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Artists Interview
「ありそうでいて実在しないある種のフォルム」を「グチック」と呼び、おもに絵画的な手法によりその探究を続ける美術家・山岡敏明。 2011年以降、3度に渡って開催しているパルクでの個展では、魅力的な線による絵画としてだけではなく、錯視や映像などを用いた多角的なアプローチによりその探究を進めて来ました。
2020年6月には4度目となる個展開催を予定(ギャラリースペースの閉鎖にともない現在は開催未定)していた山岡敏明に、参加いただいたプロジェクト[m@p]についてのお話を含め、現在とこれからについてお話を伺いました。
山岡敏明 制作スタジオ GUTIC STUDIO
これまでの展覧会について

PARCでは過去3回に渡って個展を開催していただきました。それぞれの展覧会はどのようなものだったと考えていらっしゃいますか?

2011年「GUTIC STUDY」【*1】では、黒い架空の量塊グチックの断片を、視覚トリックを使って出現させる(Volume / Void)シリーズを展開しました。このシリーズはあちこちで展示してきたもので、この展示はその最後っ屁のつもりでした。この展示では鑑賞者の方に参加してもらうドローイングコーナーを設置しました。ここでは、みなさんにカタチを描いてもらい、後で僕がウワガキするという試みをしたんですが、これによりグチックのバリエーションが無数にあることを確信し、現在のドローイングベースの作品に繋がりました。

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2013年「GUTIC MERISTEM」【*2】は、そのドローイング絵画シリーズのデビュー展になります。それまでの錯視や立体によるインスタレーションから離れて、平面作品中心にシフトするターニングポイントになりました。 また、宮下忠也氏のキュレーションを入れることで、個人で完結した自己表現ではなく、観客に作品をどう見せるかというショウとしての「展覧会」を強く意識しました。

2017年「GUTIC i was born」【*3】では、先の展覧会のころに比べて脂の乗ってきたドローイング絵画のシリーズをオモテ、ウワガキシリーズをウラと関係づけて展開しました。展示では実際に壁面のオモテとウラで展示するという構成だけでなく、コンセプトや展覧会タイトルのブラッシュアップ、照明のセッティングや作品に合わせて壁をグレーに塗り変えるなど、展覧会に至る一連においてギャラリーの全面バックアップを受けて開催した贅沢な展覧会でした。 作品を見せるためにその時できる最大限のパフォーマンスを惜しまないという、ギャラリーの矜持を勉強させてもらいました。

  • 【*2】2013年「GUTIC MERISTEM」展示風景>Exhibition Info
  • 【*3】2017 年「GUTIC i was born」展示風景/ 右:ウワガキシリーズ >Exhibition Info

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2020年から現在までの活動について

それまでの3つの展覧会はいずれもPARCが三条御幸町にあった時のものでした。そして2020年には室町六角のスペースに移転後、山岡さんとしては初となる個展を開催予定でしたが、その開催が迫る中で、PARCが一旦スペースを閉鎖することになってしまい、展覧会は無期限の延期状態にあります。その点についてはとても心苦しいのですが、その展覧会はどのような内容を計画されていましたか?

会場が3フロアであったことから、2017年の個展以降、さらに数と変態度の増したウワガキシリーズを2階の展示壁面に全て貼り出し、3階では線で描かれたグチックのカタチが続々と変化するアンリミテッドドローイング映像【*4】を投影、その副産物であるキメラドローイング(映像内で現れるカタチを合成プリント、加筆したもの)の額装作品を壁面に展示する予定でした。グチックを象徴する表裏2つのシリーズを、完全に別のスペースに分け、それぞれを独立した作品としてじっくり観てもらうという、長年望んでいた夢がかなうところでした。
結果的に展覧会としては開催できず、残念至極ではありましたが、悔しがっていても仕方がないので思考を切り替えました。今までも望んで叶わなかった展示は何度もあり、あとになって別の機会(最初のPARCでの展示もその一つです)に恵まれたり、良い結果につながってきたように思います。最後はあるべきところに落ち着くと思っています。

  • 【*4】アンリミテッド・ドローイング参考画像

*4

そこから1年が経ちましたが、山岡さんにとって、この1年はどのようなものでしたか。また、どのように過ごされていましたか?

締切りのない作品制作を楽しんでいましたが、2021年末に滋賀にある2kw Galleryでの個展が決まり、立派な白壁へのプレッシャーでソワソワと追い込まれてきました。

この1年の間に始めた新たな取り組みなどはありますか。

作品制作とはすこし違うのですが、YouTubeでアーティストインタビュー番組の配信をはじめました。 有名無名にかかわらず、山岡が作家としてリスペクトする方々を一人ずつお訪ねして、なるべく御本人の仕事場で仕事内容について対談させてもらいます。 撮って出しのギャラリートーク記録と違って、ピンマイクを使っての音声収録、きちんと話がつながるように映像編集、キーワードには字幕をつけ、資料や作品の画像を適宜表示し、出演してもらった作家さんが略歴代わりに使いたくなるレベルのコンテンツを目指しています。 仕事内容から逸れた話や、山岡が出張りすぎた部分などは、スピンオフとして別動画にアップすることもあります。

チャンネルページはこちらです

https://www.youtube.com/user/guticyamaoka/featured

[m@p]meet @ postについて

PARCでは、昨年7月に[m@p]meet @ postというプロジェクトを立ち上げ、こちらに山岡さんにも参加いただきました。[m@p]に取り組んでみて、いかがでしたか?

購入者様とのやりとりを通じた新たな展開を模索して始めた結果、スタンダードでは小品の良作(自分で言います)が多くできてしまい、プレミアムでも結局アンリミテッドドローイングの魅惑的(自分で言います)な最新作が生まれてしまいました。結局は今までの延長で新作ができただけとも言えますが、私にとってはグチックのフォルムを探り出すこと自体簡単ではなく、1体でも多くの珍種、変種を捕まえることが至上命題であったりします。

 

*[m@p]meet @ postプロジェクト>more

PARCではこの[m@p]については今後に第二弾の展開を考えています。こちらに続けて参加していただけますか?また、その場合にはなにか考えていらっしゃることありますか?

[m@p]は第一弾で購入者様に多大な賭けをしてもらい、こちらもそれに応えるべく破格の設定で作品をお送りしたので、このスタイルは打ち止めにしたいと思っています。プレミアムも、ドローイングを重ねていくと、公開できないのが惜しくなってしまいました。 なので、別のアイデアがあればという感じです。今のところはボンヤリしています。

オンラインストア[parcstore]での取り扱い作品について

現在、[parcstore]で、[m@p]の他にも、山岡さんの作品を販売しています。こちらはどのような作品ですか?

もとは[m@p]のために制作した4つのシリーズで、それぞれのシリーズについて、送りつけたものでも納得してもらえるクオリティをロットぶんの3点ずつ確保しようとがんばったら、エエもんが多くできてしまった。というものです。
映像作品に現れては消えるカタチを合成プリントして加筆した「chimeraドローイング」【*5】。描いては消してを繰り返し、ある種の示唆的なカタチを探しだして定着させたドローイング【*6】。描き直しなしの一筆ごとのつながりで地と図に分けられた線画【*7】。モヤモヤの模様からカタチを探し出して陰影をつけ、くっきりと型どって背景を塗りつぶしたドローイング【*8】の、各作品となります。

今後に[parcstore]に出品したい作品はありますか?

ポストカードサイズのお手頃価格の小品【*9】。ほかには、現在アイデア止まりですが、実物が1点選べるドローイングカタログなども考えています。

  • 【*5】GUTIC chimera05kakuni シリーズ

  • 【*6】GUTIC MORPHOLOGY ss シリーズ

  • 【*7】GUTIC MORPHOLOGY F シリーズ

  • 【*8】GUTIC MORPHOLOGY Um シリーズ

  • 【*9】GTUIC DRAWING :オンラインストアで取り扱い始めました

  • Online Store

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今後の展望

これから取り組みたいと考えていることや、今後の活動予定を教えてください。

1点でも多くの名作・迷作を描き、多くの方に変な気持ちになってもらいたいです。
まとYouTube番組では、山岡がリスペクトする作家さんの凄さと、その凄さを認める山岡の目利きを世間に知らしめたい。
具体的には12月9日(木)-26日(日)、大津の2kw Galleryで個展があります。

これからの社会状況や、それに伴うご自身の制作・発表の環境などを考えた時、ギャラリーあるいはPARCに対して、どのような機能や役割があればよいと思いますか。

オンラインへの移行、展示+アーカイブなど多角的なアプローチでサポートされている現在の柔軟な対応を継続していただきたい。
その上で、PARCの特性はインスタレーションのうまさ、完成度の高さにもあったと思うので、行って・観て、そして絵画などの実作品においては実物にかなうものがないということを改めて体験できる展覧会を、率先して復活させてもらいたいと考えます。

次にPARCが再起動するならどういう空間をイメージされますか?

ギャラリー以上美術館未満(ものによっては同等)レベルの鑑賞体験を担保する展示空間。

最後に、制作場所の様子を撮影した写真を提供いただけますか?

工場街の倉庫に壁面を設置した空間で、学校の仕事のない時間にドーパミンを出しています。【*10】 Unlimited Drawingのためにカメラと照明付きドローイング台とモニタリング画面を恒久設置しています。 少しずつ増えていくコレクションと自作品を眺めていると、帰りたくない病になります。 オープンスタジオ展示もできるように、かなり無理をして空間を維持していますが、まだ実現していません。

  • 【*10】スタジオ内観

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