Park Sunhwa


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Statement
2018年から始まった韓国全羅南道松廣寺「華嚴經變相圖(国宝314号)の模写事業を進める若きスタッフ達に、模写技法や材料等の指導・助言に当たる機会を得た。 しかし、コロナ禍によりこれまで容易に往き来できた韓国が、思いのほか遠い存在となった。
目に見えないウイルスが、長い年月伝承されてきた文化や、それを支える技術などにも影響を与えるとは夢にも思わなかったが、幸いにも何とかその任を果たすことができた。
そして、この希有な経験は、私自身が文化を伝えるためにどのような役割を担えるのか、あらためて考える契機となった。
本展では、文化を「伝える」ことの難しさや意味について、自問自答しながら取り組んだ今回の模写事業に関わる作品等を中心に展示いたします。
About
朴善化(ぱく・そな)は、2000年に京都市立芸術大学美術研究科修士課程研究留学生として来日、2005年同美術研究科修士課程保存修復専攻修了、2009年同博士課程美術専攻(保存修復)領域修了、以後もおもに日本・韓国で仏教絵画の制作・保存修復に携わっています。
仏教の教義や思想・世界観を物語るとともに、信仰の場において人々が祈りや想いを捧げる対象としてあらわされた仏教絵画は、制作当時の貴重な素材や高度な技術が用いられて表現されています。しかし膠をはじめ、顔料や紙や布などの自然由来の材料の多くは、その物質的な性質から経年変化するものでもあります。そのことから、仏教絵画は託された祈りや想いを表すための技術のみならず、それらを永く未来に伝え・残すための保存・修復の技術とともに発展してきたともいえます。つまり、永い歴史の中で表現として深められた仏教絵画は、同時に高められてきた保存・修復の技術によって現在にまでその姿をとどめることで、今と往時の人々の想いを伝え・結ぶ役割をも果たしているといえます。
朴は韓国高麗時代から朝鮮時代に至る仏教絵画の模写に取り組むなかで、描画技法の研究だけではなく、和紙や藍などの素材、保存・修復の技術や社会で果たす役割などについて熱意を持って研究してきました。朴は、かつて描かれた線を筆で辿り、往時の材料や技術を知るなかで、描いた人やその表現だけではなく、絵や素材に託された多くの人の想いを受け取り、共有しようとしている自分に気付くようになったと言います。
2018年の個展『想い』、2020年の個展『結ぶ』に続き、およそ3年ぶりの開催となる本展『伝える』は、約3m×2mにおよぶ《廣徳寺『阿弥陀如来仏』現状模写》などの大型作品とともに、2018年以降に朴が制作したおよそ30点あまりの作品によって構成します。ここには2018年から始まった韓国全羅南道松廣寺「華嚴經變相圖(国宝314号)」の模写事業の指導・助言に当たることとなった朴が、コロナ禍により容易に往き来ができない中で現地のスタッフ達に模写技法や材料特性などを「伝える」ために制作したものも含まれます。
今も日本・韓国を往き来しながら、仏教絵画の模写・研究に取り組む朴は、自らの手を動かすことで、作品に託された想いに気付き、人や文化の結びつきを感じ、またそれを伝えることの難しさと意義を改めて感じたといいます。
本展展示作品からは、その卓越した技法や技術とともに、「人と人」が結び・伝えることの意義についても想いを馳せていただければ幸いです。
作家情報について詳細はこちらよりご覧ください。 >Artist info