朴 善化(ぱく・そな)は、2000年に京都市立芸術大学美術研究科修士課程研究留学生として来日、2005年同美術研究科修士課程保存修復専攻修了、2009年同博士課程美術専攻(保存修復)領域修了、以後もおもに日本・韓国で仏教絵画の制作・保存修復に携わっています。
古来、大陸や朝鮮半島から日本にもたらされた仏教絵画は、おもに信仰の場において人々の祈りの対象として、あるいは仏教の教義や思想、世界観を表わすものとして制作されました。それらには制作された時代の貴重な素材・高い技術など先人の知恵が込められ、今日まで大切に受け継がれてきました。しかし人々の祈りの対象として永い時間信仰の場にあった仏教絵画は、紙や布に膠(ニカワ)を接着剤として天然の岩石などで描かれている物理的な特質から、常に傷みや破損・劣化にさらされてきました。それ故に仏教絵画は次の時代に伝え・残すため、保存・修復の技術も同時に発展してきたとも言えます。
朴は現在まで受け継がれてきた和紙や藍などの素材や材料、保存・修復の技術を熱心に研究する傍ら、生まれ育った国の文化財である韓国高麗時代から朝鮮時代に至る仏教絵画の模写にこだわって制作を続けています。朴は、描かれた線を手に持った筆で辿るなかで、その絵を描いた人の事を考え、その仏画を描いた場所や情景などを「想い」、それを共有しようとしている自分に気付くようになったと言います。また、それは自身を深く見つめるための「想い」の時間でもあるとも言います。
「絵」はそれが成されるにあって、紙や筆、絵具などの材料と描き手の眼と手のそれぞれが必要不可欠であるといえます。朴はまず自身が納得のいく絵を描くために、多くの仏教絵画を自身の眼と手で確かめ、紙・道具・画材の違いを知り、描き手の線を模写することで追体験し、その技術と想いを知り研究を深めています。また、その中で絵を描くこと、それを次の時代に伝え残すことには、描き手だけではなく多くの人たちの想いや取り組みが必要であることを知り、それらの想いを含めた継ぐこと・残すことへの探求を続けています。⦆
今日の美術にあって「描く・残す」という行為が、『今という瞬間の私の想いや感性が消えてしまわないうちに、残し標す』ことに傾斜するなかで、『今を残すことが過去と未来を繋ぐ』ことに視点を据え、そこに「私」ができる範囲でひたむきに関わる朴の取り組みを見て・知ることができる本展では、「描くこと」「伝えること」が持つもうひとつの主体や本質を想うことができるのではないでしょうか。