これまでおもに絵画作品を中心とした制作・発表に取り組んできた松井沙都子(まつい・さとこ/1981年大阪府生まれ)は、近年に「現在の日本の生活空間をテーマに、『空っぽ』な状況を体験的に見せるインスタレーション作品」を続けて制作しており、本展覧会もこうした試みの流れにあるものとなります。
松井はこれらを「現在の日本の生活空間を独自の観点によって解釈し、造形的に象ろうとする」ものとして、そこに「 1. 生活空間にまつわる表層の脆弱性 2. 身体感覚としての空洞 3.あるものが一定に留まらない状態 」という視点を据えています。
たとえば、現在の日本に暮らす私たちが日常的に目にするステロタイプな住空間は、おもに木やコンクリート、石膏ボードなどの建材(支持体)の表層に、ごく薄い壁紙や木目のプリントされた内装材を纏ったもので構成されており、そこに暖かな色味の照明器具(光)などが加わることによってひとつの風景を成しているものが多くあります。
つまり、私たちの住空間はこの薄っぺらい表層をはじめ、いくつかの定型的な素材や要素によって成立しており、私たちはそれらを原風景として日常を暮らす一方、その空間がいかに表層的な「空っぽ」であるかも同時に認識しています。また、壁や床などの建材に触れる私たちの身体は、それらが視覚と触覚にあって常に不整合をともなう存在であることも同時に認識しています。
住空間におけるこれらの不整合は、私たちの日常の脆さとともに、整合されることのない視覚と身体のあいまいさに対する認識のあり方に深く関わるものであり、そこに眼差しを向けることは、私たちの「不確かさ」や「曖昧さ」を少しだけ明らかにする行為であると言えます。
インスタレーションと写真によって構成される本展において、松井は一瞬の「空っぽ」を出現させようと試みます。それはまた私たち自身の「空っぽ」を映し出すとともに、それらを内包する私たちの在り処を問うものであるかもしれません。
ニュイ・ブランシュ KYOTO 2015 参加展覧会として、10月3日[土]は22時まで開廊。