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Artist Interview
ベリーマキコArtist Info

2019年以来2回目となる個展「きのうのみちばた」では、大作となる作品《響》を含む二十数点を展示しているベリーマキコさん。2021年には作品集の制作や大三島美術館での展覧会に向けた制作についてインタビューしていますが、その時に制作されていた作品も含めて展示している今回の展覧会において、近年の制作や日常をふりかえってお話いただきました。(取材日:2023年12月上旬)

「きのうのみちばた」展示風景(2023, ギャラリー・パルク) 会場撮影:麥生田兵吾
展示作品について

ー今回は近年の作品と、10年ほど前に制作された作品も展示されていますね。

《帰る途中》は2013年で今回出ている中では一番古いのですが、「きのうのみちばた」という展覧会なので展示しています。ビニール袋を手に提げた人を描いている作品は数年前の作品ですね。米国に滞在していた10年間以外は、ずっと亀岡に住んでいるのですが、市の条例でビニール袋が使われなくなり、見かけなくなったので、絵の中にもはっきりとは出てこなくなりました。廃止になったから描かないでおこうと努力しているわけではなくて、見かけなくなったから描いていないだけです。人が買い物袋を提げている様子は、今でもモチーフとして好きです。

  • 【*1】《帰る途中》

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ー作品《響》はこれまでで最大の作品ですね。

《響》は2021年の作品で、大三島での展覧会に出品したものです。2019年にパルクでの個展の際に、大三島を描いた作品《もうひとつの故郷》を展示したのですが、それを学芸員の方が見にきてくださって、大三島美術館での展覧会のお話へとつながりました。そして、大三島美術館の学芸員の方から「大三島に関する絵をひとつ描いてください」というお話があり、幅5mを超える大きな絵を初めて描きました。今までもパネル5枚までは描いたことがあったのですが、5枚組というよりは、バラバラにしてもいいような絵だったので、ひとつの絵としては、今までで一番大きい作品です。 【*2】

 

大三島は、父親の故郷で、中学卒業までは父親が住んでいました。
この木と同じセンダンの木が大三島のお寺にもあって、そこでこんなふうに蝉が鳴いていて...という話を制作途中で見に来てそういう話をしてくれました。父の記憶で蝉を描き込んだのだと思います。

あとは、私自身もみかんをとったりした記憶があります。なので、「この要素を入れないと」「あ、船も描かないと!」と思ったりとか、(美術館から?)資料もいただいて参考にしながら描きました。普段はその時に「終わり」と決めたらそれで完成で描き足したりすることはあんまりしないのですが、《響》に関しては、時間をおいて思い出したり、資料を見て知ったことなどをずっと描き重ねていきました。

  • 【*2】《響》 2021/岩絵具、水干絵具、膠、墨、準雲肌麻紙/1825 × 5680 mm
  •   *《響》 制作過程:インタビュー >INTERVIEW

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作品にあらわれてくるもの

ー2016〜2017年頃の作品で、青色が印象的なものが何点かありますね。

この頃は青っぽいですね。青い絵を描こうと、意識的にそうしていたわけではないのですが、その時の自分の心情と青があっていたのかもしれません。夜にかけての青になる時間帯。黒じゃなくて。あれがきれいだなって思います。

夜は多いですね。夜に興味があると思います。もともと里山の出身なので、きつねが鳴いたりとか、鹿がいたりとか、鳴いているのが聞こえるから何が起こっているんだろう?と色々想像します。その後にピンクが入ってきたりします。でもピンクになったからって別にハッピーというわけではないですが。
私の絵は、悲しいこととか、最近だと争いがある世の中なので、絵を描こうとしたら出てくる、というところがあると思います。 【*3】

  • 【*3】《花ハ咲ケドモ》 2017/岩絵具、水干絵具、膠、墨、金箔、高知麻紙/910 × 2920 mm

*3

とはいえ、真っ白のところに描き始めたら、自分の日常が出てくることが多いです。夜桜を観に行った後に描いたりとか、絵日記的な部分が多いですかね。「絵を描こう」と向き合って描くものは世界情勢や自分の置かれた状況を入れがちです。【*4】

あとはラジオを聴きながら描くのですが、音楽よりも人の声が好きなのでAMラジオが好きです。そこでいろんなニュースも耳に入ってくるので、影響を受けたりしますね。

例えば、天気予報で「天気が崩れる」というのを聴いていて、「でも空の色きれいだな」と思って描いたりとか、すぐに影響を受けます。色彩も、こういう色にしようと思ってやるのではなく、その時の突発的な感覚で絵の具をがしっとつかんで、という感じなので、短期戦というか。塗ったら、それに対して自分がどうなっていくか、次にどんな線、どんな色もってくるかが決まってくるので、あんまりこういう感じにしようと思っては描かないです。

作品《境界》【*5】は、ガザのことが起こった時に描いたものです。隣なのに行ったり来たりできないのだなぁと。
この作品はこの秋に開催された、亀岡の「霧の芸術祭」で発表することが決まっていた作品で、それならメッセージというか、そういったものを乗せたいなと思いました。

  • 【*4】亀岡の里山風景(撮影:ベリーマキコ)
  • 【*5】《境界》 2023/岩絵具、水干絵具、膠、墨、金箔、金泥、高知麻紙/910 × 1825 mm

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日常の変化

ー数年前にアトリエを引っ越されたそうですが、その影響はいかがですか?

以前は制作場所を借りていてそこで教室もしていたのですが、そこを引き払うことになって、自宅で制作するようになりました。それから1年半くらい経ったかな。作品にどんなふうに影響してくるかはまだわからないですね。また、最近の変化でいうと、息子が高校まで地元の学校に通っていたのですが、大学に進学して外に出たので、自分も亀岡にいなくてよくなりました。それまでは、息子が熱を出したりしたらいつでも迎えに行けるように、と思って生活していたので。これからは仕事で外に出てもいいのかな、ということで京都市内の大学での仕事に応募しました。

  • 【*6】《キミドリイロの大地》2023/クレヨン、岩絵具、水干絵具、膠、墨、高知麻紙/530 × 455 mm
  • 【*7】「きのうのみちばた:ベリーマキコ」展示風景

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絵描きの“まきーた”

ー美術とお習字教室も長年続けておられますね。

美術教室は2009年からやってるので(習字教室は2010年〜)14年になりますね。息子が4歳のときにアメリカから帰ってきて教室を始めたんです。知り合いがいないから、子どもの友達を作る感覚で始めたのかもしれない。息子も一緒に教室に来て、息子の友達が入ってきて、という流れかな。息子も高校生まで教室に通っていましたよ。
現在は、美術の教室は地域の文化センターを借りています。お習字の教室は自宅で開催していますので、教室があるたびに制作場所を片付けてやってます。

教室は真剣勝負なんです。子ども達なので、面白いと思ってもらえるように工夫しています。でも心が和む場所でもありたいので、作業しながら話を聞いてあげることも大切にしています。学校でこんなことあったんやって、どの子もみんな話したいですからね。

ー何歳くらいのお子さんが通われているのですか?

今は幼稚園から高校生までの子たちが通っています。特に何歳から、とは制限してないんですけど、小さい子で、年少さんくらいからかな。一人で座っていられたら大丈夫です。やっぱり親御さんが一緒にいると自分の表現ができなくなる子もいるし、親御さんも口出ししたくなるし。一人でも大人が付き添っていると、他の子も緊張してしまうので、自由に発言できなくなってしまうので。子どもだけの時間にしています。もちろん自分は大人ですが、子どもの心に寄り添います。

幼稚園から小学校6年生までは一緒にやっています。小さい子の一生懸命さにすごく影響を受ける子もいるんですよ。中高生はデッサンをする時もありますけど、受験用じゃないので、できるだけのびのびと。「どんなことがやりたい?」って聞きながら予定を立てるようにしています。

ー子どもたちが展覧会に来てくれた時、「まきーた」と呼ばれていましたね。

そうなんです。私がアメリカにいた時に子守をしている人と仲良くなって、彼女がとても良い人で。メキシコ人だったと思うんですけど、彼女が「マルガリータ」という名前だったので、私の名前「まきこ」とあわせて「まきーた」にしてみました。性別とか年齢も考えなくていいような感じ。ベレー帽をかぶって絵描きさんなんやってしるしみたいにして、その名前を考えました。子どもたちからみたら、年齢も知らないだろうし、不思議な存在だと思います。こんなに教室を長く続けるとは思ってなかったけどね。生徒さんが来てくれはるから。やりがいはすごく感じますよ。うまくなるように、というわけではなく、子ども達が本来もっている素敵な感性を更に磨く場所なので、やりがいを感じます。

父と母が小学校の先生だったもんで、姉も夫も英語を教えているし、教育の方に興味があるんです。作家ってだけは難しいですね。教育の方もちゃんとやりたいんですよね。展示をすると教室の方の時間がとれなくなってしまったりして。年齢も重ねてきたので、いろいろと時間の使い方を考えていきたいです。

ーまきーたが怒ることはあるんですか?

人のことを悪いふうに言ったりとか、人の時間を奪ったりしたら、厳しく注意します。自分ひとりで何もしないのはいいけど。あと歌を歌うのは「やめてください」って言います。みんなつられて歌い出して、何もできなくなりますからね。

  • 【*8】美術教室の様子

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ワークショップについて

ー今回の展覧会ではワークショップも開催していただきます。どんな内容かおしえてください。

教室は毎月3〜4回やっていて、ワークショップはお声かけがあったときに出張してやっています。
今回の3つのワークショップも、楽しんでもらえるものを用意してます。子どもはもちろん、大人も楽しめると思いますよ。大人も昔は子どもやったから。誰でも昔やったであろうことをするので、覚醒というか、ままごとみたいなものを思い出して楽しめると思います。

ゴリゴリえのぐ

石を砕いて、それを絵の具にして絵を描きます。河原石だと転がってきて硬いですけど、私は山で石を採取してくるので、柔らかい石なのでお子さんでも砕けますよ。描く絵はなんでもいいです。色を置いていくのが楽しいので。勝手に絵ができてくると思います。この色やったらこういうのが描きたいとか。自然の色なのでそんなにビビットな色ではないですけど、地球の色を楽しむ感じです。【*9】

ねんどコネコネ

粘土はみんな好きなんじゃないかな。大人の人はあんまり粘土で遊ぶという機会はないと思いますけど、触ると楽しいですよ。 こないだ山に行った時に実が落ちてたので、マツボックリとかどんぐりのほかにも拾ってこようと思ってます。何も決まりはありませんので素材を楽しんでください。 【*10】

はっぱコンコン

自然の美しい色や形を鞄に写しとるっていうものですけど、できあがりはいつもオシャレになりますよ。それで図書館に行ったりとかしてね。使ってもらえると。はっぱも山で採ってきます。今の季節だと、シダ植物が綺麗にできるかな。【*11】

  • 参考画像
  • 【*9】「ゴリゴリえのぐ」
  • 【*10】「ねんどコネコネ」
  • 【*11】「はっぱコンコン」

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