神馬啓佑(じんば・けいすけ/1985年・愛知県生まれ)は、2009年に京都造形芸術大学美術工芸学科洋画コース卒業、2011年に京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術表現専攻を修了し、在学中から個展・グループ展に積極的に参加、2016年に『VOCA展 現代美術の展望-新しい平面の作家たち-』(上野の森美術館、東京)に出品、同じく2016年に『肉とヴェール 清田泰寛・神馬啓佑 二人展』(京都芸術センター)に出展を重ねるなど、近年注目を集める画家です。
これまで神馬は、美術史上の作品を熱心に研究するとともに、絵具が乾ききらないうちに指で即興的に描く作品や、描いた画面の上からメディウムを塗り、その表面を光沢が出るまで磨き上げた作品、線を描く代わりにマスキングテープで型取り、版画のように線や色を重ねていく作品など、多様な制作手法を用いた絵画作品を展開してきました。一方、描くモチーフや画題に関しては、初期から一貫して彼のごく個人的な感覚や経験、エピソードなどを出発点としており、近年は眼鏡やイヤホン、ベルトなどの自身の愛用品や所有物をモチーフに、それらを大画面に描いたシリーズ作品を発表しています。神馬はそれらを描く理由について、「自身の経験とモノの関係や時間」を描きたいと強く考えるようになったためであるとしています。
神馬は現在、「所有物」のシリーズから発展し、「出来事」をモチーフに描く新作に取り組んでいます。本展「当然の結末#2」は、彼が京都~東京間を旅した、昨年のある3日間の経験を描こうとするものであり、サブタイトルとなる「(鑑賞と干渉、言語能力、円周軌道)」は、その3日のうちに出会った景色や人物、体験などから抱いた彼自身の印象や連想を端的な言葉にしたものです。
これまでよりも長い時間軸や、自身の体験と記憶との関係など、多くの情報を含む「出来事」をテーマとするにあたり、神馬は、時系列に沿うスナップやストーリーではなく、「図解」という表現手段に着目します。「図解」が、”説明的なだけでなく造形的である”とともに、“情報が無限に広がる中で「個人的に整理し要約する」ような行為である”と考えるようになった神馬にとって、それは次なる作品展開への糸口であるとともに、「絵を描くこと」自体に対して新たな気づきを与えるものでもありました。
本展において神馬は、「図解」から着想を得た表現・作品展開に挑むとともに、テキストや展示上のしつらえなどの要素を積極的に取り込み、絵画をめぐる様々な関係性をこれまで以上に広く捉えた展示に臨みます。そこでは、彼が長年にわたって探求してきた「絵を描くこと」と同じように、極めて個人的な体験である「絵を観ること」についてもまた、私たちに新たな気づきをもたらす場所ともなるのではないでしょうか。