2013年1月10日〜1月20日

 

溶ける魚 ─ つづきの現実

ギャラリー・パルクでは、2013年の最初の展覧会として、
1月10日[木]から20日[日]まで「溶ける魚 ─ つづきの現実」展を開催いたします。  

本展は荒木由香里|衣川泰典|木村了子 + 安喜万佐子|高木智広|中屋敷智生|花岡伸宏|林勇気|藤井健仁|松山賢|満田晴穂|麥生田兵吾の10名+1組の現代美術作家の企画によって自主企画されたもので、京都精華大学ギャラリーフロールと同時開催でおこなわれるものです。ジャンルの異なる作家達が「シュルレアリスム」というテーマに取り組むことで、自身の表現を深める機会にするとともに、新たな表現展開の可能性を探求し、自らの表現を再確認する機会として企画されたものです。  

シュルレアリスムは、戦争や経済恐慌などにより憔悴していた20世紀初頭のヨーロッパにあって、1924年に文学者アンドレ・ブルトンが発した「シュルレアリスム宣言」を起点とする芸術運動であり、無意識や偶然性、夢や本能、幻想、神話、共同性をキーに、既存の論理や理性を超えて自身の内なる領域を探索し、そこに新たな美や豊かなイメージの世界を発見したものです。

それまでの倫理や価値観が大きく転換していく現実を前に、『芸術家は果たして何を考え・何をなすべきか?』という自問に対し、『自らの生み出した作品そのものによって真摯に現実と向き合う』という当時のシュルレアリスト達の態度は、「不安・恐怖」から目を背けるのではなく、美術家がより自身(=人間)の内面へと興味を持ち、そこに揺るぎない真実を見いだそうとしたものであり、それは、当時の時代背景に類似点の多い現在の日本の美術作家たちにとっても、多いに参考となるものといえます。

本展のタイトル「溶ける魚」は、アンドレ・ブルトンが1920年代に執筆したシュルレアリスムを代表する文学作品の題名から引用されており、10名+1組の美術作家が、現実から遊離・逃避した空想や幻想でも、現実そのものの是認や肯定、複製でもなく、自らの精神の内奥を見つめ、そこから汲み上げた何かにカタチを与えた「つづきの現実」を提示するものです。

「溶ける魚」「シュルレアリスム」というキーワードに、それぞれの作家が真摯に取り組んだ結果が、鑑賞者の皆様の内に「つづき」の物語を紡ぎだしはじめれば幸いです。

【関連情報】

溶ける魚 - つづきの現実 【第1会場】

会期:2013年1月10日(木) ─ 1月26日(土) 10:30~18:30 
※日祝休館 入館料:無料
会場:京都精華大学ギャラリーフロール 
〒606-8588 京都市左京区岩倉木野町137 TEL 075-702-5291 / FAX 075-723-1505
e-mai[fleur@kyoto-seika.ac.jp] HP[www.kyoto-seika.ac.jp/fleur/

オープニングレセプション

開催日時:1月12日(土)
会場:[1]京都精華大学ギャラリーフロール 15:00~16:30   [2]Gallery PARC(ギャラリー・パルク) 17:30~19:00
*オープニングレセプションは同日に2会場を移動して行います。

同時開催展

「DEMADO CONTEMPORARY ART PROJECT」 
VOL.6 木村了子+安喜万佐子「 鳥達は色彩を失ってから形を失う」

会期:2013 年1月10日(木) ─ 2月17日(日)
会場:HRDファインアート
〒602-0896 京都府京都市上京区上御霊竪町494-1  TEL:075-414-3633 / FAX:03-4578-9168
e-mail : info@hrdfineart.com
HP:http://www.hrdfineart.com/demado/dtop.html
*DEMADO CONTEMPORARY ART PROJECT は
HRDファインアートのオフィスに併設したウィンドウギャラリーの展示プロジェクトです。

お問合せ先

「溶ける魚 - つづきの現実」実行委員会
e-mail :tokeru_fish@yahoo.co.jp HP :tokeru-sakana.jimdo.com

展覧会趣旨

アーティスト企画によるグループ展「溶ける魚 - つづきの現実」を開催いたします。
本展には10 名+1 組の現代美術作家が出品いたします。

本展のタイトル「溶ける魚」は、フランスの文学者アンドレ・ブルトンが1920 年代に執筆した小説の題名から引用しています。20世紀の最も重要な芸術思想のひとつであるシュルレアリスムを代表する文学作品として知られる『溶ける魚』は、自動記述という実験的な手法によって書かれています。前後の論理的な脈絡を無視した意味不明な言葉・文章の連なりは、「意味」の束縛から読む者の精神を解き放ち、自由で豊かな、美しいイメージの世界へと誘います。「溶ける魚」という言葉そのものが、論理的なつながり=意味からの解放を象徴した言葉だといえるでしょう。

シュルレアリスムは、戦争や経済恐慌により憔悴した20 世紀初頭のヨーロッパの精神状況を背景に、機械、科学、技術、それらの前提となる論理、理性といったものを否定するダダイスムの思想を引き継いだ芸術運動でした。ただし、シュルレアリストたちはダダイストのようにただ理性を否定するだけにとどまらず、無意識や夢、本能といった内なる領域の探索に乗り出しました。そして彼らはそこに、新たな美、豊かなイメージの世界を発見することになるのです。

シュルレアリスムが生まれた当時の時代背景と、今私たちが生きる日本の社会状況には、いくつかの奇妙な符合を指摘することができます。東日本大震災とそれに起因する原発事故、また金融危機と長引く不況、政治の不毛……産業革命とIT 革命を重ね合わせることも可能でしょう。私たちは今、これまで信じてきた価値観を否応なしに問い直さなければならないような、不条理な現実に直面していると言えます。

非現実的な筋書きがそのまま現実になったかのような時代状況の中で、美術作家は何を考え、何をなすべきなのでしょうか? 社会的な活動に身を投じたり、社会的なメッセージを込めた作品を提示したりするのではなく、自らの生み出す作品そのものによって真摯に現実と向き合うこと――これは、技法も作風もスタイルも様々に異なる本展の出品作家全員に共通する姿勢です。まさにこの点において、20 世紀ヨーロッパのシュルレアリストたちの態度には参考にすべき部分が多くあります。

本展で提示される作品はいずれも、現実から遊離・逃避した空想や幻想でもなく、かといって現実そのものの是認や肯定、複製でもありません。展覧会タイトルの「つづきの現実」という言葉には、作品が立つべき位置の理想を託しました。作家自らが精神の内奥を見つめ、そこから汲み上げ何かに形を与えた表現として、作品を通じて「つづきの現実」を提示することが本展の大きな狙いです。

「つづき」という言葉には、シュルレアリスムという美術史の金字塔に向き合い、その意味を今一度探り直し、その「つづき」としての自己に意識を向けてみようという、本展に臨む私たち作家の意思も込められています。日頃シュルレアリスムを意識して制作に取り組んでいる作家も、またシュルレアリスム的な作品を制作している作家も本展には含まれていません。

しかしながら、コラージュやデペイズマン、フロッタージュなどの造形手法から、今や「奇妙」を意味する日常語として定着した「シュール」という言葉にいたるまで、シュルレアリスムの多大な影響は現代の日本においてもその効力を強いままに維持しています。本展は、参加作家ひとりひとりがこの大きな美術史上の存在と今一度対峙し、それをきっかけに自らの制作を新たな目で再確認するための場でもあります。

「溶ける魚」「シュルレアリスム」というキーワードと出品作家それぞれの作品、また作家の作品同士が様々に化学反応を起こし、鑑賞者の心の中に「つづき」の物語を紡ぎだすこと、さらには美術史の「つづき」としての現代美術の魅力を鑑賞者に開示する機会となれば幸いです。

 





「溶ける魚 - つづきの現実」実行委員会 (代表 衣川泰典、高木智広)

作家略歴

荒木 由香里 ARAKI Yukari

1983年 三重県生まれ
2006年 名古屋芸術大学美術学部造形科研究生修了

身のまわりのありふれた日用品などのモノを作品の素材としている。本来の使用目的や意味から解放されながらも、それらの素材が集まることで原初的なエネルギーを感じる新たな造形を生み出す。どこかオブセッショナルで不気味な空気を漂わせながら、美しく、ユーモラスでもある。

 
作品画像

荒木 由香里
ARAKI Yukari
Red 2011


衣川 泰典 KINUKAWA Yasunori

1978年 京都生まれ
2004年 京都精華大学大学院芸術研究科攻修了

印刷物やプライベート写真による風景などを大画面となる支持体にコラージュ、ペインティングをして制作。描かれた風景などは記憶の断片としてスクラップブックのような絵画が描かれている。世界から切り取られるように描かれた風景などから、ともに共有できる記憶の姿が浮かび上がる。

 
作品画像

衣川 泰典
KINUKAWA Yasunori
スクラップブックのような絵画#6
(僕達の記憶Ⅱ)2012


木村 了子 tokeruURA Ryoko

1971年 京都府生まれ
1997年 東京芸術大学大学院美術研究科修士課程壁画専攻修了

伝統的な日本画の手法を用い、東洋の美しい男性(イケメン)をモチーフに様々なテーマで描いた作品を発表。女性目線による男子の爽やかなエロティズムの表現には定評がある。王子様や人魚、ターザンやカウボーイなどファンタジックな男性像が織り成す作品郡は、過去と現在、和と洋が絶妙に交差する独特の画風を形成。 *今展では洋画家、安喜万佐子とのコラボレーション作品を出品。

 
作品画像

木村了子+安喜万佐子
KIMURA Ryoko+YASUKI Masako
コラボレ-ション作品
(イメージ画像)2012


安喜 万佐子  YASUKI Masako

1995年 京都精華大学大学院美術研究科修了
2001年 エジンバラ芸術大学(英国)アーティスト・イン・レジデンス
2004年 アーモスト大学(米国)ゲスト・アーティスト

鉱物そのものを扱うテンペラなど近代以前の手法を取り入れ、実在する「風景」を描く。近年の作品には、東洋的自然観や身体観を再考させる金箔を用いた作品もあり、「風景」に照射される身体感を浮かび上がらせる。
*今展では日本画家、木村了子とのコラボレーション作品を出品。

   


高木 智広 TAKAGI Tomohiro

1972年 岐阜に生まれる
1992年 武蔵野美術大学短期大学部美術科卒業

西洋の古典絵画の技法によって自然と人間と関係をテーマに制作をしています。近年はより日本的なアイコンを用いて、幕末から近代にかけての絵画のような日本と西洋の狭間の揺らぎ、不穏さを内包した絵を描いています。

 
作品画像

高木 智広
TAKAGI Tomohiro
落鳥の森 2011-2012


中屋敷 智生 NAKAYASHIKI Tomonari

1977年 大阪府生まれ
2000年 京都精華大学美術学部造形学科洋画分野卒業

激しい色彩と牧歌的な風景が同居した絵画を制作。現実と非現実な世界が混在した絵画は絵の空間にかかわる私達の体験や記憶を揺さぶる。

 
作品画像

中屋敷 智生
NAKAYASHIKI Tomonari
Big Day Coming 2012


花岡 伸宏 HANAOKA Nobuhiro

1980年 広島県生まれ
2006年 京都精華大学大学院芸術研究科博士前期課程修了

おもに木や樹脂を用いた作品の多くは、まるで無関係な要素がコラージュされている。脈絡の無いもののイメージ同士を組み合わせることで、それらに付随する意味や価値、物語性などを曖昧にしている。文脈を超え意味を失っても、存在し続ける彫刻作品といえる。

 
作品画像

花岡 伸宏
HANAOKA Nobuhiro
ピンセットの刺さった円柱の飯は 木彫りの台を貫通する 2010


林 勇気 HAYASHI Yuki

1976年 京都生まれ
現在 宝塚大学造形学部准教授

身近な物事を撮影した膨大な量の写真をPC 上で切り抜き、繋ぎ合わされたアニメーション・映像作品を制作。私達が現実と信じる世界像にリアリティある/あってもおかしくない仮想空間的な世界とその世界で起こる出来事をえがいた映像作品をつくりあげる。

 
作品画像

林 勇気
HAYASHI Yuki
overlap 2012


藤井 健仁 FUJII Takehito

1967年 愛知県 名古屋市生まれ
1990年 日本大学芸術学部卒業

鉄による彫刻作品を制作。鉄という物質は近代文明の象徴であると同時に、私たち人間を組成する物質といえる。鉄を表現素材として扱うことで、近代文明や私たち自身の限界を問い直す作品ともいえる。

 
作品画像

藤井 健仁
FUJII Takehito
転校生/ 手紙2009


松山 賢 MATSUYAMA Ken

1968年 岩手県生まれ
1993年 京都市立芸術大学大学院修了

絵画は、色と形、マチエールから成り立っています。絵具で作られる色、筆などの道具によって描かれた形、筆触、支持体、絵具の物質感、として見えます。赤い色の面は、赤い色の絵具が塗られたもの、写真のように立体的に描かれた皿は、キャンバスに置かれた絵具の集積の結果にすぎないのです。

 
作品画像

松山 賢
MATSUYAMA Ken
絵の具の絵(バーミリオン)2012


満田 晴穂 MITSUTA Haruo

2008年 東京藝術大学美術研究科修士課程彫金研究室修了

彫金の技術を用いて自在置物を製作している。おもに銅、真鍮による素材を色仕上げも金属工芸手法に基づいた手法に独自の手法を組み合わされ制作された生物達には、人間の手技による限界を感じさせない。

 
作品画像

満田 晴穂
MITSUTA Haro
晩餐2011


麥生田 兵吾 MUGYUDA Hyogo

1976 年生  

写真家。現在、2 つの制作を行なっている。ひとつは「 pile of photographys」。Web 上で日々途切れる事なく写真イメージを積み重ねていく作業として制作。もうひとつ「Artificial S.」。これは支持体や実際の空間と写真イメージを強く関わらせた作品群といえる。

 
作品画像

麥生田 兵吾
MUGYUDA Hyogo
主題“artificial s.” から、作品「無題」2004

 

 

空白