4月4日(土) 16:00〜(75分予定)予約不要・入場無料
京都芸術センター・山本麻友美氏をお招きし、染織をルーツに、「蝋結染」による絵画制作から、現在の鏡・写真などを用いたインスタレーションまで、これまでの西山作品の展開を中心にトークいたします。
4月11日(土) 14:30〜(75分予定)予約不要・入場無料
2012年に開催された「かげうつし―写映・遷移・伝染―」、現在開催中の「第二回かげうつし展覧会『Here-After』」などの企画を手がける林田新氏をお招きし、現在の西山の主題のひとつである「うつす」をテーマにトークいたします。
ギャラリー・パルクでは、3月28日[土]から4月12日[日]まで、西山裕希子による個展 “ You ” を開催いたします。
2003年に京都市立芸術大学大学院(染織)修了、現在は同大学大学院博士課程(油画)に在籍する西山裕希子(にしやま・ゆきこ)は、染織をルーツに、蝋纈染 などのテクニックを用いた作品制作をはじめ、近年は銀塩写真や鏡、ガラスなどをあわせて用い、インスタレーション的な空間展開を試みています。
『人の関係のなかの、精神的な距離の曖昧さや、揺らぎや緊張、他者へイメージを重ね投影するといった「うつす」ことに関心をもっています。』とする西山は、人の姿をおもなモチーフに、蝋と蝋の境界に出来る隙間を線として画面に残す蝋纈染めの技法を用いて描いています。この蝋纈染めによる蝋と蝋の境界にある不確定 で見えない隙間(距離)を、線として顕在化させるこのプロセスは、人と人との間にある曖昧な境界を巡る行為として作品化されているといえます。
また、このプロセスにおいて西山は「うつす」へも興味を寄せています。プリントされた既存のモチーフを西山の手によりうつしとるトレースドローイングによる作品 は、うつす行為の中に回避し難い僅かな像のズレ(対象との距離)を孕むものであり、西山はこうした「うつす」行為が「人の関係の間にある距離の曖昧さ」へと繋 がるものであると捉えています。同時にゼラチンシルバープリントやトレースドローイング、鏡や写真、物質への映り込みや光の反射などを要素に、ひとつの像が別の 媒体に「うつる」ことへの着目は、作品の在り方をフレームにより切り取られたひとつの物質に限定するのではなく、空間におけるそれら相互の関わり(距離)へと展開させています。
2012-14年にかけて、3度のドイツ・ベルリン滞在を経た後の発表となる本展では、西山がこれまで一貫して取り組み・深めてきた「人の関係の間にある距離の曖昧さ」への視点をなぞるとともに、現在の主眼のひとつである「うつす」ことへの関心をも垣間見ることができるのではないでしょうか。また、本展会場において鑑賞者 は、そこに作品をはじめとする様々な要素を見出し、それぞれの関わりや狭間にある距離を計りながら、いつしか空間そのものをなぞるかのような鑑賞を体験頂けるのではないでしょうか。
会場撮影:麥生田兵吾
わたしは、人の関係のなかの、精神的な距離の曖昧さや、揺らぎや緊張、他者へイメ ージを重ね投影するといった「うつす」こ とに関心をもっています。この関心をもとに、染織技法の蝋纈染めを使い、蝋と蝋の 境界/すき間を線として室内の人の姿やものの形を描いています。
また、この作品を 制作する中で、光とフィルム、鏡と写真、映像の映り込みや反射など、ある像が鏡や光を通して別の媒体に「うつる」ことに関心をもちはじめ、「うつす」行為に焦点をあてゼラチンシルバープリントやトレース によるドローイングなど、いくつかのメディアを選び制作しています。描く方法について:
描く方法として染色技法を用いる理由は、 染料を蝋で防染する行為にあります。蝋纈 染めは、描きたい線のまわりに、筆で溶かした蝋を布に浸透させ、その蝋と蝋の境 界に染料を染み込ませ、蝋のすき間を線として描いています。私はこうした制約となるようなプロセスを伴う方法を選び、その中での表現を試みています。なぜなら、 染料という本来水に溶けて滲むものを、 蝋を用いてその滲みを防ぎ、蝋と蝋の境界を線として描くことは、私が人の間に起こる関係について考え、目には見えない曖昧な境界を辿る行為を可視化し、流動的な人の関係の一瞬の状態を切り取り、 固定するものと考えているからです。「うつす」行為について:
ここでわたしの考える「うつす」とは、ある像が別の媒体の上へ転写、描写することです。わたし自身の手によって「うつす」ことを経過することで、像はそのまま転写されるのではなく、僅かなズレやブレをともないます。
たとえば、染色技法を用いた作品において、描かれる対象は、線を「うつす(写す)」行為を繰り返すことで、時間の経過によるものとは別の僅かなズレやブレをともないます。 またトレースドローイングの《trace the boundary》は、既存の捺染プリントのパ ターンを引用しています。このプリントの図は、〈女性が壁に映る男性の影の輪郭をなぞった〉ということが、絵画の起原とさ れる物語を元にしています。わたしはこの図を、制作に一部を引用しています。なぜなら、図のなかの女性が光を通して壁に映る男性の影の輪郭をなぞる情景と、わたしが染織による制作プロセスの中で、何度もひとの姿の輪郭線をなぞるように描 くことの間に、共通するところがあると思 い、そこに意味ある一致があるのではな いかと思った為です。トレースドローイン グは、この〈光を通して壁に投影された姿の輪郭をなぞる姿〉のプリントモチーフを、わたしの手によって「うつす(写しとる) ことによって、避け難い僅かな像のズレが生じ、対象との間に距離がうまれます。こ うした「うつす」行為によって、「人の関係の間にある距離の曖昧さ」と繋がる表現となると考えています。西山裕希子