2016年に京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻構想設計を修了後、京都を拠点に活動する前田耕平(まえだ・こうへい/1991年・和歌山生まれ)は、人と人、人と自然などの物事の「関係・距離」に興味を向け、自らの身体・体験を手がかりに、これまで映像やパフォーマンスなど様々なアプローチによる探求の旅を続けています。「この過程で巻き起こる現象を作品と呼ぶことにする。」とする前田は、こうした作品制作のみならず、南方熊楠(みなかた・くまぐす/1867 -1941年/博物学者、生物学者、民俗学者)の思想を巡り、多くの人と対話をおこなう“まんだらぼ”プロジェクトや、アーティスト・宮坂直樹と立ち上げた文化機関「Midnight Museum」により、展覧会キュレーションに取り組んでいます。前田は作品・展覧会・ パフォーマンス・レジデンスで訪れた土地などを、人や物事との出会いや関係が生じる「場」として捉え、そこに起こる様々な事象を作品へとリレーションさせる、まるで「運動」のような制作プロセスにより、多様な活動を見せています。
本展において前田は、この距離への思考を「内と外」あるいは「部分(一部)と全体」といった構造に置き換え、その狭間に起こる事象を捉えようとしています。
例えば、建築物を全体と捉えると鑑賞者はその内部に在り、また全体の一部としても捉えることができるでしょう。あるいは建築物の外に世界は在り、建築物は全体の一部と捉えることもできるでしょう。こうして、内に内に、外に外にと視野や感覚を広げた時、「内と外」「部分(一部)と全体」の狭間にある距離とは何を指すのでしょうか。またそこに距離は存在し得るのでしょうか。そして、その視点である自分はどこに存在するのでしょう。
本展で鑑賞者は、俯瞰して見ているのものに近づき、さらに内へと視点を進めることと、等身大の視点から離れ、俯瞰で眺める視点を繰り返し体験することになります。それはまた、自らが部分(一部)であることと全体であることが入れ子となる体験を繰り返すことでもあり、その中で次第に極や境界、距離、あるいは自分の消失を体験することになるかもしれません。
会期初日となる2018年11月9日(金) 18:30より【オープニング・イベント】として、パフォーマンス[ 前田耕平×大巨人 ]を開催します。暗闇となった展示室の中で、ストリートパフォーマーの大巨人が発するドラムの音と、前田の身体表現により、誰にも見えないパフォーマンスが行なわれます。二人のパフォーマンスから引き剥がされる残る「一部」は、会期中の会場に痕跡として「不在」を示します。