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Project

Gallery PARC Art Competition 2020

審査結果 2020.3.10.

About

Gallery PARC[ グランマーブル ギャラリー・パルク ]では、ジャンル・形式を問わず幅広いクリエイターから展覧会プランを公募し、採択されたプランを展覧会として実施する「 Gallery PARC Art Competition 2020 」の募集・審査をおこないました。展覧会の実施については、延期となっています。開催時期につきましては詳細が決まり次第お知らせいたします。

 

 

 

募集概要

Gallery PARC[ グランマーブル ギャラリー・パルク ]では、ジャンル・形式を問わず幅広いクリエイターから展覧会プランを公募し、採択されたプランを展覧会として実施する「 Gallery PARC Art Competition 2020 」を開催いたします。2014年より毎年開催し、今回で7回目を迎える本コンペティションでも、2階・3階・4階の3フロアに渡る展示空間を持つPARCの特性を活かしたプランを広く公募いたします。ご応募いただいたプランから審査により1名(組)を 【 全展示空間( 3フロア )を使用した展覧会 】 として、2名(組)を 【 2階/4階のいずれかの展示空間( 1フロア )を使用した展覧会( 2つの展覧会の同時開催 ) 】 として採択し、2020年7月 ~8月の期間中、会期を連続して開催いたします。

 

対象

個展・グループ展などの展覧会形式、作品ジャンル・応募者の年齢・居住地・国籍など不問。アーティスト、グループ、キュレーターからの応募も可能です。入選の場合には、展覧会の実施に至るまで責任・積極性をもって遂行すること、またその内容などについてギャラリーと協議できることを条件といたします。


募集期間

2019年12月1日(日) ─ 2020年1月25日(土) 


 

審査結果

応募総数

80プラン


審査員

平田剛志(美術批評)、勝冶真美(京都芸術センタープログラム・ディレクター)

 

採択プラン

■「足跡を追いかけながら現在地を思い出す」 出展作家:宮原野乃実 形式:個展(インスタレーション)

【 展覧会実施期間: A│2020年7月24日[金・祝]~8月9日[日]】延期

 

【採択プランのコンセプトやテーマ】

自分が直接経験していない過去の出来事について考えることは、誰かの足跡を辿りその後を追いかけて行くような感覚と似ています。私は過去の出来事や歴史を自分なりに捉えようと試みながら、同時に自分の立ち位置や現在とのつながりを見つけようとしてきました。
今回の展覧会では、 今から約100年前に「シュガーアイランド」と呼ばれていた2つの島を重ねて、史実と妄想をごちゃ混ぜにしながら島での追体験を試みた、最新作の「砂糖王国旅行記」を中心に、3フロアを構成します。近年の制作を振り返りながら、これまで一貫して取り組んできた「自分が経験していない過去の歴史や出来事についてどうアプローチすることができるのか」を軸にして、私のいる現在地と過去のつながりについて再度見つめ直します。


【プラン採択・実施にあたってのコメント】

今回の選出結果について、大変嬉しく思っています。
PARCの3フロア全体を使って、最新作に至るまでの思考や作品同士の繋がりについてもお見せできる展示に仕上げていくつもりです。
大学時代に過ごした京都で、自身のこれまでの制作を振り返りながら作品をさらに先へと進めるための展示に出来ればと思います。是非、一人でも多くの方々にご覧いただきたいです。

 

 

■「Body temperture 38℃の記憶から」 出展作家:鯨虎じょう 形式:個展(彫刻・インスタレーション)

【 展覧会実施期間: B│2020年 7月3日(金)~7月19日(日)】 延期

 

【採択プランのコンセプトやテーマ】

・「Body temperature 38℃の記憶から」という展覧会タイトルについて
Body temperatureは体温
38℃ は猫の平熱の体温です。

生物が記憶から 何を得てきたのか
生物の記憶は  何に変わっていくのか
記憶から進化へ発展させるということがこの展覧会のテーマです。

愛猫が急病にこの世を去った1月、私は今年2年ぶりに個展を開催したいと思いました。
日常的に窯で焼く行為をしている私にとって、1番大切な者の身体全てを焼く火葬の体験はとても衝撃的なことでした。
まだ生きている者にとって、本当の死の実感とは心臓が止まった時ではなく、焼かれて身体という入れ物がなくなった時に湧いてくると私は感じました。
愛しい何かの喪失、それは毎日世界のどこかで繰り返されるありふれたことかもしれません。しかし、自分が当事者になった時、特別なことに感じられることに気がつきます。

死の実感を境にして、その者に関する全ての記憶が過去のものになっていきます。
忘れたくないと思っていても、過去を忘れるという作用からは完全には抗えません。
忘れる ということは生きている者がこれからを生きる為に必要なことでもあるからです。
ですが、忘れられていく記憶という概念はその先どうなっていくのでしょう。

記憶のその後のゆくえとして、私は唯一残った愛猫の骨を使用して、進化の為の作品を死後の時間から作り始めます。
死後から始まる制作 それは過去生きていた時に記録した写真や映像や音声よりも、ある面でリアリティのあるものになると思います。
また、この制作と作品は、過去の記憶や過去の時間が消えて無くなり去っていくのではなく、新しい何かへと進化するための糧になるということの証明でもあります。

 

【プラン採択・実施にあたってのコメント】

2年ぶりの個展を開催させていただくことになりました。愛猫が急病にこの世を去り、遺骨を今後どうするかというきっかけから今回の展覧会プランを考えました。まず、ペットには戸籍がないので飼い主が忘れてしまったら彼らが生きていた痕跡が消えてしまうということ。それから、賃貸マンション1人暮らしで遺骨をどう供養するかの問題。それらを解決する生き方を考え練った展覧会にしたいと思います。

 


■「さぁ、とりつくろう。」 出展作家:粟坂萌子 形式:個展(彫刻・インスタレーション)

【 展覧会実施期間: B│2020年 7月3日(金)~7月19日(日)】 延期

 

【採択プランのコンセプトやテーマ】

 今展は、フォルムを意識して「つくる」ということを「取り繕う」ことと仮定してフロアごとに展示を展開していく。「取り繕う」という言葉はポジティブな意味とネガティブな意味が存在する。①破れたところをちょっと直す。修繕をする。②外見だけ飾って,体裁をよくする。「人前を-・う」 ③身なりを整える。 この言葉の中には、私以外の人に見られているという意識が存在している。人は見られているから体を鍛え、美しい衣類を着用し、化粧をする。見せるために、私たちが元々持っているフォルムから変容すること。
 理想的な見た目や人格が人にはそれぞれに違う形であると思うが、私は自分自身の理想の形が日々変化していくその速度についていけていない。今日いい感じと思っていたものが明日には全くいい感じではなかったりする。感覚と認識のスピードにはズレが生じている。
 このズレの誤差を今回の展示では上階に登って行くにつれて、大きくしていく。私の無意識から生まれる形から、意識が加わり、つくろう=取り繕うとする行為を視覚化する。私たちが存在しているこの世界を私の身体を使ってストレートに映し出し、自分自身の理想のフォルムとはどんな形であるのか、付け加えたり、削ったり、離れたり、近づいたりしながら多面的に捉えてみる。生き生きと、とりつくろわれた作品を展示する。

 

【プラン採択・実施にあたってのコメント】

全フロアを使うつもりで出したプランですが、1フロアでの展示となってしまい、誠に悔しく思います。でも、採択していただいたことで作品や展覧会への実現に向け、多くの成長ができそうで、ワクワクが止まりません。 またこれまでは、大学で用意されてきた展覧会でしか出したことがなかったため、自由度が上がることへの期待と同時に不安を感じますが、恐れずに全てを出し切りたいです。展覧会の際は、是非見に来てください。

 

審査員講評

平田剛志 (美術批評)

 7年目となる本年は、過去最高となる80件のプランが集まりました。例年以上に予備審査、長時間の本審査を経て、宮原野乃実氏、鯨虎じょう氏、粟坂萌子氏のプランを選出しました。
 近年の傾向として、大学(院)卒業・修了後から数年以内の若手作家の応募が増加し、応募者の年齢が若返っています。プレゼンテーションスキルに慣れた若い世代らしく、写真やテキスト、デザインまで含めて完成度の高いファイルが多く、どれも見応えがありました。
 一方、応募書類のなかには「展覧会コンセプトやテーマ」欄に人生観や芸術観、学歴や賞歴など自己アピールを綴る応募者もいました。言うまでもなく、本プランの応募書類は就職活動のエントリーシートではありません。実際にプランを遂行するのは人ですが、本公募で審査するのは展覧会プランです。
 審査にあたっては、計画性も求められますが、プランの「コンセプトやテーマ」とどのように出会い、作家の思考や作品を変容させるのかにも注意しながらファイルを見ていきました。

 結果、今年の入選プランはいずれも極めて個人的な問題や関心を基点としながら、「私」と主題に距離感があり、観客が同じ問いを共有できるプランでした。歴史や他者(動物)、土とのつながりや喪失、変容の経験を再構築、回復、再生(転生)、還元することで、私たちの「世界観」を揺さぶる創造的な内容でした。プランの実現を楽しみにしています。

 

宮原野乃実「足跡を追いかけながら現在地を思い出す」
全会場を使用する本プランは、日本の近現代史と「私」の存在が過去の歴史や出来事とどう繋がっているのかを具体的なリサーチをもとに想像的に探究・制作するプランでした。ともすると学術的なアーカイブ展示を想像しますが、宮原さんの作品には、オブジェから最新作となる映像《砂糖王国旅行記》まで、ポップと社会風刺、政治性を絶妙に混ぜ合わせた点が魅力でした。とくに映像作品はYou Tube時代ならではの軽妙な動画編集に引き込まれました。歴史や過去とのつながりに実感がもてない現代、本展は私たちの「現在地」を思い出す機会となるでしょう。

 

鯨虎じょう「Body temperature 38℃の記憶から」
本プランは、飼い猫の死という極私的な死の経験をきっかけに、愛猫の骨を素材に用いた陶立体の展示です。タイトルの38℃とは猫の平熱の体温です。陶芸の焼成と火葬を重ね合わせ、「記憶からの進化」=新生へと至る制作プロセスは、倫理的な問題含めて、心かき乱されるプランでした。生と死、火の暴力性と創造性など、矛盾する感情と葛藤を陶芸の技法と素材で撚り合わせて生まれる作品はどのような「存在」なのでしょうか。

 

粟坂萌子「さぁ、とりつくろう。」
陶土の上で身体を動かし、その痕跡、変容を作品化する本プランは、大胆かつ前衛的なプランでした。しかし、身体の無意識な動きや行為を直接的に見せるだけではありません。本展で作家が探究するのは、「取り繕う」にポジティブとネガティブの両義的な意味があるように、「作ろう」と「取り繕う」とする意識と無意識の境界線上に現れるフォルムの探究です。若い作家のエネルギーから生まれる偽りのない展示に期待します。

 

 

 

勝冶真美 (京都芸術センタープログラム・ディレクター)

 本年は、80件の応募がありました。普段Gallery PARCの活動を見知っているであろう関西圏からだけではなく、関東をはじめ他地方からの応募もあり、私自身、応募資料を通して多くの出会いがある審査となりました。
 80の資料を読み進めるうちに、多くの資料に共通する言葉が見られることに気づきました。例えば、人間、自然、生活、日常といった言葉です。もちろんこれらは、今も昔も芸術で追求されてきた普遍的なテーマで、現代でもなお、数多くのアーティストが向き合っているのだと考えると、その問の普遍性に改めて思い至ります。でもだからこそ、自分がなぜそれに向き合うのか、考えてみる必要があるのかもしれません。「人間」と書くときのその「人間」とは、一体「だれ」のことなのか。あなたが何かに触発され、それを作品にしようとする時、その動機の元となるのは、一般化された概念ではなく具体的な何かであったはずです。もちろん、実際に世に出す作品では、抽象性を高めることで鑑賞者にさまざまな想像の飛躍をもたらしたり、より多くの人の共感を呼んだりというようなこともあるでしょう。しかし、応募資料はいわば計画書のようなもので、作品そのものではありません。いきなり抽象的な言葉で語るよりも、動機がどこにあるのか、また作品にするまでのプロセスや展示計画などが具体的に明らかになっている方が説得力を増すのではないかと感じました。


 審査の結果、宮原野乃実さん、鯨虎じょうさん、粟坂萌子さんを選出しました。自分と自分の体験し得ない歴史との関係を丹念に追う宮原さん、愛猫の死から記憶と進化を探る鯨虎さん、自身の身体を用いてフォルムを追求するという栗坂さん。それぞれの実感がどのように作品となって立ち現れるのか、楽しみにしています。