イベントは前半アーティストトーク、後半トークセッションの構成になります。
中尾拓哉(なかお・たくや)
美術評論家。1981年東京生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士(芸術)。2014年に論考「造形、その消失において――マルセル・デュシャンのチェスをたよりに」で『美術手帖』通巻1000号記念第15回芸術評論募集佳作入選。著書に『マルセル・デュシャンとチェス』(平凡社、2017年)。監訳書にマシュー・アフロン『デュシャン 人と作品』(フィラデルフィア美術館、2018年)。共著に『ストローブ=ユイレ――シネマの絶対に向けて』(森話社、2018年)。主な論考に「50年あるいは100年後の鑑賞者――日本・マルセル・デュシャン論再考」(『美術手帖』2019年2月号)など。
林田新(はやしだ・あらた)
京都造形芸術大学アートプロデュース学科専任講師。写真メディアを中心に記録文化について研究を行う。主要著書に『スクリーン・スタディーズ』(分担執筆、東京大学出版会、2019年)、『現代文化への社会学』(分担執筆、北樹出版、2018年)、『現代思想 総特集=東松照明 戦後日本マンダラ』(分担執筆、青土社、2013年)など。主要企画展に「BANK―映画『東九条』でつなぐこと―」(柳原銀行記念資料館、2018年)、「デラシネ―根無しの記憶たち」(柳原銀行記念資料館、2016年)「記述の技術 Art of Description」(ARTZONE+MEDIA SHOP gallery、2016年)など。
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