景 風 趣 情
「景」「 風」「 趣」「 情」 という4つの文字。それらから作られる「風景」や「情趣」といった熟語。これらの文字や熟語は、仮に一般的に用いられることのない「趣景」や「情風」といった熟語を作ったとしても、それぞれに意味の広がりを感じさせます。
その意味の広がりを粗描するのなら、それらは私たちと同じ時間・空間の中にある物や出来事に対して私たちが抱く感情や感触を表すものだと言えるでしょう。外界の世界とは隔たった場所で生じる私たちの主観的な心の動きでも、事物の客観的な描写でもなく、外界の対象とのつながりの中で私たちが抱く感覚。4つの文字やその熟語は、いくらかのニュアンスの違いを持ちつつも、私と世界との「間(あわい)」に生じる感覚を指し示すものであるのです。
さて、いま記した「私と世界との間(あわい)に生じる感覚」こそ、本展の中心にあるものに他なりません。風景に触れているときの経験を分析的に取り扱うことや、風景の中にある言語化される以前の移ろいゆくイメージを捉えること、さらには日常的な事物や出来事を抽象化し、その本質を抜き出すこと。出品作家たちはそれぞれの仕方で世界の在りよう感知し、作品を制作します。そしてその上で、作風の異なった作品同士を緩やかに結びつけることを試みます。
本展の出品作家たちの試みは、湯川秀樹(理論物理学者)の言葉『現実の根底にある自然法則に気付くのは達人で、現実の根底にある自然の調和に気付くのは詩人である』とつながるものであるでしょう。「景風趣情」という言葉をキーワードとし、「私と世界の間に生じる感覚」を手掛かりに制作される作品を組み合わせることで、伊藤存、小川智彦、ニシジマ・アツシは、湯川の言う「詩人」のように、「現実の根底にある自然の調和」を感取できる空間を作り出すことを目指します。
「 景 風 趣 情」プロジェクト