Gallery PARC[グランマーブル ギャラリー・パルク]では、2012年6月2日から17日まで、「回帰:recurrence 花岡伸宏」展を開催いたします。
花岡伸宏(はなおか・のぶひろ/広島・1980~)は、2006年に京都精華大学大学院を修了後、近年までおもに木彫による作品を制作・発表し、2009年には「第12回岡本太郎現代芸術賞展 特別賞」を受賞するなど、その特徴的な作品はこれまでにも多くの注目を集めています。
「飯の棒」は木彫の人物像に捻り込まれて貫通し、仏像の上部はバネに引っ張られ、少女像の左肩はずり落ちて飯の塊に突き刺さり、開けられた穴からは押しピンを含んだ糊状の飯が押し出される……。
おもに木や樹脂を用いた花岡作品の多くは、まるで無関係な要素がコラージュされ、またそこに何らかのアクション(の痕跡)が残されています。
素材感や触感、大きさや色、あるいは臭いや食感といった鑑賞者の記憶や経験まで、その背景や文脈の異なるそれぞれの要素は、それらが相互に特定の文脈や意味を持たないよう花岡により選び出されたものであり、それぞれが絶妙な差異とバランスを保ちながらひとつのカタチに統合されつつも、なお「意味を持ち続けない」ことで、そこに極めて特異な状況をつくり出していると言えます。
鑑賞者は花岡作品を前にした時、一見するとそのトリッキーなユニークさに驚き、思わず笑みを浮かべてしまいます。しかし、それは花岡により入念に吟味・制御されてつくり出された「いつまでも・どこまでも脈絡の無い もの:状況」を前に、事態を掴みかねて困惑し、思わず浮かべてしまう「思考停止の微笑」のようであると思えます。
そして、鑑賞者はそこに意味を求めて目を凝らし、思考を巡らせ、それでも状況を掴めないまま作品の前に佇むうち、次第に思考はどこか無意味なものであるかのような感覚を覚えます。また、同時に目の前の「得体の知れない」コトへの不安や恐れすら感じることもあるのではないでしょうか。
様々な要素を見極め、彫り出し、削ぎ落とし、ひとつの造形に統合された花岡の作品は、鑑賞者それぞれに、目の前の事象が時にまったく違って見える・感じるショッキングな作品体験をもたらします。
現実の質量や量塊を持つ彫刻が本来持ちうる特性を誠実に用いながら、近年にはそのバランスは絶妙に、造形はより巧妙になりながらも、より「彫刻」の本質的に迫るかのような展開を見せています。
自らが「回帰」と名付けた本展では、それら近作を含め、これまでの過去作から自身がピックアップした作品により構成します。
ユニークな作品体験とともに、現在に至る花岡作品の展開を概観いただけるのではないでしょうか。
脈絡の無いもののイメージ同士を組み合わせることで、それらに付随する意味や価値、物語性などを曖昧にするという作業を行っています。
人は何かものを見た時に必ず、自分の今までの経験や知識と結 びつけて、その存在を理解しようとそのものが何であるか判断したり、納得しようとします。しかし私たちの日常の中で稀に過去の経験や知識が通用しないもの、又は場面と遭遇することがあります。時にその存在(状況)は不条理であったり、人に不快感を与える事もあるでしょう。私はこのように前後の文脈を超え意味を失っても尚、形として存在し続けるものに心を揺さぶられます。
今展覧会では木彫による立体を中心に、平面、映像を過去作品と共に展示致します。花岡 伸宏
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不在のための構成(女) 垂れた絵の具は飯の桶にたまる バネの引っ張り |