Gallery PARC[グランマーブル ギャラリー・パルク]では、2018年3月2日(金)から18日(日)まで、薬師川千晴による個展「retrace a pair 一対をなぞる」展を開催いたします。
2011年に京都精華大学洋画コースを、2013年に同大学大学院芸術研究科博士前期課程芸術専攻を卒業した薬師川千晴(やくしがわ・ちはる/1989年・滋賀県生まれ)は、在学中よりグループ展などに出品を重ね、2014年の個展『絵画碑』(Gallery PARC)以降、個展『絵画に捧げる引力』(Gallery PARC、2015)の開催、『ハイパートニックエイジ』(京都芸術センター、2015)への出品など、着実に活動を展開させています。
薬師川はこれまで、油絵具やテンペラ絵具を素材に用い、おもにデカルコマニー(*紙に絵具を乗せ、その上から別の紙を置いてひきはがすことで模様や像を生じさせる)技法を使用した、独特の絵画作品を発表してきました。この技法によって得られる左右対称の像を2枚の紙片に分かち、それらを大量に用いて画面上で構成する《絵画碑》作品や、絵の具を挟んだ紙を引きはがす際に見られる、絵具が引き合う力に着目した半立体の形状をもつ作品《絵具の引力》など、薬師川のこれまでの作品は、もともと1つであったものが2つに分かれた存在=「一対」の関係を主題に含んできたといえます。
今回初出品となる新作は、「一対」という存在に引き続き注目しながらも、「一対」を、“点と点”、“個と個”、“あちらとこちら”のような、異なる2つの存在の間に生じる“差異”や“距離”などの関係性とする思考のもとに、これまでとは異なる展開を見せています。
人が祈るときに両手を合わせる仕草から着想を得た新作《 右手と左手のドローイング 》は、右手と左手につけた異なる2色の絵具を、同時に紙に塗り付け、紙上で混じり合わせる作品です。手の痕跡、絵具のストローク、完全には溶け合うことのない2色の絵具が重なり、異なる色へと変化している様子などを画面から見てとることができます。同じく新作となる《 好一対の絵 》は、最初の絵に対し、それと「ペア」の関係となるもう一枚が描かれた、2枚の絵による作品です。一つの画面に描いた色やストロークを見ながら、もう片方の画面を描き、さらにその影響をうけて最初の画面に加筆するといった工程を繰り返しており、2つの画面は互いに影響を及ぼしあっています。
多数の工程を経て制作される前作と異なり、シンプルな手法で即興性を重視して制作される新作からは、絵具の物質性や手の痕跡といった身体性などといった、これまでの薬師川の作品にあった要素が凝縮されるとともに、互いに異なる性質をもった、非対称で異質な2つの存在からつくられる、新たな「一対」の思考を感じることができます。
今回の展示では、多数の新作のほか、《 絵画碑 》《 絵具の引力 》の未発表作品も出品します。薬師川の近年の作品を一望するとともに、彼女の「一対」をめぐる多数のアプローチを通して、“天と地”、“自己と他者”、“有と無”といった「二極」があることで生じる世界のあり方や可能性についても、思考をめぐらせる機会となれば幸いです。
一対をなぞる
紙に一つの点を描いてみる。そしてその隣にもう一つの点を描く。
すると二つの点には色の濃さや大きさの“差異”が生まれ、同時に2つの点の間にある空間は、お互いへの“距離”となる。
私はこの、点と点、個と個、あちらとこちらから成る“一対”の関係性に魅力を感じている。
天と地、自己と他者、有と無、二極があることで対の関係は成り立ち、
そしてそれは互いに必要とし合い、求め合うのだろう。
薬師川千晴
作家略歴
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《 右手と左手のドローイング 青/赤 》 紙、顔料、練りこみテンペラ 272 x 394 mm ©Yakushigawa Chiharu
紙、顔料、練りこみテンペラ 272 x 394 mm ©Yakushigawa Chiharu |