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[m@p] Artists Interview
各回封入予定 ZINE 素材イメージ
─[m@p]について  (取材日:2020.9.)

郵送で作品を送るという形式を先に聞いていたので、インドネシアにいながら、できることは何かをずっと考えていて、それでZINEのことを思いつきました。私は今年の4月からインドネシアにいるのですが、コロナの影響の中でインドネシアでの生活が始まったという特殊な環境にいるので、こういう人は他にあまりいないだろうなと。ポストに届くという形式から、自分の制作・作品がどうというよりは、どちらかというと「ニュースレター」という意識で捉えてプランを考えていきました。ニュースでインドネシアの感染状況は伝わっているかもしれないけれどそれとは違うレベルで、こちらの雰囲気が伝わればと思いました。作家がこういう状態で現地にいて何ができるのか、例えば最初は画材屋さんもどこにあるかわからない状態でしたが、ちょっとずつ言葉を覚えて、市場で買い物ができるようになって、紙が買えて…というような、ものすごいマクロレベルのニュースレターみたいなもの。自己表現とかとは違う作品のあり⽅やものづくりを探すきっかけになれば良いと考えています。

各回封入予定 ZINE 素材イメージ
─ スタンダードについて

現地で調達した布や紙といった材料でZINEをつくって送ります。1回目のZINEの表紙はインドネシア語の練習のためのドローイングです。インドネシア語の単語が覚えられないんです。もう歳なので。なので、文字のテンプレートの定規を買って、それでひとつずつ塗っていくと、さすがに覚えるかなと思って買ったんです。ただ書くだけじゃ忘れてしまうので、塗るという行為があると覚えるのではないかと思って。。四つ切り程度の⾊鮮やかな紙に⾊々な⼤きさの⽂字を配置して書きました。もう少し大きい紙に書いてそれをカットしています。ドローイングの上に、手書きで書いた文字があります。手書きで書いているものは何も見ずに、自分でもうすでに覚えた言葉で書いた文章なんです。下の層にあるのは、覚える時に定規で書いたもので、上の層にあるのはすでに自分のものになったインドネシア語です。そうやって言葉をどんどん自分のものにしていくために書いたものです。

─ 手習いやお稽古の層が見えておもしろいですね。この装飾は?

セレモニーの時に巻きつける飾りなんだそうです。記念日に自転車にそれを巻きつけて街を走るという習慣があったりします。ZINEをまとめている紐も、日本にはあまりない色だなと思って買いました。表紙の裏は、ストリートアートを写真に撮って、それを描いてみました。もともと字を変形しているようですが、私にはわからないので、抽象画に見えるんですけど、かたちははっきりしているので、おそらく意図があって描いているんだと思います。

[m@p]参考画像
─ この2枚目は?

赤と白のドローイングです。インドネシアの国旗は「メラプティ」という赤と白の二色です。日本の日の丸と同じ二色ですが、日本だと国旗を飾るということが日常の中では少ないですが、インドネシア人はそこら中に国旗がいつも飾ってあって、いろんなものの色が赤と白でデザインされていたりします。8月17日の独立記念日の時には、みんな赤と白の衣装を着て、体中に赤と白のペイントをしたり、10時になったらモナスという独立記念塔に向かって敬礼をしてました。自分たちの国を愛しているし誇りに思っていて、街中が赤と白で溢れるんですよ。みんな屈託なくて、全身赤と白で。独立は75年前で、日本の終戦記念日と数日違うだけで戦後すぐにできた国ですが、日本が戦後辿ってきた歴史と、その時に生まれた国がこうも違うのかと不思議でした。同じ赤と白の国旗なのにここまで国に対する意識や感覚が違うということがなんなのか。そういうことを思って始めたドローイングで、その一部を切り取って入れ込みました。

─ このページは裏側に何か描いていますね。

なぜかわからないけど、その落書きが街中にいっぱいあるんですよ。いろんなところにいろんな人が描いているので何かわからないけれど描いてみました。ストリートアートの本場なのであらゆるところに落書きがあるのですが、これがいろんなところに描かれていて、上手い人も下手な人もいます。今回はそんな感じに私も便乗して描いてみました。

─ 3〜6枚目は?

3枚目は中華街に行った時にお札やお香を置いていて、このお札もきれいなので何かと聞いたら「お祈りをする時に燃やすもの」らしいんですよ。お線香に近いのかもしれません。金箔が貼ってあるのも元からです。これには私は手を加えていません。人が亡くなった時は銀の札を使⽤するらしいです。こちらには中国の方が多くて、富裕層も多いですし、商売をされている人も多いので、インドネシアの中では中国人は経済力があると見なされています。 4枚目は気になったものを切り抜いて貼ったものです。インドネシア人のセンスがわかるような気がしませんか?屈託のなさというか。チョコレートのラベルも貼っているのですが、オランダの植民地だったので、オランダの香りが残るものも結構あって、喫茶店だったりクッキーとかパンの文化もあって、おそらくそのチョコレートもオランダ時代の流れだと思うんです。オランダの文化も残っているし、中華系の文化も入っているし、戦争の際は日本が入ってきたり、もともとのローカルな文化もある。インドネシアといってもものすごく大きい国なので、いろんな地方の人がいて元々の言葉は違うらしいんです。それを独立の際に統一したとのことですが、多文化、多様な層がある国です。寿司のキャラクターも貼り付けていますが、それは市場のかわいい紙が売っているコーナーのようなところで売られていた包装紙です。 5枚目はテキストなんですが、それをコピーするのが大変で。コピー屋さんに行ったんですけど、今コロナで全部ビニールでコピー機を囲っていて、自分でできなくて店員さんにお願いしないといけないんです。インドネシア語でなんとかコミュニケーションとりながらコピーしてもらったのですが、インドネシアはA4ではなくてフォリオ版という大きさでが主流で、微妙に縦に長いんです。はじめA4だと思っていたら少し長くて、途中であれと気づいて。それが結構カルチャーショック、初めに感じた異文化でしたね。 6枚目の折り紙はインドネシアで買った折り紙で、全10色で、それが全色なんですが、なぜ限られた10色でそれを選ぶのだろうというのが不思議です。黄土色などもないですし、蛍光色が3種類ぐらい入っているし。国の色彩感覚がよく表れているなと思うのですが、もしかしたら何も考えずにただ適当にそうしているだけかもしれません…。

─ 折り紙は折るためのものなのでしょうか。

インドネシアでも折り紙は⼈気のようです。また飾る⽂化も豊かに感じます。日本だとお葬式や開店祝いで花を出すけど、インドネシアではデコレーションされた看板を出すんです。そういったデコレーションが好きみたいで、先ほどの自転車に巻き付けたりする話もそうですが、デコレーションは日常的にみんな、美術好きとか好きじゃないにかかわらず、日常的に親しんでやっていますね。

各回封入予定 ZINE 素材イメージ
─ 最後7枚目は?

このあたりに生えているモンステラの葉を描いています。日本のとは大きさと勢いが全然違うし、たくさんあるんで、散歩の時にとってきて型をとって、その型をあてて色を塗りました。こちらではそれだけで生えていることはあまりなく、大きい木に寄生しているように生えています。おそらく庭師の方が植え付けているのですが、木の下の方に、例えばランとかを植え付けたりして木全体が綺麗にみえるように手入れしているんです。この辺りが割と高級住宅街だから、庭師さんが入っているのだと思いますが。

─ 裏表紙は?

セダップマラムという、よく市場で売っている花なんですが、夜になると香りがするんです。インドネシアではよく買って帰って家に飾っているんです。使っている紙も、日本では見ないグラデーションだなと思って買いました。

プレミアム参考画像
─ プレミアムのプランは?

毎週金曜日の12時に男性はみんなお祈りに行くんです。その時に「サッジャータ」という布を持っていくんですが、この布がいろんな模様があって、鮮やかで。みんな自分の気に入ったものを持ってモスクに行って床に敷いて、モスクが描かれている部分に頭をつけてお祈りをするんです。お祈りする場所を絵1枚が、布1枚が与えているというのが面白いなと思いました。イリュージョンというか、私が絵画に求めているものとすごく近いなと思いました。だいたい60cm×100cmぐらいの大きさで、人が一人座れるぐらいの大きさ。そのぐらいの大きさで何か祈りの場所のようなものを描くことができたらと思っています。みんな肩にかけて、銭湯にいく人のような出で立ちで出かけていくんです。もともとバティックとか染物文化が盛んで、布に関しては色彩や柄がすごく豊かですね。今もコロナでみんなマスクしているんですけど、イスラム教徒なので女性はヒジャブを巻いているんですけど、それとマスクと服の色を合わせたりとか。着るものについてはたとえ貧しい人でもセンス良く着ている。プレミアムでは、インドネシアで手に入れた布素材と描画を組み合わせて、 誰かの「祈りの場」となるような作品をお送りします。

─ インドネシアのアート事情は?

画材などは市場とか文房具屋とか、最近は画材屋も見つけて少しずつ開拓しています。価格も安くて。絵の具なんかも安いんですけど、日本のものとは色も形状も質も全然違う。インドネシアではストリートアートが盛んです。キャンバスの上に絵を描いて、ギャラリーとか美術館とかで発表するという、いわゆるハイカルチャーみたいなものがあまり根付いていなくて、それよりも道端の落書きとかコレクティヴハウスみたいなものが勢いがあるという印象です。

─ インドネシア内でもエリアや都市によって違うんでしょうか?

点としてはあって、現代美術館も1つだけあります。あとはジャパンファウンデーションやゲーテインスティテュートとかはあるのですが、シーンがあるかというと私もコロナで動き回れていないのでわからないのですが、作品を売って生きていくということはあまりないような気がします。アートフェアがあって一時的に人が集まってということはあるかもしれないけれど、人が恒常的にギャラリー巡りをするとかそういうことはないような気がしています。例えば京都だと歩いて回れますし、東京でも徒歩圏内にかたまっているということも多いですが、ジャカルタってどこに行くにも車移動で、そこに行こうと思ったら車で渋滞を乗り越えていって、また車で移動して、というのが日常生活すべてにおいてそうなので。ジャカルタについては⽇本のようなシーンはあまり感じられません。ストリートアートやコレクティヴハウスというもののほうがシーンとしては根付いているような気がしています。ストリートアートは隙あらば、という感じであったりします。郊外に行くとすごく鮮やかな、上手いものから下手なものまでいろんな絵や字が溢れています。

個展「ANDROGYNOS」展示風景(2020, Gallery PARC / 京都)
─ 日本における絵画のスタンダードとか様式や方法がものすごくアウェーなんでしょうね。

とはいえ、現在では美術や絵画が、西洋とは違う形でですが、すでにあった暮らしに紐づいていたりして。そのあたりの関係性のズレが面白いです。

個展「ANDROGYNOS」展示風景(2020, Gallery PARC / 京都)
─ 今、制作はインドネシアの住まいでされているんですよね。

そうですね。作業台が少しあるのでそこか、リビングの床にブルーシートを敷いて描くか、どちらかですね。しかも地下の部屋なので光は入らない。でもそれ以前に、そもそもアトリエで描いて、ギャラリーで発表するというのが何やったんかなというのも、こちらにきて半年ほど経ったので、そのことの特殊性みたいなものを感じるようになってきています。