ギャラリー・パルクでは10月9日から21日までの期間、「よむこと・紙出来」展を開催いたします。 本展は「よむこと・紙出来展覧会実行委員会」の主催によるもので、藤本由紀夫、井田照一(参考出品)、今井祝雄、石川亮、北野裕之、長尾浩幸による「紙」にまつわる新作(一部旧作含む)によって構成されます。 私たちの暮らしにあって身近な「紙」。福井の越前和紙・京都の黒谷和紙をはじめ各地の伝統産業・文化として、あるいは自然環境保護の見地からも注目される紙はまた、美術表現、とりわけ現代美術にとっても大きな存在であり続けています。絵画や写真などの支持体としてのみならず、光を透過させ、軽く、柔軟でいて変化可能なその特性は、オブジェなどへの展開をはじめ、多様な表現の可能性を拡げる素材であり続けています。 本展では伝統的な素材でもある紙を使い、様々な方法論と手法による「紙の上の出来事」を作品として展示します。会場に構成された作品により、紙という素材の持つ面白さと、記号としての意味作用とを交錯させて鑑賞者に投げかけるものです。 現代美術の表現における「紙」の持つ意味を問いかけることは、我々の暮らしや文化について思索する契機となるかもしれません。 身近な「紙」からはじまる多様・多彩な表現の数々をお楽しみください。
「よむ」とは本を読む、歌を詠む、事態・成り行きを読む、心を読むなどの意味が含まれており、言葉の中に様々な解釈が生まれてくる。その言葉を綴る紙は、手紙、ノート、楽譜、地図、書物のほか、書や写真、絵画表現にもひろく使われてきた。現代美術の表現においても紙の持つ意味を問いかけることは、我々の暮らしや文化について思索する契機となるだろう。
紙について滋賀の周りを見渡せば、福井の越前和紙をはじめ、京都の黒谷和紙、奈良の吉野和紙、岐阜の美濃和紙、三重の伊勢和紙など歴史と伝統を誇る産業として存在している。滋賀の紙といえば、素材に大型の多年草としてヨシが思い浮かぶだろう。ヨシ群落は水質浄化や湖岸保護の機能をもち、今日も植栽がおこなわれている。これまでも丈夫な葉や茎を利用して、よしずやよし紙として伝統的に利用されている。また、豊かな清水と山野に自生する「雁皮・がんぴ」を原料とする近江雁皮紙は、保存に優れており強靭で滑らかな地肌が美しく、料紙や表具、修理用紙のほか版画紙や出版にも使われる。紙の製造行程は、地域によって様々であるが、良質な水や石灰、優れた製紙原料に恵まれた場所にあって、熟練した職人の手によって漉かれたもので、繊細で独特の風合いと丈夫な機能を持ち合わせいる。そしてこの固有の素材から多くの作家が触発され数々の作品が生まれてきたのだ。
現代美術の中でも紙の存在は大きく取り上げられており、描くための支持体にとどまらず、柔軟で変化することが可能な素材として多くの作家が挑んでいる。紙の繊維は墨や絵具を程よく吸込み、時に軽やかな表面は強固なオブジェとして生まれ変わることもできる。また、大量の情報が行き交う環境の中では、新しいメディアの登場によって、改めて紙の持っている潜在性を解放し、紙本来の素材としての多様性を見いだせるだろう。さらに、様々な価値観の中で古くから地場産業として守り続けて来た技術に着目することは、地域の文化や伝統の中で息づく紙の存在を見直す契機となるだろう。本展では、「よむこと」の意味を問いかける作家が、伝統的な素材でもある紙を使い、異なる方法論と手法を用いて、その「紙の上の出来事」を作品として展示する。会場で構成された作品によって、紙の持つ面白さと、記号としての意味作用とを交錯させて鑑賞者に投げかけるものである。
長尾浩幸
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