中澤有基(なかざわ・ゆうき/1980年生まれ)は、写真家として活躍する傍、写真ギャラリー「galleryMain」(京都)の運営のほか、「京都写真教室Tract」の運営、写真集出版レーベル「CITYRATpress」のメンバー、多くの写真展の企画・運営など、「写真」に多角的・積極的に関わっています。
中澤は写真の中に「何か」と「何か」が認識された時、そこに「関係性」が生じ、世界が現れること、また、それらの位置や距離という視覚的な要素が認識される関係に変容をもたらすことへの興味に端を発した作品制作に取り組みます。本展は、この”視覚”と”認識”への問いかけの一端として、写真における「白」を主眼に据えた作品によって構成されます。
20世紀半ばに登場し、90年代末には一般的なものとなったインクジェットプリントは、支持体となる紙にCMYKのインクを載せる(あるいは浸透させる)形式による印刷技術です。では、白を支持体(紙)の色に依存するインクジェットプリントにおいて、私たちが知覚する「白」とは、対象から写し取られた実際の「白い色」であり、対象に差した「光」であり、また「紙の色」そのものでもあります。つまり、インクジェットプリントにおける白は、その存在を明確に規定できないものであると言えますが、それでも私たちはその白を、「紙」と「白」と「光」とに判別して認識しています。これは、写真上の風景や事物を記憶や経験、その他の色(イメージ)との関係から想定することで認識しているといえます。
中澤は本展において、露出を極端に上げた、まったく無関係なイメージを配置・構成します。これにより無関係なイメージは、画面内の様々な白を「地続き」として、鑑賞者の中に新たな関係性が生じ、様々な認識が立ち上がることを目論見ます。
本展において、現在の写真というメディアの物質性にまで立ち返って発するシンプルな揺さぶりが、見るという行為に内在する無自覚な”視覚”と”認識”への問いかけとなれば幸いです。
デジタルカメラで写真を撮った時に、露出過多になった部分が真っ白になってしまう事がある。抜け落ちた白は別世界へ繋がっている何かに見える。デジタル写真において世界は数値化されたデータで表され、モニターでは光(RGB)となり、インクジェットプリントでは色(CMYK)になる。過剰な露出を与えられ光に蒸発した風景は、インクジェットプリントではインクの乗らないただの紙となる。それはいったい、写真なのだろうか、紙なのだろうか。本展では光(過去の現実)と紙(今)と白が地続きになり、見る者に新たな知覚を問いかける。
中澤 有基