2020年はコロナで中止になった展示もあり、また自身の環境の変化など、思うように制作と発表ができていませんでした。コロナで外との繋がりも希薄な感じが続いている中で声をかけて頂いたので、作品を通して何かしら繋がれる機会を嬉しく思いました。
ただ、プランとして最近に取り組んでいる「Transit」シリーズをと考えていましたが、この作品はすぐに思う材料を用意できないという面や、出来てみないと分からない部分があり、考えるのにちょっと悩みました。
4回のお届けを通して1作品と考えてやってみようと思いました。展覧会では展示空間での構成を考えていますが、[m@p]ではお届けする順番を意識して構成しました。
「Transit」シリーズは、木の片面にまずシルクスクリーンでイメージを刷り、そのインクが木の毛細管現象によって吸い上げられ、もう片面に現れてくるというものです。
用いるイメージは「どこかで見ているかもしれない」という可能性や「受動的に見る経験」を得られるものであることが大事なように思っていて、これまでもテレビ画面を撮影したものなどを用いてきましたが今回は「映画」と括ってやってみようと思いました。なので、購入者の方に映画に関する質問をして、それを元にやってみたいなと。また、「あの映画のこの部分かもしれない」といった可能性が生まれたら、購入者の方のイメージに対する親密さも生まれるんじゃないかとも思いました。また、この作品は特にプロセスも大事だと思っているので、そのプロセスも含めて展開してみようと考えました。
あと、「Transit」シリーズでは作品未満の端材がたくさん出ます。中には気に入っているものもあり、何か作品とは違う形で還元できないかなと考えてました。[m@p]プロジェクトは、作家への支援としても捉えられているので、その“印”としてお届けしようと思いました。
2016年頃までは綿布を支持体にした平面作品「Stain」シリーズを制作していました。これは最終的に、時間をかけて滲みを広げて像を作っていくような作り方になったのですが、その制作プロセスにある現象や時間といったものに強く魅力を感じていました。ただ、そこに起こる現象や、滲みでインクが動いていく時間に魅力を感じているのに、最終的な平面の形式だとそのプロセス部分が見えにくくなっている気がして、なんとかならないものかと悶々としていました。
そんな中で、気分転換にちょっとした家具や棚を作るのが好きなのですが、ある時に木のテーブルを制作していて、「木ってめっちゃ塗料吸うよな」って思ってホームセンターで小さな輪切りの端材をなんとなく買いました。木は水を吸い上げる導管が縦に走っていますよね。だから、今までの平面上でのインクの移動を、木なら“奥”へと向けてできるんじゃないかと、色々な種類のインクや木を使って1年くらい試行錯誤しました。
最初にホームセンターで買った端材の中で白樺が見込みがありそうで、ネットで白樺の輪切りを探しましたが、マイナーな樹種でしかも輪切りとなると全然ないんですよね。自分で作ろうにも、白樺はよほどの高地か北海道くらいでないと生えてませんし。そんな中、たまたま見つけた北海道の小さな木材屋さんが少し持っておられたので、そこの在庫を全部を購入しました。それで色々と実験できたのが大きかったです。
まずはどうしたらインクが吸い上げられ、どのようなイメージとして出るかというのを1年くらい試していましたね。
それまでの平面作品の支持体だった紙や布にも厚みがありますが、せいぜい1~2ミリで、それに比べると数センチという木の厚みは途方もないように思いました。だけど、うまくいかない中で木の中という見えない領域を魅力的にも感じてました。
それと並行して、杉やヒノキなど手に入りやすい木でも試しましたがうまくいかなかったです。桜や銀杏・椿など手に入った樹をとりあえず試して行きましたがダメでした。それに、同じ白樺でも福井で仕入れた木はあまりうまくいきませんでした。同じ樹種でも産地や乾燥過程など色々と影響しているようです。
最近になって、伐採から乾燥までをお願いできる北海道の木材店が見つかり、作品用に特別に作ってもらっています。また、伐採したてのものを送ってもらい、自分で材料作りもやっています。チェーンソーやカンナなど、いつの間にか木材加工の道具が充実してきました。(笑)
木は乾燥に時間がかかり、伐採できる時期も決まっていたりするので、先読みして仕込んでおかないといけないのがこの作品の難しいところです。
ある程度、これなら出るだろうという木で制作を行ないます。それでも個体差があってインクが通りにくいものや、反対側に出る像や色の出方にかなり違いがあります。あまりイメージが明瞭すぎても“それ”でしかないし、「受け手にとっての自由度」や「色や像のバランス」を主観的に見て作品になるかどうかを決めています。なので一発で作品になるということは稀で、いくつも制作して、その中から選ぶということになります。作品にはならないけど、色はとても気に入っているから残しておいたり、そういう作品未満のものがたくさんあります。今回はそういうものの中からカットした端材を、購入作品とあわせてお届けしようと思いました。
「Transit」シリーズでは、木の片面にまずシルクスクリーンという技法で、イメージを刷ります。これは元の画像を自分なりの方法で3色のドットに分解したもので、このイメージを紙に刷ったものを小作品として2回目にお届けします。ただこれは最終的にお届けするイメージとは限りませんが。
制作プロセスとしてイメージを選ぶ際のエスキースの役割もあるのですが、それ以上に見えていない部分、木の中で起こっていることを想像するきっかけにして欲しいなと思っています。
動画作品 参考イメージ
プレミアムは「木の実物作品」と、そのプロセスである「インクが滲み出てくる様子を撮影・編集した映像作品」がセットで2作品分が届きます。映像はプレミアムにしかつきません。
プレミアムでもお届けする順番は意識しました。まずはどのようなイメージか分からない真っ新な状態で映像をお届けし、その後に木の実物作品をお届けします。
また、スタンダード版より作品サイズも大きくなります。後半にお届けする作品は、スタンダード同様購入者の方への質問を元に制作します。
林 葵衣さんのプランはコロナ禍の状況で訴えるものがあるなと思いました。
あと、山岡さんの作品が結構好きなのですが、スタンダード版めちゃお買い得だなと思います。