ギャラリー・パルクでは、「Big Day Coming:中屋敷 智生」展を開催いたします。本展は2000年に京都精華大学 美術学部 造形学科 洋画分野を卒業した中屋敷 智生(なかやしき・ともなり / 大阪・1977~)の、久しぶりとなる京都での個展として、新作を中心にその絵画作品の魅力をご紹介します。 中屋敷はまず心に留め置かれた「ある風景」を描くにあたり、ドローイング制作によってその構図・色彩のイメージを形作っていきます。そして、写実的な絵画制作を下部構造としながら、その画面には次第に印象や空想、あるいは筆や絵具の動きがつくり出す偶然の関係性など、様々な虚構的要素が重ねられ、それらは綯い交ぜとなってひとつの「ある風景の絵画」として集約されていきます。また、リアル(実在)に虚構性が混入されたかのような絵画は、そこにSFのようなリアリティー(迫真性)を持った「真実味」のある世界を出現させます。
画面の大半を占める空に圧倒的な虹(のようなもの)が立ち上がる《 思い出の夢 / Dream of Memories 》では、混じりあった絵具の見せる抽象的なディテールはそのままに、「虹(のようなもの)」としての強烈な虚構が、なおも力強い真実味をもって画面全体を統べているかのようです。 本作品において中屋敷は、湿度や気温との兼ね合いの中で、絵具の水分や色調を調整するなどのテクニックを用いながら、偶然によってあらわれるマーブリングのような現象を、あたかもその風景に「召喚」したかのように出現させています。中屋敷はそこに空想・記憶・虚構・事実・夢想が曖昧に混じり合う、予定調和と破綻の狭間に揺れる絵画を描き出しているといえます。 新作を含む作品およそ10点を展示する本展では、その力強い作品を展観いただくとともに、次第に実在と虚構が綯い交ぜとなるような不思議な感覚を覚えていただけるのではないでしょうか。
Big day coming
ある日、出会った風景をキャンバスに描こうと、ファインダー越しに記憶の断片を写真に留め、それを頼りに写実的な絵を描いてみた。
しかし、それは退屈で空虚なモノだった。
その後、絵画の主題は、私の主観的な経験と勘、そしてちょっとした偶然を介して、今まで捉えきれなかった表層を紡ぎだしはじめた。
それは、言わば虚構的な翻訳を通じて私の記憶および感情に色を付けることであり、そのようにして色付けされた絵画は、個々に経験を積んだ真実より、リアルで感情を揺さぶられる風景、否1枚の絵画として誕生した。
私の絵画制作のプロセスは、非常にユニークである。例えば、とある風景をキャンバスに描こうとドローイングを幾つか制作し、構図、色彩のイメージを固めていく。
その後、様々な実験を行い、キャンバスを回転したり寝かしたりを繰り返しながら幾層にも色が塗り重ねられていく。
最終的に完成するイメージは具象的な物が多いが、大半のプロセスは、偶然と必然との間をスリリングに行き来する抽象的な表現でテクスチャーが生まれていく。特に様々な種類のアクリル絵の具やメディウム、水分を厳密に調合して、寝かされたキャンバスに描く
「Drawping」(Drawing / Dripping)という技法は、重力によるキャンバスの撓み、季節によって変化する温度や湿度などの微妙な変化にも影響される非常にデリケートな表現方法である。
そうしたプロセスの中、いつしか自分自身と数枚のドローイングだけを頼りに虚構の道筋を描いて行くのである。
中屋敷 智生
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《思い出の夢 / Dream of Memories》 《Big Day Coming》 《Go Ballooning》 《Green River》 |