2004年に大阪芸術大学を卒業、2006年に京都造形芸術大学大学院を修了した山本聖子（やまもと・せいこ／1981年・京都府生ま れ）は、これまで京都・東京での個展による発表の他、国際芸術センター青森でのレジデンス（2010年）、VOCA展出品（2011年）などに精力的に取り組み、六甲ミーツ・アート芸術散歩（2011年）にて公募大賞、東京ミッドタウンプログラム：ストリートミュージアム（2011年）にてアートコンペ・グランプリを受賞するなど、その作品は高い評価を獲ています。

　その代表作でもある、不動産の挟み込みチラシにある「間取り図」を丁寧に切り取り、ラミネートパウチして再度切り抜いた無数のパーツを再構成した一連の立体作品は、私たちの生活空間の無機的な画一性とともに、タテとヨコの線へと還元された「間取り図」が、なおも見せる有機的な美しさをあわせて見ることができるものです。また、2012年のGallery PARCでの個展「円の手ざわりはつるつるかざらざらか」では、その間取り図による作品のほか、「巨大な三角形が指し示す宙づりのアンパン」などによるインスタレーションを発表し、「内：外」あるいは「向こう：こっち」といった関係項に存在する「距離」「違和」「美の在り処」、そのリレーションを探るための空間を創出しました。

　手による作業を重視し、その過程で素材や展示空間のディティールを確認しながら、そこに状況や空間を創出してきた山本は、本展「白い暴力と極彩色の闇」では、初の試みとして映像作品5〜6点を展示いたします。これらは山本がレジデンスプログラムにより滞在したメキシコ（2013〜14年）、オランダ（2014年）での経験と思索を基に構想されたもので、作家にとって映像による作品制作は初の試みとなるものです。

　本展に際して山本が映像を表現媒体に選ぶに至ったのは、はじめて訪れた土地を手探りで知る中で、その記録としてビデオカメラをまわしたことがきっかけですが、その土地や歴史を知る中で、次第に山本の内に芽生えた疑問や違和感をテーマに、「見たもの・感じたもの」を「今」にリニアに出力し、広くリフレクション（反照）させる媒体として映像による表現が適していると考えたことが挙げられます。そして、「私の中にある明確な答えを他人に向けて表現するためのものではなく、私が世界や社会から受け取った何かをリフレクションすることで、なんらかの問いになることを期待してつくっています」として取り組まれた映像作品は、「いま・ここ」に至る山本の『解』ではなく、「これから・ここから」への『問』として発されたものといえ、そのために本展においては、ひとつのカタチを示す造形物ではなく、時間をともなう進行形の映像を表現素材としています。

「白」という色には純粋や潔白などのイメージがあり、世界中で様々な場面で使用されている。しかしそういった「白」の周囲には、同時に「排除された無数の色」が存在するのではなかろうか。ひとつの「白」を生み出す過程に起こる力を「白い暴力」と名付け、それについて考えた。
“ white ”についての解説テキストより

1年間メキシコに住んでいたとき、彼らの文化（例えば家、伝統的衣装、民芸品、伝統的絵画など）の中に、無数の色が使われているのを見た。それらは一見、とても華やかで美しいのだが、なぜか一方で表層的にも見え、私はその無数の色の後ろに“何か黒い闇のようなもの”を感じずにはいられなかった。
“ darkness ”についての解説テキストより

　“千里ニュータウン”という1970年の大阪万博に伴って開発されたニュータウンに育った山本聖子は、高層マンションが建ち並び、インフラの整備された街に暮らす中で、人間が生きているなら生じるであろう“手ざわり”や“におい”のようなものが全く感じられない目の前の世界が、どこを取っても無機質で、均質化しているように思えたといいます。
その風景の中で、五感が麻痺し、自分自身の存在が稀薄になっていくかのように感じたという山本聖子のこれまでの作品は、その違和感への自問自答、あるいはその正体に目を凝らす中で着想されといえます。
　広告チラシの間取り図を切り抜き、同系色のものを繋ぎあわせた「間取り図」の作品は、現実には様々な人の「生」が内包されているはずの「間取り図」を、単一色のタテとヨコの無機的な線へと還元するものでした。しかし、間取りを切り抜く際にはその裏面の広告や文字なども同時に切り取られるため、作品の裏面にはとりどりの色彩が溢れた、美しいカオスの様相を見ることが出来るものです。言い換えればそれは無機：有機、清浄：混沌のせめぎ合いの様であり、またその融合が見せる美しさを示すものであるとも思えます。
　2013年5月～2014年4月にかけて、ポーラ美術振興財団在外研修員としてメキシコシティに滞在した山本聖子は、その土地や歴史を知るなかで、目に見える風景の中（下）に覆い隠された「何か」を感じ、そこに違和感を覚え、いつしかそれは「白い暴力と極彩色の闇」というテーマに繋がることとなったといいます。
　2012年のGallery PARCでの個展以来、3年ぶりとなる本展「白い暴力と極彩色の闇」は、山本が帰国後に本展と新作について思考する中で制作されたドローイング（思考地図）をはじめ、メキシコ滞在中に制作された作品《“white”》 《“darkness”》や山本がソカロ広場でおこなったパフォーマンスの記録映像《 極彩色の闇 》、オランダ滞在時に制作された《 plastic soup 》 《 オランダに山をつくる 》、帰国後に制作された《 Unconscious 》の6点の映像作品で構成されます。これらの作品は山本聖子の制作の動機でもある「“世界”と“自分”の存在を確認するため」の方法であるとともに、目に映る世界を「私にはこう見える」とリフレクションすることが、自身と「いま・ここ」を含む社会に対する「問い」になると信じて制作されたものです。

トークイベント

■日時　3月15日16：30〜

アートマネージャーの内山幸子氏をお招きし、メキシコを中心とした山本のレジデンスでの経験や気づきを交えた「対話」によって、ここから先の見えないカタチの輪郭を探るトークイベントを開催。このトークイベントの中には、入り口部分に掲示された世界地図を用いて《 極彩色の闇 》に見られるパフォーマンスを会場で再演された。