京都にあるアーティスト・ラン・スペース「soda」の企画として、2014年以降、2016年、2020年と開催されてきた「ニュー・インティマシー」展の4回目として、Gallery PARCとの共同主催により開催された「NEW INTIMACIES -WILD WILD WEST-」。
本展について、アーティストであり「soda」のディレクターとして展覧会のキュレーションなどにも取り組む田中和人にお話を伺いました。(取材日:2022年9月)
ー2014年の展覧会「ニュー・インティマシー」を最初に企画されたきっかけや意図をおしえてください。
作品を制作するということは、とても個人的で、自分の中を深く堀り下げていくとても孤独な作業です。そして、そこに何にも変えられない価値があります。
しかし、同時に、作品制作は日々の生活の中で行われています。僕は、アーティストであるパートナーの菅かおると制作途中に作品について意見を交換したり、反応を見たり、あるいは、食事中の会話の中で作品のアイデアが降りてきたり(などなど)、というようなことはしばしばあります。
そのようなパートナーとの日々の影響関係は、個展のステートメントなどには決して書かれることはありませんが、多かれ少なかれ、意識的にせよ無意識的にせよ、作品に影響しているはずです。
まわりにもアーティスト同士のカップルは少なからずいて、あえて普段は表に出ないパートナーとの影響関係にフォーカスした展覧会を企画したら、なにか新しいものが提示できるのではと思ったのがこの企画のはじまりです。
*「ニュー・インティマシー」展について過去の記録はこちら>more
ー実際に開催してみていかがでしたか。
初めてパートナーとの共同制作の作品を発表するということで、普段の個々のアーティストとしての作品の時のような強度はないかもしれませんが、その代わりに、作品が初々しく、新しい魅力に溢れています。作品の中にプライベートとパブリックの微妙なバランスを垣間見れるのもこの「ニュー・インティマシー」展の見どころではないでしょうか。各カップルの作品に寄せたテキストを読み、作品を見ながら、その制作プロセスのやりとりを想像するのもとても楽しいです。
- 【*1】「NEW INTIMACIES -WILD WILD WEST-」(2022, Gallery PARC)展示風景
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ー2014年以降、2016、2020年にも「NEW INTIMACIES」というタイトルで開催されてきましたが、今回はサブタイトルに「-WILD WILD WEST-」を加えたものとなりました。
そうした点も含めて、これまでの流れとして見えてきたことなどはありますか?
今回は、僕の運営するアーティスト・ラン・スペースsodaと、Gallery PARCの共催ということで、関西、あるいは関西以西のアーティストカップルに限定する形で行いました。招待するカップルは、Gallery PARCのもつネットワークをかなり活用させてもらいました。その結果、僕にとってもとても新鮮な顔ぶれになりました。同世代だけでなく、もっと若い世代までが集まったのも良かったと思います。
流れみたいなものは、もしもこの先も「ニュー・インティマシー」展が何回も続いていけば、見えるのかもしれませんが、今は、流れそのものにはあまり関心がありません。
ー今回の出品作のなかで、面白かった作品や気になった作品があればおしえてください。
全ての作品に驚き、そして愛しい気持ちになりました。もしも、ひとつだけあげるとすれば厚地さんと山下さんカップルの作品「山A」でしょうか。【*4】この作品は、二人が自分たちの新しい家の庭に置く作品として、あくまで自分たちのために作った、という目的が面白いです。モチベーションの方向がそもそも親密で。またその新天地が石で有名な土地であることから、作品は必然的に石彫となったようで、固い意志(あるいは、石)を感じます。新しい生活を新しい地で二人で始める時のあの独特の高揚感が作品に文字通り刻まれている感じがしました。また、自分たちの庭に置くための作品だと言っておきながら、作品に値段をつけて販売しているという矛盾も、なんだか愛しいです。
- *展覧会概要はこちら> Exhibition info.
- 以下、「NEW INTIMACIES -WILD WILD WEST-」展示作品より
- 【*2】菅 かおる + 田中 和人《Smile painting #2》
- 【*3】大屋 和代 + 田中 秀介《無縁結び》
- 【*4】厚地 朋子 + 山下 耕平《山A》
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ー今後も開催していく予定ですか?
たまたま「ニュー・インティマシー」展は4回開催してきましたが、とくにシリーズ化している訳でも、今後も定期的に開催するつもりでもありません。
それでも時々、どうしてもまた企画したい気持ちが、なぜかわかりませんが、湧いてきます。それは、ごく個人的な理由かも知れませんし、とりまく社会が自分にそうさせるのかもしれません。愛を信じているからかも知れません。だから、また企画する時がくると思います。それは、来年なのか、10年後なのか、わかりません。
ーパートナーの菅かおるさんとの共同制作も4回目になりますが、自身の作品への影響などはありましたか?
この質問の答えとは違うかも知れませんが。毎回自分たちが「ニュー・インティマシー」展に出品している作品は、その時その時に話し合って作るもので、その時限りで完結している作品です。そうすることでしかできない熱量がそこにはあるでしょう。でも、いつになるかは全然わからないけれど、二人でずっと作っていけるような作品がいつかできたら良いなと思っています。今回のペインティング作品にはその予感があります。兎にも角にも、愛をもって、新しくやってくる日々を転がりながらも、二人で生活していくことですね。
- 【*5】今村 達紀 + 林 葵衣《うつしみたどる No.001》
- 【*6】小西 景子+西村 涼《風景》
- 【*7】楠井 沙耶+黒川 岳《きっとこの先には海が・・・》
- 【*8】増本 奈穂+増本 泰斗《旬とパンと保存とアートと与太話》
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