2007年に京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了した田中奈津子(たなか・なつこ/ 福岡・1981~)は、在学中より個展やグループ展などに取り組むなど、現在までに精力的に制作・発表活動を続けています。
当初、身近な日常の中で不意に得たイメージを膨らませ、それらをモチーフに絵画・版画のテクニックを組み合わせた絵画制作を続けていた田中は、2015年より包装紙や広告・カレンダー等を素材として、毎日「壺」の絵を描くことに取り組み始めます。
これは、それまでの制作が田中の自由なイメージ・様々なテクニックによるものであったのに対し、壺という制約、日々描き続けるという制約を自身に与える行為であるといえ、田中はこの制作をおよそ1年に渡って続けています。
初期には壺を「描く」ための思考や、絵画としての画面づくりへの意識も強く、制作スピードを得るためにおもにコラージュ技法を多用していたその制作は、次第に技法や素材を限定しないものとなり、画面にはその日その日の変化が多様に現れるようになります。
ラフに筆を走らせた日、手によってつくられた壺を思い、手だけで描いた日、自身の作品の切れ端や事前に準備した素材を用いた日、細かなコラージュを重ねた日、ボールペンで走り描いた日など。当初の田中の制作姿勢が「絵画にする」ことであったとするならば、その後の制作はあらゆる技法や素材を用い、様々なアプローチによって「絵画をする」ものであるように見受けられます。そして画面に起こる変化は田中の絵画に対する思考やアプローチの変遷として見ることもできます。
自身の感性に強く頼るのではなく、五感、記憶や経験、感情や体調、身体や道具、時間などのあらゆる要素を手がかりに続けられた「きょうの壺」の制作は、田中にとっていつしか自由を封じる制約ではなく、自分自身にかかっていた制約を検証する機会として、あるいは自身を支える「芯」のようなものとして位置付けられることとなります。
本展では2016年12月15日から年を跨いで、2017年1月15日までの32日間(1ヶ月の計算を間違えていたため)に渡って、田中が毎日「絵画した」痕跡である、「壺の絵」を展示いたします。
展示された32点の「壺」は、確かに毎日の連続した取り組みの結果であると言えますが、それらが昨日(過去)からのイメージの引用や、テクニックのバリエーションに陥ることなく、一つひとつの「絵画」として独立していることを見て取れます。これは田中が毎日「ゼロに戻る」こと。そして、そこから毎日「絵画をする」ことに真摯に取り組んだ記録であるといえるのではないでしょうか。