2019年
京成電鉄の車窓を撮影した写真(3チャンネルHDビデオ)/京成電鉄列車運行図表(平成7年4月1日改正)/プロジェクター
300x300x150cm
©️大洲 大作
「光のシークエンス」というシリーズは長い間続けています。シークエンスという言葉があまり耳慣れないかもしれませんが、いわゆるみなさんがシーンという言葉で想像されているものが実はシークエンスです。簡単にいうと「シークエンス」が一番大きな括りで、その中に「シーン」があり、シーンはさらに割っていくと「カット」といった捉え方になっていきます。自分自身の定義として考えているのは、時間軸の流れの中である程度の時間を持ったシーンの連続を「シークエンス」と考えています。写真の場合どうしても「瞬間」が1コマや1カットというものとして定着するのですが、僕はそれに若干の不自由さを感じていて。その瞬間の前後の時間・瞬間というものも見ていきたいし、見せることができたらということを常々思っていました。そこから、ひとつのシーンの「前後のシーン」も含めて、「シークエンス」として作品を組み立てていきたいと考えて制作しています。
三ヶ月に一度、撮り下ろした1~2コマの6×7cm判リバーサルフィルムを『シーン』としてお届けします。また最後の4回目では一年を通じてお手元に届いたフィルム全体を『シークエンス』として、その中からお好きなひとコマを選んでいただき、作家自身の手によるオリジナルプリントとしてお送りします。写真って複製やエディションがあるものとして捉えられると思うんですが、フィルムの一コマというのは現在は複製方法が非常に限られている状況で、その点ではフィルムのカメラが撮ったフィルムというものは世界で一点・一コマだけのオリジナルになります。今まではそのフィルムからつくったプリントをオリジナルとしていましたが、今回は試みとして、フィルムそのものをオリジナルの作品としてお手元に届けてしまう、ということを考えました。
普段、光のシークエンスのシリーズを見せている時は実際の車窓を使って、プロジェクターにより後ろから光をあてる、つまり透過光で見るということを体験していただいているんですね。これは、結局車窓を実際に見ている時というのも向こうから光がやってくる、それをもう一度、そのままのかたちで体験することができるというものになるんです。これが紙のプリントとなった途端に反射光で見るもの、向こうから光がやってくるものを見るわけではない、そのプリントに光が当たって跳ね返ってくるものを見る、という構造になるんですね。フィルムでできることというのはこの透過光で見るということをそのまま体験できるということです。もうひとつはどうしてもフィルムは小さいのでルーペを使って見ていくということが必要になりますが、ディテールを見つけていく、自分で車窓を見るように、もう一度そのフィルムの中の世界に入っていって、自分の見たいディテールを見つけていくということも可能になります。そういう構造としてのプリントではできない、フィルムだからこそできる透過光で見るという体験をしていただく、しかもそれは1点1点がオリジナルであるということを今回は試みとしてやってみたいと思っています。
大事なことがもうひとつあって、このプロジェクトは1年を通して見てもらう、1年を通して作家と関係性がつくられることだと思うんですね。なので、これから先の2020年から2021年というシークエンスを作家と一緒に見ていく、つくっていくことができるというのがコンセプトにあります。1コマ・1カット、あるいは1シーンではあるけれど、それがお手元に届いた時には購入者の方のシークエンスになっています。それを体験として1年間通して一緒にやっていただくというのは普段の展覧会ではできることではないので、それこそオリジナルの体験だと思っています。また、今回使うリバーサルフィルム、ポジフィルムというのは元々は印刷用の原稿に適したものとして、過去数十年間使われてきたものですが、現在では商業印刷の殆どがデジタル印刷であることから、フィルムは必要とされなくなっています。要するにリバーサルフィルムというシステムそのものがほぼ終焉していく状況にあって、その中でこういう試みができるのはタイミングとしてほぼ最後だろうと思っています。そういう意味でも2020年という時期を反映できればというところは副次的にはあります。
フィルムの大きさに限りがありますし、それをルーペだけで楽しんでもらうだけではなく、スタンダードの場合では1年間でおそらく10コマ程度のフィルムの中からお好みのものを選んでいただいて、1点はプリントしようと考えました。
撮影をはじめたのは5月ぐらいなので、初回発送分には5~7月くらいに撮ったものが届きます。車窓を中心としたものになりますが、今後の状況では公共交通機関に乗れなくなるということもあるかもしれません。その時にはどこかで自宅の窓は出てくると思いますが、それが2020年から2021年の僕が目で見ているもののシークエンスであるということです。また、途中でフィルムの現像が終了してしまう可能性もゼロではないですし。
僕が使っている今回のカメラの場合はフィルム1巻で10コマ撮ることができます。スタンダードはこれをバラバラにしたうちの数コマをお届けしますが、プレミアムではこの一連の10コマを丸ごと、4回お届けしようというものです。実はこれはすごく怖い行為で、フィルムはデジタルカメラと違うので、任意に「ここ失敗したから消そう」ということが一切できない。撮った順番そのままが全部残ります。だから、フィルムを見ると、その人が何を考え、どこをどう動いて、何の次に何を撮ったのかということがわかる、それが包み隠さず出てしまう。それはハードルが高いところではありますが、それをあえてやってみるということも面白いんじゃないかなと。もちろん失敗したり、なんやこれというものが出てくる可能性はあるけれど、それも含めて自分が撮っているプロセスなので、そのプロセスそのもの、僕が撮影している体験に近い体験をしてもらうことが、フィルム1巻なら可能になります。また、最後に4回分40コマのフィルムから、ご自身の『シークエンス』を編んでいただくことで、オリジナル・プリントで構成した世界に一冊だけの写真集をつくります。
今回、PARCを一旦閉めるということになって最初に中止となった展覧会が自分の個展でした。DMも出来ていたぐらい直前で中止を決めました。ただ、展覧会という同時代性はとても重要だと思うけど、そういう意味では今回のプロジェクトは、時間軸を入れられるという点では、展覧会とは違った同時代性、コンテンポラリーであるということが意識できて、それはすごく面白いと思っています。