Top

Previous page

Exhibition info

Gallery PARC Art Competition 2017 #03

堆積する空気
井上 裕加里

2017.8.01. 〜 8.13.

Exhibition View

6 images

Statement

「“答え”は目の前にあり、見えていないのは“問い”である。」

私は、現代社会の身近な問題を主題に作品を制作する事で、社会に潜在するその“問い”を探そうと試みている。

 

展覧会について

 展示を行う8月は、6日にヒロシマの広島平和記念日、9日にナガサキの長崎原爆の日があり、15日は日中韓においてそれぞれ、終戦記念日・対日戦勝記念日・光復節という記念日がある月です。

 そんなアジアが殺伐とした雰囲気となる時期に、実際に中国・韓国・広島を訪ね歩き、先の大戦の遺物や遺言を見つめる事で、前代の時代性や歴史観を見つめ、アジアの記憶を再構築したいと考えます。また、今一度アジアの地域性や文化、互いの共通点と相違点を見つめる契機を作りたいと考えます。


井上 裕加里

Q&A

- 本公募に応募した理由

本公募による展覧会の実施期間が8月1日~13日であったからです。8月には、8月6日・9日にヒロシマ・ナガサキ、15日には終戦記念日、中韓においてはそれぞれ対日戦勝記念日・光復節があります。この時期は、日本・東アジアの地域に不穏で殺伐とした雰囲気を感じる為、私は毎年わざと鈍感に振る舞い日々をやり過ごしていました。しかし、近年世界の他国や他者を排除する動きに、似たような空気が漂っているように感じ、危機感を憶えます。その""空気”が何であるかは未だ明確ではありませんが、本展で東アジアの歴史をテーマに作品を制作する事でそれを読み解き、明確化させたいと考えます。

 

- 今回の展覧会について

本展では、ヒロシマをテーマにした新作と、東アジアの歴史をテーマにした旧作が並びます。新作のヒロシマをテーマに制作した作品は、広島に原爆を投下したエノラゲイに搭乗していたパイロットの証言 と被害者の証言を私が朗読している映像作品です。映像では、戦争の早期終結のために原子爆弾の使用は有効であったという立場のパイロットの証言と、原爆を投下した事に良心の呵責を感じていた パイロットの証言、それを慰める被害者の声、アメリカの人とは分か り合えないと話す被害者の話が並びます。様々な立場から語られるヒロシマを見つめる事で、戦争における罪の意識について考えたい と思います。また、展示予定である旧作の《 Auld Lang syne 》と《 Memory And Forgetting, And Oral Instruction 》は、日本統治時代の歴史が刻まれている歌を日中韓3カ国の人が歌う映像作品となります。統治時代の遺物を見つめる事で、当時の時代性や3カ国の地域性、互いの共通点と相違点を探ります。

 

- 本展の目論見・挑戦・希望など

今年の6月、私はとあるリサーチプログラムで中国長沙市と韓国大邱へ行きました。そのプログラムの最中、長沙市内のご飯屋さんへ入ったのですが、店内で私の日本語を聞いた店主に突然「日本人だろ!」と言われ、中国語の怒号を浴びせられるという体験をしました。同行していた中国人アーティストが、私の事を韓国人だと嘘の説明をし"て、大事にはなりませんでしたが、私にとってそれはとても怖い体験でした。しかし、この体験は、国境を超えた事で日本人として”何か”を背負わされていた事と、その重みに気づいた瞬間でした。その”何か”の実態は分かりませんが、両国の摩擦によって堆積してた悪い空気が私にも纏わり付いているような感覚に陥りました。本展は、自国の戦争の歴史と日本と他国への影響・関係性を見つめる事で、その堆積する空気とはいったい何なのか考察する機会にしたいと考えています。

 

- これまでの作品に通底する問題意識や興味など

「“答え”は目の前にあり、見えていないのは“問い”である。」
私は、自身のステートメントを書く時に上記の文を使用しています。私は、東日本大震災が起こり、原発問題がニュースで頻繁に取沙汰 されていた頃、自分の部屋の電気のスイッチを入れるだけでも間接 的に原発に賛成していたのかもしれないと考えた事がありました。その時、目の前に”答え”があるにも関わらず、解くべき問いを立て ることが出来ていなかった事に気づき、危機感をもちました。その為、私は現代社会の身近な問題を主題に作品を制作し、社会に潜在す る”問い”を探そうとしています。


- 作品をつくることはどういうことか

私にとって作品制作は、コミュニケーションの手段です。また、社会問題に言及する時にアートが有効だと感じる為、制作をしています。


- 作品を見せることはどういうことか

作品発表は、社会参画する為に必要な機会だと考えています。


- 魅かれるものは何か

日本・韓国・台湾の音楽。また、その三か国の音楽の共通点を探る事


- 見たいものは何か

中国


- 現在の自身の問題点などあれば教えてください。

アウトプットのパターンが少ない

 

- 何が美しいか

他人との相違点に興味を持ち、楽しめること

 

- 何が醜いか

自分と共通点が少ない人を批判し、排除しようとすること


- 何がかっこいいか

自由に選択できること

 

- 何がかっこわるいか

選ばれているものの中からしか選べないこと

 

- 何が気持ちいいか

抑圧しすぎない規則

 

- 何が気持ち悪いか

空気を読まなければいけない空気感

 

- 何を望んでいるか

平和

 

- 何を望まないか

暴力での解決

 

- 何を求めているか

文化での交流の場

 

- 何を恐れているか

“私たち” と “私たち以外” の間に境界線を強く引く世界

 

- 楽しいことは

韓国語で韓国人アーティストとコミュニケーションを取ること

 

- 苦痛は

言語や文化の違いから上手く意思疎通が取れず、いざこざが起きること

 

- やってみたいことは

海外でのレジデンス
中国語と英語を覚えて日中韓交流展を三か国でおこなう

 

- これから何をしたいか

作品制作と展示を継続的におこなう

 

 

About

本展は、Gallery PARCが2014年から毎年に取り組んでおりますコンペティション「Gallery PARC Art Competition 2017」に応募された31のプランから、平田剛志(美術批評)、勝冶真美(京都芸術センタープログラムディレクター)の2名の審査員を交えた厳正な審査を経て採択された3つのプラン、近藤洋平「whereabouts」(7/4~7/16 彫刻・インスタレーション)、松宮恵子「湖/畝を旅する」(7/18~7/30 染織)、井上裕加里「堆積する空気」(8/1~8/13 映像・インスタレーション)を、各2週間の会期で連続開催するものです。