Top

Previous page

Artists Interview
薬師川千晴Artist InfoOnline Store
2021年にリニューアルオープンした滋賀県立美術館での企画展参加や個展(2kw gallery)開催など、若手作家として近年注目を集める薬師川千晴さん。
Gallery PARCでは、2014年より毎年開催している公募展「Gallery PARC Art Competition」の初回採択企画として、自身初の個展を開催して以降、2015、2018年と3度の個展を開催してきました。
最初の個展では、デカルコマニー技法*によって得られる対称の像を画面上で再構成する作品《絵画碑》を中心に、以降、個展を重ねる中で「一対」という関係を思考した絵画制作・発表に取り組んできた薬師川さん。2020年からスタートした[m@p]meet @ postプロジェクトでは、《 右手と左手のドローイング 》シリーズ作品を、購入者とのコミュニケーションを通じて制作するプロジェクト型へと展開するなど、新たな試みに挑戦されている薬師川さんにお話を伺いました。(取材日:2021年8月上旬)

*紙に絵具を載せ、その上に別の紙を押し充て、ひきはがすことで対称の模様や像を生じさせる技法
薬師川千晴 制作スタジオ
PARCでの初個展以降から活動までの展開について

PARCでは2014年の個展「絵画碑」(Gallery PARC Art Competition 2014採択企画)の後、2015年に個展「絵画へ捧げる引力」を、2018年に個展「retrace a pair 一対をなぞる」を開催いただいていますが。それぞれの展覧会はどのようなものだったと考えていらっしゃいますか?

2014年の展覧会「絵画碑」は私にとって初めての個展でした。公募採択の電話がかかってきた時、嬉しすぎて人目もはばからず両手を天に掲げてガッツポーズをしたのを今でも鮮明に覚えています。この展覧会は、当時に考えていた自分なりの絵画論を全面に押し出した展覧会となりました。

その1年後の個展「絵画へ捧げる引力」では、前展で掲げていた漠然とした絵画論から、目の前の物質に寄り添いながら思考した絵画論へと移行していきました。そして、それから3年後の「retrace a pair 一対をなぞる」展では今までのように1つのテーマを押し出す展覧会ではなく、これまで積み上げてきた思想、思考、作品の一連の流れを知ってもらいたいと思い、ひとつの展覧会を意識して構成したものとなりました。【*1】

薬師川さんの考える「絵画論」について、どのように変化してきたのでしょうか?

初個展の主題でもあった「絵画碑」では、絵画の起源とはなんなのだろうかという問から始まり、絵画と人間の関係性を根本的に捉え直した上で、現代において必要な絵画とは何か、と自分なりに思考した結果、土から絵具を作り、完成した絵画に対峙し矢を射ったりしていました。【*2】
当時は漠然としてとてつもなく大きな絵画という存在に対して「挑む」という態度で制作をしていましたが、土絵具や弓矢など全て手作りで絵画を制作する中で徐々に、ものを作る行為や素材、物質そのものに着目するようになりました。
その流れで生まれたのがデカルコマニーを立体化した《絵具の引力》シリーズ【*3】です。物質自体の性質(絵具の固着力)に寄り添い、作品の形状から「祈り」という行為へと思考が派生していきました。現在では「対」という、ものとものとが関わる最小単位の関係性に着目し、さまざまな方法や素材を用い制作を深めています。

抽象的な言い方になりますが、当初は原初的な絵画を目指し、「1を0」に変えるために試行錯誤していましたが、今は0に身を任せた上で安心して1やそれ以外の数字のどこへでもいける感覚です。

  • 【*1】2018年「retrace a pair 一対をなぞる」展示風景  >Exhibition Info

  • 【*2】2014年「絵画碑」展示風景  >Exhibition Info

  • 【*3】2015年「絵画へ捧げる引力」展示風景   >Exhibition Info

*1

*2

*3

2018年の個展以降、作品や活動の内容に変化はありましたか?

2018年から今まで変わらず淡々と作品を作り続けています。活動としては、ありがたいことに少しづつ展示のお話をいただけるようになり、2021年には目標であった「VOCA展」(上野の森美術館)出品【*4】と、美術館での企画展(滋賀県立美術館)【*5】に参加させていただくことができました。

2021年に2kw gallery での個展や、滋賀県立美術館のリニューアルオープン記念展で発表された作品は、これまでの展開とまた違った視点・試行錯誤があるように感じますが、現在に取り組まれている作品について教えてください。

どちらの展覧会もノックという行為を作品化した両面自立絵画【*6】を出品しています。 ノックという行為は、ドア一枚隔てた向こう側の領域に入る前の合図であり、見えない他なる場や他者へこちら側の存在を知らせる配慮が含まれています。 SNSの発達により、個人へのアクセスが極端に簡易化したこの世界で、今、このノックという “こちらから向こうへ”、そして“向こうからこちらへ” 投げかける小さな行為が今後の社会においてキーワードになってくるのではないかと思い、ノックという行為自体を作品化することを試みました。

また、2kw galleryでは両面絵画から派生した透明のアクリルの両面から油絵具で描く「好一対の絵 #対話」を初発表しました。

  • 【*4】「VOCA展2021 現代美術の展望 ─ 新しい平面の作家たち ─ 」(上野の森美術館)撮影:上野則宏

  • 【*5】滋賀県立美術館のリニューアルオープン記念展「Soft Territory かかわりのあわい」(滋賀県立美術館)撮影:麥生田兵吾

  • 【*6】《 knock 》*「Soft Territory かかわりのあわい」展示風景 撮影:麥生田兵吾

*4

*5

*6

この1年、2020年の活動について

2020年には展覧会の開催が難しくなることも多かったと思いますが、薬師川さんにとっては、この1年はどのようなものでしたか?

2020年は2月に展覧会「解体とアプローチ 田中真吾✕薬師川千晴展」(東近江市立八日市文化芸術会館)【*7】に参加し、トークにも沢山の方が集まってくださいましたが、そのたった2ヶ月後の4月の2kw galleryでの展覧会「ゲシュタルトの祈り」【*8】ではコロナウィルスの発生により世界が一変し、展覧会をお客様に見に来ていただくということ自体が困難な状況になりました。たった、ほんの数ヶ月でここまで世界の価値観が一変してしまう事にゾッとしました。作品を制作すること自体は、元々孤独な作業なので支障はありませんでしたが、それを発表する展覧会の場合はダイレクトに影響を受けることが多く、中止になってしまったものもあり世の中の情勢に翻弄される1年でした。

この1年の間に始めた新たな取り組みなどはありますか?

今まで絵画教室の講師や公民館や大学などで、絵画技法の実習やワークショップをする事が多かったのですが、対面での授業が難しくなってしまったことで、zoomを使ったオンラインでの教室開催などを行いました。また、YouTubeなどの動画配信サービスで、子供向けの技法紹介動画(「あまらぶアートラボ」企画)を作成したり、最近では「MEET YOUR ART」というアートの動画チャンネルでインタビューをしていただき、配信されたばかりです。

  • 【*7】「解体とアプローチ 田中真吾✕薬師川千晴展」 展示風景(2020年2月 / 東近江市立八日市文化芸術会館 / 滋賀) 撮影:麥生田兵吾

  • 【*8】「ゲシュタルトの祈り」展示風景(2020年4月 / 2kw gallery / 滋賀) 撮影:前谷 開

*7

*8

[m@p]meet @ postについて

PARCでは昨年[m@p]meet @ postプロジェクトを立ち上げ、薬師川さんにもご参加いただきました。購入者の方から「好きな色」について郵便はがきで返信をいただき、3ヶ月後のお届けには、その色と薬師川さんが選んだ色で《右手と左手のドローイング》【*9】が制作されました。4回の制作・発送を終えて、いかがでしたか?

私は今まで作品に色を使う際、自分の感覚のみで色を選択していましたが、この[m@p]の取り組みでは購入者の好きな色を聞き、その色を私がつくるという取り組みをさせていただきました。他者の想いに寄り添いながらの色作りはとても新鮮で、思いを馳せながらの混色はとてもドラマティックでした。

*[m@p]meet @ postプロジェクト>more

[m@p]については今後も第二弾として継続を考えています。続けて参加してみたいですか?その場合には何か考えていらっしゃることありますか?

実際に参加してみて、納得いく作品になるまでにかなりの枚数の失敗作と時間が必要だと分かったので、また[m@p]に参加する場合はロット数をもう少し少なくするか、単品販売に切り替えようか検討中です。

オンラインストア[parcstore]での取り扱い作品について

現在、[parcstore]で[m@p]の他にも、薬師川さんの作品を販売しています。どのような作品ですか?

右手と左手で描くシリーズ「右手と左手の絵画」【*10】を販売しています。 この作品は右手と左手に異なる色を付け、両手で直接描く作品になっています。粒子や粘度を調整した自作の絵具を使う事で2色の交わる境界線は混じり合いながらも、個が個として独立する中で共存しあいます。

今後に《knock》シリーズの額装作品【*11】も出品したいと思っています。

  • 【*9】[m@p]スタンダード参考画像

  • 【*10】《右手と左手の絵画》参考画像  >Online Store

  • 【*11】シリーズの額装作品《knock》参考画像

*9

*10

*11

今後の展望

これから取り組みたいと考えていることや、今後の活動予定を教えてください。

この1年立て続けに展覧会が続いていたので、今までの作品のデータの整理と、透明アクリルの両面から描く「好一対の絵#対話」シリーズ【*12】にもう少しじっくり取り組みたいと思っています。

現在あるいは今後に予想する社会状況において、作品制作における環境やギャラリーなどのインフラに対して、そしてPARCに対して、どのような機能や役割があればよいと思いますか?

作品、特に大作を制作した際、公共の場や企業、ホテルなどへのコネクションを提供いただけると大変助かります。

次にPARCが再起動するならどういう空間をイメージされますか?

願わくば、天井高のある広い空間、美術館のスケールにも負けないくらいのギャラリー空間、そして空間を隔ててカフェなども併設されており様々な人が気軽に立ち寄れるような空間が理想です。

最後に、制作場所の様子を撮影した写真を提供いただけますか?

展覧会前は複数の作品を同時進行で制作するので、作品がごった返し足の踏み場がなくなることも多いです。サイズの大きな作品もあるので、作品の保管スペースにも悩んでいます。

  • 【*12】「好一対の絵#対話」シリーズ

  • 【*13】スタジオ内観

*12

*13