『すべ と しるべ』 は、展覧会という形式を表現と社会の接点として捉え、現在とこれからの社会状況の中でより有効に起動させるため、新たな可能性を模索するプロジェクトです。
表現(すべ)を社会に向けてひらく標(しるべ)である「展覧会」は、鑑賞者が作品と空間・時間をともにする「体験」の場であるといえます。しかし、それゆえに展覧会という形式は、これからの社会状況においてアクセシビリティそのものを低下させる側面もあります。また、デジタルによるオンライン展示などは、まだこの体験の代替機能としては不十分であるとも考えます。だからこそ、これからの「展覧会=体験」の創出には、これまでの方法とともに、異なる思考・方法を採り入れた変化が必要ではないかと考えます。
本プロジェクトでは、展覧会を「つくる・ひらく・のこす」の関係性から検証します。体験を直接の鑑賞に限定し、記録(写真やテキスト、映像など)をその補完物として残すのではなく、記録が新たな体験を「つくる」こと、そこに観賞を「ひらく」ことに重点を置き「のこす」ための方法(すべ)の開発を目的としています。
2020年、京都府南丹市八木町に残る築400 年を超える酒蔵「旧八木酒造」を会場に、染織作家・むらたちひろ / 美術作家・友枝望の2 名のアーティストが滞在・制作し、それぞれ3日間だけの展示公開を行なった。これをもとに制作した写真・テキストによる記録と、展示をもとに制作した映像を公開します。
友枝望:残影の残光 / afterglow of vestige
友枝望は現地でのリサーチによって場や物事から「相対性や類似性」を発見し、そこに「行為を加える」ことで、鑑賞者に「観察や検証の対象」を提示します。しかし、広島を拠点とする友枝にとって、自粛期間などによりそのリサーチは資料を中心としたものとなり、作品制作は10月末からの長期滞在中に行なわれることになった。
枯れた桑、繭づくりをはじめない蚕、想像だけでつくりはじめた桑酒、山中で松茸を探しまわる映像とスーパーで購入した外国産の松茸、季節はずれの鮎に代わって、昔は来客用の便器として使用されていたらしい鉢に泳ぐハヤによって構成された《 Misalignment 》は、かつて地域で盛んであった「松茸狩り」や「鮎狩り」、養蚕から転じた「桑酒づくり」の記録をシミュレートしようとしたもの。《 Ritual 》は、酒造の竈門の煙突に幾重にもなるお札に新たな一枚を重ねるため、自ら愛宕山にお参りに行った映像。《 afterglow of vestige 》は、古い記録写真と同じ場所の現在の様子をフィルムにプリントして重ねるとともに、丹羽杜氏の「酒づくり唄」を「音楽」として、タップダンスによる拍子に分解・再構築したインスタレーション。倉庫に眠っていた大量の品々をひとつひとつ観察・分類・配置しなおした《 Alignment 》。
友枝は酒蔵や地域に残る記録や記憶に、「まねる」「なぞる」「並べなおす」といった行為を加えることで、見るだけ・聞くだけだった情報を自身の体験に転換した。そして、それらは鑑賞者の眼差しを引き込む対象なって、決して上手いとは言えない鼻唄のように、いつまでも注意を惹きつける。
企画・構成:正木裕介(ギャラリー・パルク)
主催・制作:グランマーブル ギャラリー・パルク
会場:オーエヤマ・アートサイト
助成:京都府文化力チャレンジ補助事業
#02
残影の残光 / afterglow of vestige
友枝望 | Tomoeda Nozomi
会場公開日:2020年 11月14日(土)・15日(日)・ 16日(月)
協力:米沢直(タップダンス)、黒田大地、 JUJU スタッフの皆様、秋田家の皆様、
今村 達紀、オーエヤマ・アートサイト[会場提供]
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