平田剛志 (美術批評)
5回目となる本公募は、過去最多の66件のプランが集まりました。ご応募頂いた方々に心より感謝申し上げます。本年より、ギャラリー移転に伴い、会場が3フロアへ拡大、会期が3週間に延長、公募枠が2名(組)へと変更となりました。条件は難しくなりましたが、質の高いプランが多く集まりました。
今年の応募プランの特徴は、「インスタ映え」ならぬ「インスタレーション映え」を指向したプランが多かったことです。世間と同じく美術界も「インスタ」流行りのようです。
しかし、絵画や彫刻、染織、陶芸、写真、映像、リサーチ作品までが「インスタレーション」の言葉で記述される状況をみると、「見栄え」だけで言葉を選んではいないかと戸惑います。果たして「インスタレーション」とは、どのような言葉なのでしょうか。今一度、言葉を振り返る必要がありそうです。
たくさんのプランの中から2つを選ぶ難しい審査となりましたが、作品のオリジナリティ、イメージの強さ、技術、プランの簡潔で明確な文章を総合的に判断し、森岡真央氏、平野泰子氏の2氏を選出することとなりました。
森岡真央「M ≒ m」
犬や家、アイスクリームなどをドローイング風に単純化した線で描く森岡の絵画シリーズは、飄々として朗らかで、絵を見ることの愉楽を呼び覚まさせてくれるプランでした。とはいえ、森岡の絵画はシルクスクリーンやイラストレーションではありません。「同一性と差異」をテーマに、大胆不敵なモチーフ選択とドローイングを解体・再構築した線と面の構成によって生まれた日本画なのです。本展は、「日本画」の言葉をことさら必要としない絵画の現在形をポジティブに示す機会となるでしょう。
平野泰子「距離をとってみるために」
平野が描くカラーフィールドペインティングは、今回の応募プラン中唯一、絵画の色層から立ち現れる空間を表現していました。マーク・ロスコやバーネット・ニューマンを思わせる「場(フィールド)」の現出は、絵画にしかできない、絵画だからこそできる普遍性と可能性を感じました。テーマの「距離を持つ」は、絵画と空間の関係だけでなく、対象や時代と距離を持つ態度でもあるでしょう。芸術が「つながり」過ぎている今、平野の絵画を距離を持って見つめたいと思います。
勝冶真美 (京都芸術センタープログラム・ディレクター)
今年は前年に比べ応募件数も文字通り倍増し、本コンペティションの認知度が向上していることを感じました。Gallery PARCが移転し新たなスペースとなったことが、アーティストにとってここで展示したいという動機付けになったのかもしれません。新生Gallery PARCでの初めてのコンペティションということで、この2階から4階へと続く特徴的な空間への魅力的な提案が多くありました。
審査の結果、森岡真央氏と平野泰子氏、共に絵画作品の展示プランを選出しました。
本コンペは作品審査ではなく、プラン審査です。作品をどのように見せるのかについて意識を向けて欲しいというギャラリーの思いによるものですが、それは決して空間性が作品よりも重視されるということではありません。作品をどのように見せるのが最もふさわしいのか、という問いかけなのだと思います。
選出されたお二人のプランは決して奇抜な展示プランでもなければ、目新しい空間設計でもありませんが、それぞれの絵画作品と制作の動機、そして展示プランが適切にリンクしているように思いました。展示を通して多くの人がお二人の作品との対話を楽しまれることを願います。
今回は選外のプランの中にも興味深いものがいくつもありました。みなさんの今後の活動を楽しみにしています。