ギャラリー・パルクでは、2013年9月3日[火]から9月15日[日]まで、来田広大による個展「Bird’s-eye view」を開催いたします。
2010年に東京藝術大学大学院を卒業した来田広大(きた・こうだい/兵庫・1985~)は、現在、京都・大阪をベースに作品制作・発表を続けるとともに、大学卒業後に移り住んだ福島・いわきでも定期的な発表を続けています。
近年、来田は一般的な絵画表現で用いられる絵具ではなく、学校などで使用されていたチョークを用いた絵画制作に取り組んでいます。 まるで黒板のようなキメの細かい表面を持つパネルには、チョークの粉の飛沫や伸びや擦れによる朧げな線と面によって、まるでどこかの「山(のようなもの)」が描き出されています。また、それは、そびえ立つ山脈を平地から見上げたかのような、あるいは飛行機や人工衛星から連峰を見下ろしたかのような不思議な視覚体験を鑑賞者にもたらします。
来田はチョークという特異な画材の特性を活かし、実在するか否かは不明なままにそこに神々しいまでの大きな山を描き出します。
また、チョークは子供の頃に道路に空想の風景を落書きして遊んでいた身体感覚を手がかりに、「遠くに想いを馳せる」ことを鑑賞者の記憶からを呼び起こします。
来田の新作・近作20点あまりの絵画を一堂に展示する本展では、「距離」や「場」にまつわる視線と記憶の交錯する状況を生み出し、日々の延長では意識し得ない<距離の場>への意識を体験によって呼び起こすのではないでしょうか。
同じ山に何度も登る。
そのうち地図が不要になってくる。
その地形の成り立ちや空間の流れが、自然に身体の中にインプットされていく。
呼吸と歩調を合わせ、空を見上げる。
悠然と空を旋回する鳥に想いを馳せれば、そこ(記憶)とここ(現在)が手に触れられるような感覚につつまれる。飛行機の窓から山脈を見下ろす。
稜線に立つ米粒ほどの自分が見えるのを想像し、遠いけれど近いような不思議な距離感を覚える。
意識の中で、自由に場所を行き来する。
この山々と日々の生活とは別次元のもののようだが、実際は常に同じ世界、同じ時間軸に、確かに存在している。日常から懸け離れた対象を、黒板とチョークという誰もが慣れ親しんだ素材で描き、身近に引き寄せることによって、
日々の延長では意識し得ない<距離の場>を体験することになる。
子供の頃、白墨で道路に空想の地図を落書きして遊んでいたような、記憶の中の身体感覚を手がかりに。遠く離れた場所に想いを馳せること。
そこで起こる事象をいかに親身に捉えられるかということ。
自分もその現在進行形の大きな地図の一部だと認識すること。
様々な視点から見る風景、その先に何が見えるだろうか。
ここは(視)点と(視)点がつながり、(視)線となる場所。
来田広大