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Exhibition info

Gallery PARC Art Competition 2016 #01

豊饒史のための考察 2016
湯川洋康・中安恵一

Yukawa-Nakayasu

2016.7.6. 〜 7.17.

Exhibition View

11 images

Statement

 習慣・歴史・習俗をはじめとした過去から現在にわたる人間の営為とその痕跡と向き合い、そのメディウムやコンテクストを通じて多様な関係性を彫刻化する作品を制作する。

 彫刻化した作品を対象の“平衡”状態と見なし、その“平衡”を空間に配置する。

 鑑賞者が私たちの示す“平衡”と対峙するプロセスを通して現代社会に介入し、多様な次元を持つ関係性を構築する。

湯川 洋康・中安 恵一

About

本展は様々なクリエイション活動へのサポートの一環として、広く展覧会企画を公募し、審査により採択された3名(組)のプランを実施するコンペティションGallery PARC Art Competition 2016に応募された56のプランから、平田剛志(京都国立近代美術館研究補佐員)、山本麻友美(京都芸術センタープログラムディレクター)の2名の審査員を交えた厳正な審査を経て採択された湯川 洋康・中安 恵一、寺脇 扶美、嶋 春香の3組による展覧会を実施するものです。

 湯川洋康と中安恵一は、歴史や習俗・習慣に目を向け、入念なサーチ(探索)によって拾遺した様々なモノを組み合わせて「彫刻化」し、それらを空間に配することでリサーチ(再確認)をおこないます。拾遺した歴史や習俗・習慣・伝承、様々なモノ(石、瓦、陶片、空き缶、種子、米、鳥の羽、硬貨、貝、装飾具など)は組み合わされることで彫刻化され、物質的・精神的な関係性において個々の背景が剥奪された「一つの物質」に還元されます。
 そして、湯川・中安はそれらに新たな関係性(歴史・意味・価値・美など)を見出し、相互のバランスを丁寧に探りながら空間に配することで、そこに平衡を生み出します。この平衡を前に鑑賞者は、その中に次第に様々な文脈(美・記憶・文脈・歴史・好き嫌い)を見ることが出来るでしょう。それは目の前の「断絶」を認識し、価値をつくり、選択し、再び「繋げる」行為でもあると言えます。
 湯川・中安は、物質化されたモノを再び歴史化するプロセス(あるいはその反復)を鑑賞者に提示し、「いま・ここ」に内在する多様な平行世界の存在に目を向けさせます。また、彼らにおいて展示はサーチに対するリサーチ
(検証・再確認)であると言えます。

 本展示の構成は大きく二つに分けられます。
 ギャラリー入り口部分から床や窓辺に広がる「豊饒史のための考察 2016」は、湯川・中安の掲げるテーマ『豊饒史の構築』に基づくもので、おもに民間信仰の場面で用いられる物質(米、鈴、木の実、羽根、糸、ビーズ、装身具など)を物質として扱い、それらの組み合わせによって成された彫刻で構成されています。その多くは2015年の「豊饒史のための考察」(第18回岡本太郎現代芸術賞展, 岡本太郎美術館, 川崎)において発表されたものを中心とし、そこに各地で収集してきた様々な要素を加えて再配置・再構成されたものです。
 湯川・中安は本展においてこの「再配置・再構成」に比重を置いており、これまでの展示で取り組まれてきた「サーチ:リサーチ」の関係項からそれぞれを切り離し、よりマクロな視点で再構成することによって、より広い視野によって「いま・ここ」にまつわる過去・現在・未来を見渡そうとしているかのようです。その魅力的な造形は、歴史(場)に対して垂直に立つ彫刻は、「連続」と「断絶」の"シンボルとしてのモニュメントであるとともに、異なる歴史、異なる現在、異なる未来に「再接続」するための分岐点として機能しているのではないでしょうか。

 加えてギャラリーの奥部分には、一冊の本から切り出した無数の紙片を編み込んだ「本」、金継ぎされたタイルや陶片・瓦、中安家の鬼瓦、本居宣長「端原氏城下絵図(部分)」の写真、階段部分に設置されている10分の映像により構成される「別物語」が展示されています。
 「本」はある一冊の物語を、そのストーリーは追わずに文章ごとに切り分け、無数の文章群の中からひとつひとつの文章と対峙するように気に入った文章を1つ選び、選ばなかった残りの文章がすべて編み込まれたものです。ここに創作された物語(本)は、「選ばれた」というだけの事実に基づく1行の文章と、編み込まれて無数の文字群となった下地を持つ、異なる物語へと再構築されている。ここに湯川・中安が示す「別物語」という構造は、映像や金継ぎなどの作品に通底しているものであり、また、「豊饒史のための考察」に接続するものとして併置されている。
 また、ここで資料として展示されている「端原氏城下絵図」(はしはらし じょうか えず)は、近世の国学者・本居宣長が19歳の時に描いた架空の都市図であり、御所を中心に、碁盤の目状に通りが引かれ、周囲には山や川、さまざまな機能・性格を持つ地域が配されたものです。また、宣長は本図の前にこの「端原氏城下絵図」に住む架空の「端原氏一族」を系図にまとめた「端原氏系図」(はしはらし けいず)も描いています。
 おそらくは何らの機能や役割を持たないまま、現実(「端原氏城下絵図」は京都をモデルにしているとされている)から構造や歴史を抽出し、そこに想像と空想を注ぎ込んで創作されたこの2つの絵図は、「別物語」において創出されている構造を示すとともに、「豊饒史のための考察」を含む、湯川・中安の好奇心の向く先をうかがい知ることができるのではないでしょうか。

正木裕介

Gallery PARC