森太三は、粘土や紙片などの身近な物質に、手による単純な繰り返しの行為を加え、それらを集積することで空間をつくります。
粘土を纏める、紙片を切る、粒を連ねる、木々を積み重ねる。
無機的な素材への単純な行為の集積によってつくられた空間は、雨の降る寸前の雲間のような(「空を眺める」2011 ギャラリーwks.)、波の打ち寄せる海岸ような(「記憶と気象」2013 ギャラリーパルク)景色を空間に出現させます。また、それらは鑑賞者の記憶や経験と混ざり合って、時に晴れ間の覗く雨上がりの雲や、あるいは上空からの天気図に見る雲のように、それぞれの目の前に異なる情景ともなって広がるものでした。森太三は特定の何かを空間につくるのではなく、鑑賞者の中に「何か」が起こるための「空間をつくる」ことを作品として提示しているといえます。
Gallery PARCでは2年ぶりとなる森太三の個展『転用と配列』は、そうしたこれまでの作家の仕事の延長線上に位置したものといえますが、そこには近年の森の興味と視点を見ることができます。「六甲ミーツ・アート芸術散歩2015」に出品された作品《関係のベンチ》(2015年度公募大賞 グランプリ受賞作品)は、森によってカラフルな無数の木々が立方体に集積・積層されたものであり、六甲山上の眺望スポットである「六甲枝垂れ」付近に置かれたものでした。
そして、それはアートイベントとの関係性において「作品」と呼ばれ、眺望スポットである場との関係性において「椅子」として使用され、目に入る景色の一部としては「箱」と認識されてその場に景色をつくるものでした。また、それは鑑賞する者が前に佇めば周囲から「作品」として鑑賞され、腰掛ける者がいれば皆に「椅子」として座られる。ここでは鑑賞者が作品のあり方を変容させるとともに、そのことが新たな景色を周囲につくりだしていくものでした。
これは、「空間をつくる」ことで鑑賞者の中に様々な景色や情景が立ち上がることを目論見としていたこれまでの作品より、鑑賞者の見立てや振る舞いを景色(作品)の一部として積極的に取り込むことで、作家の目論見を超えて作品がそのあり方を転じていくことに主眼が置かれたものであったといえます。
その視点のあり方は、森が展示構成・設営やデザインなどをおこなう別名義として2014年に設立した「studio森森」(みずのき美術館での展示構成、みやこめっせ(京都)やギャルリ・オーブ(京都)での「共生の芸術展 DOOR」展、芦屋市立美術博物館での「チェコ絵本をめぐる旅」展などでの什器制作・設営などを担当)の活動とも関わるもので、森は《関係のベンチ》について、『保管のために庭先に置いていたこの作品を、美術館では什器として置き、山の上では椅子として置く。それだけで、作品が手を加えることがなくとも、置かれる場所や人との関わりによってどこか異なるものに転じていくことが面白い』と言います。森の現在の興味は、作品が空間や鑑賞者を転用させることだけでなく、空間や鑑賞者がまた作品を転用させること、また、その反復において作品が作家の目論見を超えて転じていく様を見つめることにあるといえるのではないでしょうか。
本展「転用と配列」には、この《関係のベンチ》をはじめ、「チェコ絵本をめぐる旅」展で什器となっていた《色相の椅子》やドローイングなどの作品だけでなく、森がこれまでの制作や仕事で用いた大量の木材が会場に運び込まれます。ここで森は丁寧に材と空間の関わりを見極めながらギャラリー空間に構造物を仮設します。本展において森太三のつくりだす景色、鑑賞者それぞれにとっての情景との出会いをお楽しみいただくとともに、あるいは思い思いに過ごす鑑賞者を含めて、空間がさらなる「何か」に転じる体験をお楽しみいただければ幸いです。