2000年に京都精華大学美術学部を卒業したヤマガミユキヒロ(1976年・大阪府生まれ)は、おもに鉛筆による精密な風景画(絵画)と、同一地点から撮影した映像をキャンバス上で重ねあわせる「キャンバス・プロジェクション」という独自の手法による作品を制作・発表しています。
ヤマガミによる「キャンバス・プロジェクション」とは、綿密なロケハンにより選び出した視点から見える風景の中から、うつろうことない建築や構造物をパネルに鉛筆で丹念に描画し、そのモノクロの風景画には、同一の視点(地点)から時間や季節を跨いで何度もロケを重ねた映像をプロジェクター投影するもので、これにより、一瞬をとどめたモノクロの絵画上には、映像による光や色彩、うつろいが投影され、画面上には時間が流れはじめます。また、たとえば「無人の渋谷ハチ公前」を映像で撮影することは困難ですが、絵画ではその光景を描き出すことができます。絵画ではその風景にあった刻々と変化する時間のすべてを描き出すことは困難ですが、映像はそこに少なからず迫ることができます。風景を絵画と映像に分解し、それぞれの特性を際立たせた後に再び画面上で解け合うこの方法は、いわばそれぞれのメディアの特性を膨大な作業量(鉛筆による細密描画と入念な映像撮影・編集)により融合させているといえます。
本展タイトルである「 Noises,Crowds,and Silent Airs 」は、京都の四条大橋東詰から西を望んだ作品《Noises, Crowds And SilentAirs》のタイトルに由来しますが、同時に2003年に同じく四条大橋に取材し、キャンバス・プロジェクションの手法を構想するきっかけとなった作品《Noises, Crowds And SilentAirs (study)》タイトルと同様のものでもあります。当初は「街のうつろいを如何に描き出すか」のために、都市空間の絵にトレーシングペーパーに描いた人物などを構成していた試行錯誤は、絵画とプロジェクターによる映像投影へと展開し、その取り組みは2008年に「第11回 岡本太郎現代芸術賞展」(川崎市岡本太郎美術館)において特別賞を受賞するなど高い評価を受けることとなりました。以後も「始発電車を待ちながら」(2012年・東京ステーションギャラリー)、「re:framing-表情の空間-」(2013年・京都芸術センター)、「窓の外、恋の旅。/風景と表現」(2014年・芦屋市立美術博物館)、「TARO賞の作家Ⅱ」(2014年・川崎市岡本太郎美術館)、現在開催中の「テンプス・フーギット ‒ 大山崎山荘とヤマガミユキヒロの視点」(大山崎山荘美術館)などの発表の機会ごとに、訪れた先々で数多くのロケハンをおこない、対象となる風景を選び出し、綿密なロケと映像編集などにより作品を制作・発表しています。
本展は、この同名作品の最新作をはじめ、各地でロケをおこなう中で制作したタブローによるキャンバス・プロジェクション作品およそ14点を一堂に展観するなど、近年のヤマガミの活動にともなうロードムービー的な側面を持ったスピンオフ作品の展示であるとともに、京都・大阪・神戸・東京などに取材し、それぞれの場に存在するうつろいが描き出された作品を「都市・風景・物語」の断片として集積したものです。