2012年より「コトバとピクト」による作品展開に取り組んでいる大和美緒( やまと・みお/ 滋賀・1990 ~ )は、例えば『るんるん』というコトバ(文字)をひたすらに書き連ねることで、そこにあるピクト(図像)を描き現わします。
書かれるコトバはどこかポジティヴな印象のものである以外には特に決まりは無く、描かれるピクトは家のふすまのウラの柄、アルバムのジャケ写、ファッション誌のグラビアの一部、おもちゃにプリントされていたドクロの柄などが多く登場します。「見たいカタチとはまったくのオリジナルではなく、見たことあるカタチのすぐソバにあるイメージです」と語る大和にとって、それらは日常で目にし、自身の感覚に引っかかっていたものに端を発したものであり、それらの図像は展示空間と向き合うなかで描く場所やサイズを吟味し、決定されていきます。
また、大和が『書く:描く』ものには密接な関わりがあるわけではありませんが、「音楽に例えるなら、サウンドはキレキレで超絶カッコいいのに、それに反比例して詩の意味が恐ろしくダサかったりする。そのバランス感覚が、最高にカッコいいと思う」と語るように、異なる属性(文字と図像)に内在する要素を感じ取り、ひとつの画面・空間において、危ういバランスを保って関わりあうことが意識されています。
大和にとって初個展となる本展では、ガラス張りによるパルクの空間特性を活かし、1月初旬より2週間以上の会場制作を経て、窓ガラスに「コトバとピクト」がインストールされています。アクリル絵具を塗り重ねた窓ガラスに、熱したハンダゴテによって「るんるん」や「どきどき」、宮沢賢治の「ポラーノの広場」の一節、エスペラント語が書きつけられ、ファッション誌にあったジャケットの柄、服のタグ、CDのジャケ写、日食の図像などが混沌となっています。
ここではコトバはピクト、ピクトは空間に展開して一つとなって、鑑賞者の前に「ルミナスレッドの容貌」として存在しています。また、ガラスの持つ光の透過性を残した空間は、時間帯によって大きくその容貌を変化させます。
また本展では、これまでの作品に見られた紙やパネル、建築空間に鉛筆で「書く:描く」という絵画的なプロセスが、「彫る・削ぐ」といった、いわゆる彫刻的な要素を併せ持つものへと展開しています。それは、図像・空間へのマクロ的な視点とともに、ミクロ的には書かれたコトバの意味・印象だけでなく、彫られた文字のカタチ(彫り跡)の様相、あるいはその向こうの外界までを取り込んだ構造をつくり出しています。『書く:描く』ことで現われた空間を『読む:見る』うち、やがてそれぞれの行為や認識を超えた鑑賞体験ができるのではないでしょうか。