2014年に京都嵯峨芸術大学造形学科版画分野を卒業、2016年に愛知県立芸術大学美術研究科博士前期課程を修了した石場文子(いしば・あやこ / 1991年・兵庫県生まれ)は、おもに写真を媒体とした作品を制作・発表し、2019年には「VOCA展2019 現代美術の展望 ─ 新しい平面の作家たち」での奨励賞受賞や「あいちトリエンナーレ2019」への参加など、目覚ましい活動を続けています。
石場はこれまで、写真を媒体に日常的な風景を取材し、そこに実際の面や線によって介入することで、鑑賞者の「見る」と「認識する」の間にズレを生じさせ、私たちの視覚認識のあり様へと注意を向ける作品を制作しています。2014年ごろから制作をはじめた「ソファと□のある風景」シリーズは、赤や青の色面や、ストライプが印刷された四角形の紙をソファの上に並べて撮影した作品であり、同時期に制作された「Laundry」シリーズは、靴下などを撮影・印刷して切り抜き、物干し機に洗濯ばさみで吊りさげた様子を撮影したものです。これらはいずれも実際の空間では平面(2次元)であったものが、写真内の状況によってクッションや洗濯物といった立体(3次元)と錯視されることで、私たちの認識のあり方に触れるものといえます。また、近作である「2と3のあいだ」、「2と3、もしくはそれ以外」シリーズは、実際の被写体の輪郭線に見える部分を黒く塗りつぶして撮影することで、今度は実際の立体(3次元)を平面(2次元)へと錯視させています。
石場は写真の中に「面」や「線」によって介入し、そこに錯視的な視覚をつくり出すことで(2次元)と(3次元)という概念を強く意識させます。これにより鑑賞者は視覚と概念のズレを認識し、そこを「往き来」するような鑑賞体験を得るといえます。そして、ここで、なにより興味深いのは、これらが「写真」の内に発生している点ではないでしょうか。写真といういわば平面(2次元)の上のイメージにおいて、私たちの「2次元⇄3次元」というこの錯視・認識のズレは、何に起因するのでしょうか。そもそもすべてのものに厚みや手触りがあるなかで「2次元」という存在はあり得るのでしょうか。では、私たちが石場の作品を見て感じる違和感はどこからやってくるのでしょうか。
本展では石場の現時点での代表作となった「2.5」シリーズ作品と合わせて、これまでの作品の中でも幾度か思考されていた「パターンや記号」・「静物」といった要素を取り入れた作品を発表します。また、これまでの(2次元)と(3次元)という構造の中に「時間」という要素を扱った作品を組み込んだ構成として展開します。これにより、本展は今までの石場の作品を点検する機会であるとともに、現時点での作家の興味や、今後の作品展開を見とおす機会としてお楽しみいただけるのではないでしょうか。