門田訓和(かどた・くにかず/1985年・岐阜県生まれ)はこれまで、「表象としての彫刻」を探求してきました。たとえば2011年から今日まで断続的に手がけられてきたカラーペーパーを用いたシリーズは、台のうえに複数枚のカラーペーパーを準備し、重ね方や配置を変え、その様子を多重露光によって撮影することで作られるものです。色彩の美しいそのシリーズは、耽美的な写真作品として鑑賞できるほどの美的感覚を備えています。しかし門田の関心は、結果として生じる美しさにあるのではなく、その美しさを作り出している原理へと向いています。二次元のカラーペーパーによって、淡い立体感や奥行きの感覚を作る。あるいは折ったり皺を付けたりすることでカラーペーパーの物質感を強調しつつ、同時に、それらを多重露光で撮影することで実体性を欠いた半透明のイメージへと変える。ここで門田はカラーペーパーを、二次元と三次元とを、あるいは物とイメージとを往還するものへと転換し提示しているのです。
彫刻という行為が、作家が物に介在することで形態の変容を及ぼし、物に新たな立体感や空間との関係性を与えるものとするのなら、門田のこのシリーズは、彫刻が立ち上がる瞬間を記録するものだと言えるでしょう。物質感や立体感をあらかじめそなえた粘土や石膏といった彫刻におなじみの素材ではなく、物質感が乏しく平面的なカラーペーパーを用い、また、どのようなものであっても物体として認識される現実空間ではなく、写真という表象空間の中で作品を作り上げておきながら、それでもなお、そこに立ち現れる立体感や空間性。先に「表象としての彫刻」という言葉を用いたのは、門田の作品がこうした感覚を与えるからに他なりません。
さて、本展において門田は、これまでの制作上の関心を引き継ぎつつ、新たな展開を見せます。本展にカラーペーパーのシリーズとともに出品されている新作群においては、従来の作品を特徴付けていた色彩の美しさが後景へと退き、その代わりに紙や銅板といった可塑的な素材に残された門田の行為の痕跡が、はっきりと示されています。また、従来の作品が写真作品として壁面に掛けられていたのに対し、本展の出品作品は、棚に置かれたものも含みます。
行為の痕跡と物体感。我々が彫刻と呼ぶ作品から看取してきたこれらの感覚を、一般的な彫刻の形式からかけ離れた彫刻ならざるものをとおして、鑑賞者へと差し向ける。そのような門田の出品作品は、「彫刻とは何か」・「彫刻を見る経験とはどのような経験か」という問いを照射することになるでしょう。
本展コーディネーター
安河内宏法(京都工芸繊維大学美術工芸資料館特任助教)