Gallery PARCでは、京都の文化・創造活動の更なる活性化への支援のひとつとして、 若いアーティストに発表の機会を提供し、未知数の表現と多くの皆様との接点となるべく取り組みを続けています。
この度、美術家・渡邊真由のペインティングによる展覧会「山から家まで:渡邊真由展」を開催いたします。
渡邊真由(わたなべ・まゆ 1984~)は、画面上に絵具の「小さな粒」をまるでビーズのように散りばめ、画面全体に心地よいリズムや波紋のような広がりをつくりだす、ユニークな絵画作品を制作しています。
渡邊は、キャンバスを前にまず情景や物の漠然としたイメージを思い浮かべます。
このイメージは「山」や「沼」といった具体的なものから、どこにも存在しない想像だけの情景、あるいは「つめたい空気」や「すきま」といった抽象的なものなど、渡邊の感じる気配や空気などが、キャンバスに色や線として描かれていきます。
その後、混色した絵具を注射器のようなもので粒にして、一気に散りばめていくプロセスでは、これらはある意味での「下絵」とも呼べるものです。しかし、その「粒を置く」行為は、下絵の色や線に強く従うものではありません。
「粒を置く」という行為について「人との関係性や、物事の仕組みを確認しようとする作業である」と言う渡邊は、下絵を描いた際に思い浮かべたイメージをより自分に引き寄せるように、あるいはそこから連想される新たなイメージを広げるかのように粒を配していきます。また、その粒は「連鎖・連続するリズム」として、互いの距離や配置に影響されながら、時に渡邊のコントロールすら超えて、新たなイメージを画面上につくりあげます。
ひとつの漠然としたイメージが、「色や線」と「連続する粒」のプロセスにおいてそれぞれ異なるベクトルを辿り、再度ひとつの画面に定着した作品は、ひとつのイメージを伝えながらも、そこに鑑賞者の想像を積極的に喚起します。
本展は、これまでの作品に新作を加えたおよそ15点で構成いたします。
タイトルの「山から家まで」とは、渡邊の作品制作における、異なる思考や感覚をたどる道のりを表しているとも言えます。
作品を前に鑑賞者の皆様にも、それぞれの想像の中で様々な道のりを辿っていただけるのではないでしょうか。
「山から家まで」
毎日が続くような何かが存在していること。
毎日が続いていくように何かが動いているということ。
朝が来るためにも、夜が来るためにも、雨が降るためにも、人間の関係にも、
見えないものにも、見えるものにも、何かが動いている、のだとおもう。
それが積み重なって山になる。
その山から家までのみちのりをたどって帰る。
【 制作について 】
同じものが沢山集まって違うものを形成する。
それは時に人の関係にもなり、時に皮膚の一部にもなる。
気になっていることを考えながら描いたり、つぶをのせたりする。
そうすることでそのことを理解出来るような気がする。
粒をのせることで、粒以外はあいだになる。
そちらのほうが今は重要に思える。
渡邊真由
最小の捉え方は観点によって変わる。宇宙を考えれば地球はほんの小さな点になり、地球を考えれば人は無数の点となる。渡邊真由の作品には、そんな無数の最小単位としての点が存在している。
渡邊は、本人が感じ得たモノの状況、例えばそれは人間関係であったり、大気の流れや生命の息吹といった場に存在するであろう眼に見えない関係性を具現化する。
それは絵画において、モノが存在する場としての下絵と、その場に存在するモノとしての盛り上がった無数の絵具の小さな固まり。それらが規則をもって画面に広がり、モノと場、その間にある関係性を描き出す。
渡邊は、その関係性を断定しているものではない。彼女は、彼女がとらえた素直な感覚をただ提示するだけであって、その作品を前にする鑑賞者をもその関係性の中に取り込んでしまう。時としてそれは、盛り上がった小さな絵具の固まりを山とさえ感じさせてしまうのだ。
草木貴照(成安造形大学非常勤講師)
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《relationship》 2010 25×25 《えだの方向》 2009 《内緒話》 2010 《はるやま》 2010 100×100 |