Gallery PARC[グランマーブル ギャラリー・パルク]では、様々なクリエイション活動へのサポートの一環として、広く展覧会企画を公募し、審査により採択された3名(組)のプランを実施するコンペティション「Gallery PARC Art Competition 2014」に取り組んでいます。2013年末から公募を開始し、応募された44のプランから、審査員・平田剛志(京都国立近代美術館研究補佐員)、山本麻友美(京都芸術センタープログラムディレクター)の2名を交えた厳正な審査を経て、3つのプランを採択することとなりました。
本シリーズ企画展は、採択された薬師川千晴、むらたちひろ、松本絢子・山城優摩・森川穣の3名(組)による展覧会を2014年7月から8月にかけて「Gallery PARC Art Competition 2014」として3連続で開催するもので、本展はその第三弾となります。
企画:森川穣(もりかわ・みのる/1983年・大阪府生まれ)による「A Sense of Mapping ‒私の世界の測り方‒」は、松本絢子(まつもと・あやこ/1985年・大阪府生まれ)・山城優摩(やましろ・ゆうま/1987年・大阪府生まれ)の2名の作家によるものです。
本展キュレーターである森川穣は2006年に京都精華大学芸術学部洋画専攻を卒業、2007年にChelsea College of Art and Design Postgraduate Diploma Fine Artを卒業の後、おもにインスタレーションによる作品制作・発表を続け、現在は大阪を中心に活動しています。また、2008~12年にはアトリエ兼ギャラリーとして「studio90」の運営(2012年まで)や、2012年のアートラボあいち・常懐荘での「うつせみ」のキュレーションなど、幅広い活動を続けています。
「誰しも独自の地図感覚というものがある。目的地に辿り着くまでに何を目印にしているかは三者三様で、その目印を継ぎ接ぎしながら目的地まで辿り着く。松本絢子と山城優摩の作品は、その地図感覚の楽しさを改めて思い出させてくれる。」とする森川の企画による本展は、松本・山城の作品を地図に見立て、そこに新たな風景を見て、新たな視点を体験するものであるとともに、「読まれる絵画」として「地図の絵画性」へも言及するものです。
2009年に京都精華大学大学院芸術研究科芸術コースを卒業した松本絢子は、「風景を描くことには、写真や映像のような記録性も、地図のような正確さもない。しかし、描く行為は、私がその風景に対峙した時の思いを、やり取りの中からすくい上げてくれるかのようである。」として、風景を前にした時の記憶や感触を丹念になぞり・とどめるかのように風景を描きあげます。2011年に京都精華大学芸術学部造形学科洋画コースを卒業した山城優摩は、「絵画の地の上で時には地図を読む様に捉え図形であり空間でもある形や色彩を探る。 その集積によってあの名前のない豊かさを湛えた土地の様に固有の場を画面上に描き出したい。」として、オブジェにも見える半立体の絵画制作をおこないます。
Gallery PARC Art Competition 2014 #03となる本展では、松本・山城の作品が「地図」をテーマに交わります。また、会期最終日には会場において平田剛志(京都国立近代美術館研究補佐員)を交えた関連トークイベント:「地図感覚のこと」も開催いたします。
鑑賞者の皆様には、本展において普段見慣れた街並が異なる風景に見える瞬間や、知らない街を散策する時の楽しさといった身体の記憶だけでなく、ドキュメントでもあり絵画にも重なる地図の魅力に気付く機会となるかも知れません。
例えば初めて訪れる土地のことを考える。私は方向音痴なので、何度も迷子になり、何度も人に尋ねてようやく目的地に辿り着く。しかし最近はスマートフォンの地図アプリがあるので、初めての道でも目的地にまっすぐ向かうことができる。おかげで時間や体力は温存できるのだけど、なんだか物寂しさも感じる。知らない道に出た時のドキドキ、思いがけない風景に出くわした時のワクワク、道を尋ねる時の地元の人とのやりとり。そんなささいな出来事は、ガジェットとにらめっこしながら歩いていると出逢うことはできない。それまで自分の頭の中で継ぎ接ぎしていた地図はやがて消え去ってしまった。
松本絢子と山城優摩の作品は、地図の原初的な在り方を再び思い起こさせてくれる。松本は、実際に見た風景を、自分の記憶や意識によって慎重に再構成するようなドローイングを制作している。そこに立ち現れた風景は、写真などでは表現され得ない匂いや空気や音までをも想起させる。山城の作品は、一見何が表現されているのかわからないオブジェ(または半立体)なのだが、私にはアプリで見た街の鳥瞰図が、改めてごちゃまぜにされている印象を受ける。ごちゃまぜにすることで見えてくる新たな風景が新鮮に目に焼き付いてくる。
また彼らの作品を地図と見立てた時、地図の絵画性というのも思い起こさせる。それは常に「描かれている」にも関わらず、人々はそれを絵画とは認識しない。地図は鑑賞の対象ではなく、読まれる対象としての平面である。しかし、時が経ち、街並も変わればそのアクチュアリティは失われ、一転歴史資料となり、博物館等で鑑賞される対象となる。それでは「読まれる絵画」というのも存在しえないだろうか。例えば絵画を横に寝かしてみる。光に透かしてぼんやりと眺める。鑑賞方法を少し変えるだけで見えてくる絵画の多面性もこの展覧会で表現したい。
二人の作品を見た後の帰り道、地図アプリはしまって、自分の継ぎ接ぎだらけの地図を作りながら歩いてみれば、いつもの道でも新たな発見があるかもしれない。
企画:森川穣 (ASM実行委員会代表)
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